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米中首脳会談に合わせて、台湾総統選で野党連携を表明

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
米中首脳会談(写真:ロイター/アフロ)

 日本時間16日早朝、サンフランシスコで米中首脳会談が行われた。習近平国家主席がバイデン大統領に何と言ったのかが「人民日報」電子版「人民網」に詳細に書いてある。それを着実に読み取り、習近平が何を考えているかを考察する。

 米中首脳会談にピタリと合わせて、台湾では野党が連携を組むことを発表した。これにより米国はこれまでのように「台湾有事」を煽ることができなくなる。習近平には圧倒的に有利な形勢が生まれつつある。

◆習近平の発言から中国の対米姿勢の本音を読み取る

 11月16日7時28分、中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」は、<習近平国家主席とジョー・バイデン米大統領が米中首脳会談を開催>という見出しで、習近平の発言を詳細に伝えている。これを通して習近平が米中関係をどうしたいと思っているかが鮮明に浮かび上がってくるので、先ずは、習近平の発言を忠実にそのままご紹介する。最後まで一気に翻訳だけを書くと、途中でイライラする個所が出て来るようにも思われるので、( )の中で筆者注として解釈を加筆することにした。「筆者注」と明記してない場合も、わかりやすいように筆者が( )内に加筆した場合もある。

  以下は習近平の発言である。

 ●世界は100年に一度の大変革を遂げており、中米には2つの選択肢がある。一つは、団結と協力を強化し、地球規模の課題に協力して対処し、世界の安全と繁栄を促進する選択である。もう一つは、ゼロサム精神を信奉し、陣営対立を煽り、世界を混乱と分裂に導く選択だ。二つの選択は、人類と地球の未来を左右する二つの方向性を代表している。

 ●世界で最も重要な二国間関係として、中米関係はこのような大きな背景の下で検討し計画されるべきである。中米がお互いに話し合わないのは良くないことであり、互いを変えたいと思うのは非現実的で、紛争と対立の結果には誰も耐えられない。 大国間競争は、中米そして世界が直面している問題を解決しない。 この地球は、中米二つの国を同時に受け入れることができる(筆者注:中国と米国という二つの国が地球上で対等に並存するということが可能だ、の意。すなわち米国に対して「米一極支配をやめれば、中国の台頭を潰そうとしなくて済むはずで、そうなれば世界は平和になる」という意味)。中米の成功は、お互いにとってのチャンスとなり得る。

 ●中国式現代化の本質的な特徴とその含意的な意義、および中国の発展見通しと戦略的意図を深く掘り下げて説明したい。中国の発展には独自の論理と法則があり、中国は中国式現代化により中華民族の偉大なる復興を全面的に推進しているのであり、中国は植民地的略奪のような過去の(筆者注:欧米がやったような)歪んだやり方はしないし、強国になれば覇権を握るようなこともしない。またイデオロギーの輸出もしなければ、またいかなる国ともイデオロギーによる対抗もしない。(筆者注:米国は全米民主主義基金NEDにより「民主主義の輸出」すなわちカラー革命を試みて世界中で対米従属的ではない国家の政府転覆をしてきたし、今もし続けているが、中国は「共産主義の輸出」は試みない。ただ単に中華民族がかつて帝国主義列強によって植民地化された状態から抜け出して中華民族の復興に向けて努力するというのが「中国式現代化」の精神であるということを言っている)。何よりも、中国はアメリカを凌駕しようとしたり、アメリカに取って代わろうという計画もないので、アメリカも中国を抑圧し封じ込める意図を持つ必要はない。

 ●相互尊重、平和共存、ウィンウィン協力は、50年にわたる中米関係から練り出された経験であるだけでなく、歴史上、大国間の対立がもたらした啓発であり、中米がともに努力すべき方向性であるべきだ。そうすれば、両国は違いを乗り越え、二大国が友好的に共存する正しい道を見つけることができる。昨年のバリ会談で、米側は「中国の体制を変えようとせず、新冷戦を求めず、(日本やオーストラリアなどの)同盟国との関係強化を通じて中国に対抗しようとせず、『台湾独立』を支持せず、中国と衝突する意図はない」と述べたではないか。今回のサンフランシスコ会談で、中国と米国は新たなビジョンを持ち、中米関係の5つの柱を共同で構築すべきである。

 一、正しい理解を共同で確立する。中国は常に、安定的で健全かつ持続可能な中米関係の構築に努力してきた。同時に、中国には守らなければならない利益、守らなければならない原則、そして守らなければならないボトムラインがある。両国がパートナーとなり、互いを尊重し、平和的に共存することが望まれる(筆者注:中国が成長してきたので「けしからん」として、中国を潰そうとするようなことをするな、という意味)。

 二、ともに違いを効果的に管理するために協力する。意見の相違を利用して両国間の溝を煽るようなことをしてはならず、両国の間に橋を架けるために努力すべきだ。 双方は互いの根本原則を理解し、(制裁などを科して)虐めたり、挑発したり、一線を越えたりせず、もっとコミュニケーションを取り、もっと対話し、もっと相談し、違いや(偶発的)事故(や衝突)に冷静に対処すべきだ。(筆者注:この後半に関しては「お前が言うのか」という感想を抱く読者が多いだろうと思う。三期目の習近平政権が最初に国防部長とオースティン米国防長官との対話を阻んだのは、国防部長に敢えて米国が個人的制裁を加えている人物を選び皮肉を込めていたのだが、その国防部長を腐敗容疑で更迭してしまったので、新たな「皮肉」が生まれている。今は身体検査に時間がかかっている。)

 三、互恵的な協力を推進すること。 中米は、経済・貿易、農業などの伝統的な分野から、気候変動や人工知能などの新興分野まで、多くの分野で幅広い共通の利益を共有している。 双方は、外交、経済、金融、通商、農業の各分野で回復または確立されたメカニズムを最大限活用し、麻薬対策、司法法執行、人工知能、科学技術の分野で協力を実施すべきだ。

 四、大国としての責任を共同で負わなければならない。 人類社会が抱える課題の解決は、大国の協力と切っても切れない関係にある。 中米は模範を示し、国際的・地域的課題の協調と協力を強化し、より多くの公共財を世界に提供すべきだ。 双方が提唱するイニシアチブは、互いに開放されているべきで、相乗効果を形成するために調整し、力を合わせることさえできる。

 五、人的交流を共同で推進する。 両国間の直行便を増やし、観光協力を促進し、地域交流を拡大し、教育協力を強化し、両国間のより多くの交流を奨励し、支援する必要がある(筆者注:渡米したい中国人留学生を制限していることなどに関する意見)。

 ●台湾問題に関する原則的な立場を明らかにしたい。台湾問題は常に中米関係において最も重要かつデリケートな問題である。中国は、バリ会談中に米国が行った関連する前向きな発言を非常に重視している。 米国は「台湾独立」を支持しないという言葉を具体的な行動で体現し、台湾を武装化させることをやめ、中国の平和統一を支持すべきだ。中国は、いずれは必ず統一されるのだし、必然的に統一されなければならない。(筆者注:1971年に国連で「一つの中国」を認め、「中国」を代表する国としては「中華人民共和国」=共産中国しかないという強い意思決定の下、共産中国を国連に加盟させ、「中華民国」台湾を国連から追い出したのは、ほかならぬアメリカだ。そのことを指している。)

 ●米国が輸出管理や投資審査あるいは一方的な制裁などの措置を中国に対して継続的に講じており、中国の正当な利益を著しく損なっている。中国の科学技術を抑圧することは、中国の質の高い発展を抑制し、中国人民の発展権を奪うことに等しい。中国の発展と成長には内発的な論理があり、外的要因によって止めることはできない。米国が中国の懸念を真摯に受け止め、一方的な制裁を解除し、中国企業に公正、無差別の環境を提供するための行動をとることを期待する。

                        習近平の発言に関しては以上

 おそらく習近平が言いたかったのは最後の二つだろう。

◆合意の中に制裁緩和はない

 話し合いの結果、「中米両軍の対話」、「中米の国防実務会議」、「中米の海上軍事安保協議メカニズム対話」などを再開し、米中軍事関連指導者間の電話会談を行うことに合意した。また「来年初めに、フライトの大幅な増加」、「教育、留学生、青少年、文化、スポーツ、ビジネス等における交流の拡大」に関しても合意した。気候変動対策に関しても両首脳とも前向きなようだ。

 しかし最後の対中制裁に関しては、緩和したという兆しは見られない。

 その割に習近平が必ずしも厳しい表情になったわけではないのは、おそらく最後の二つの内の一つ「台湾問題」に関して大きな進展があったからではないかと推測される。(以上、中国側の発表なので、ここまでは「米中」ではなく、「中米」とした。以下は「米中」と表現する。)

◆米中首脳会談に合わせ、台湾総統選での野党連携を発表!

 なんと、米中首脳会談に合わせ、台湾の野党側は、台湾の総統選に関して野党連携である「藍白合作」を発表した。「藍」は国民党で、「白」は「台湾民衆党」である。

 筆者は『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出しているのはCIAだ!』で、台湾総統選に関して、最終的には野党側が「藍白合作」をして民進党を敗北に追いやるだろうと予測した。

 その予測が的中した!

 ということは、今後バイデンは「台湾有事」を煽って、習近平に誓った言葉と裏腹の行動はできなくなる。正に習近平の狙い通りの展開になる可能性が高い。台湾総統選の野党連携に関しては、11月18日あるいは24日までに郭台銘(テリー・ゴウ)候補を含めた最終結果が出ると思われるので、その時を待って別途考察することにしたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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