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習近平を国賓として招聘すべきではない――尖閣諸島問題

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2019年12月9日 第200臨時国会が閉幕 安倍首相が記者会見(写真:ロイター/アフロ)

 安倍首相は9日の記者会見で、習近平を国賓として招聘することに関し、尖閣問題など「習主席に直接、提示している」として、国賓招聘の意思は変わっていない。今回は尖閣問題という視点から考察する。

◆安倍首相の記者会見

 12月9日、臨時国会閉会に際し、安倍首相が記者会見を行った。

 首相官邸HPにある「令和元年12月9日 安倍内閣総理大臣記者会見」から、習近平国家主席の国賓としての来日に関する部分だけを抜き出して、そのまま以下に記す。

(記者)

 ブルームバーグニュースのレイノルズですけれども、日中関係についてお聞きしたいと思います。中国の習近平国家主席が、来春、国賓として来日すると思います。日本人の拘束問題や尖閣諸島周辺海域での中国公船の行動を受けて、自民党内からも反対する声があります。このような懸念はどのように受け止めますでしょうか。

(安倍総理)

 日中両国はですね、アジアや世界の平和、安定、繁栄に共に大きな責任を有しています。習近平国家主席を国賓としてお招きをすることについては、様々な声があることは承知をしております。

 しかし、新たな令和の時代の始まりに当たり、今、申し上げたような、この責任を果たすべきとの認識を習近平主席と共有し、その責任を果たすとの意思を明確に示していくことがですね、今のこのアジアの状況においては求められている。国際社会からもですね、それが求められているのだろうと、こう思います。こうした考え方から、習近平主席を国賓として招待することといたしました。

 同時に、中国との間には尖閣諸島周辺海域における領海侵入や日本人拘束事案等、様々な懸案が存在しています。こうした懸案については、これまでも習主席に直接、提示してきています。

 引き続き、主張すべきはしっかりと主張し、そして中国の前向きな対応を強く求めていきます。

◆尖閣諸島周辺海域における中国公船の領海侵入など

 これまで、なぜ習近平国家主席を国賓として招いてはならないかに関しては、何度も形を変えて主張してきた。12月4日付のコラム<鳩山元首相「香港人権法」を批判 習近平と会見も>の後半でも書いたし、また1月24日付コラム<日ロ交渉:日本の対ロ対中外交敗北(1992)はもう取り返せない>などにある下記のグラフを幾度か示して反対してきた。

 

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  図1:1984年以降に中国が獲得した外資の年平均増加率と投資規模の推移

 図1は2016年に中国の中央行政省庁の一つである商務部が発表した資料である。1984年以降に中国が獲得した外資の年平均増加率と投資規模が示してある。1992年~93にある赤線のピークは、外資の対中投資増加率が急増していることを示している。これは1989年6月4日の天安門事件により、西側諸国の対中経済封鎖を受けて崩壊寸前にあった中国経済を、日本が天皇陛下訪中を断行したことによって劇的に回復させ、今日の中国経済の繁栄をもたらした証拠を表しているグラフだ。

 中国はアメリカから制裁を受けると、必ず日本に微笑みかける。これは中国の常套手段だ。ここまで明らかな中国の術策に、まんまと嵌る安倍政権に警告を発し続けてきた。

 今回は、海上保安庁のHPにある「尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処」から、以下のグラフを基に、「習近平国賓招聘反対」を表明したい。

 以下に示すのは、「接続水域内で確認した中国公船の隻数(延隻数/月)(青色の折れ線)と「領海に侵入した中国公船の延隻数/月」(赤色の棒線)を表したものである。

 

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     図2:尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処

 当該HPの説明にもあるように、2008年からプロットし始めているのは、「2008年5月7日、日本を公式訪問した胡錦濤国家主席と福田康夫総理(肩書きはいずれも当時)が、「今や日中両国が、アジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識で一致した」というのに、その半年後の同年12月8日に、中国公船が初めて尖閣諸島周辺の我が国領海内に侵入したからだ。

 胡錦涛-福田康夫両氏が交わした約束の言葉と、安倍首相が記者会見で言った言葉を比べて欲しい。

 胡-福田:「今や日中両国が、アジア太平洋地域及び世界の平和、安定、発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っているとの認識」で一致した。

 安倍首相:日中両国はですね、アジアや世界の平和、安定、繁栄に共に大きな責任を有しています。

 笑ってしまうくらいに、そっくりではないか!

 つまり、このような認識を「言葉」で共有してみたところで、絵に描いた餅、空理空論!

 実際の行動は伴っていないどころか、全く、その逆なのである。

 事実、海上保安庁HPの説明にあるように、「2010年9月7日の尖閣諸島周辺の我が国領海内での中国漁船衝突事件以降は、中国公船が従来以上の頻度で尖閣諸島周辺海域を航行するようになった」。

 この2010年というのは、中国のGDP規模が日本のGDP規模を超えた年である。すなわち、図1に示したように、日本が対中経済封鎖を解除してあげたことによって中国経済は急激に成長し、その結果、日本のGDPを2010年に超えた。

 図2を見れば歴然としているが、2010年前後に、経済的に強くなった中国は日本を見下し、言葉とは裏腹に日本国の領土である尖閣諸島周辺を侵犯し始めるのである。

 2012年に、いわゆる尖閣諸島の「国有化」が成されたことを口実に、中国の尖閣諸島の領海・接続水域への侵入は絶えたことがない。

 今では中央テレビ局CCTVでは、毎日、毎時間、尖閣諸島(中国名・釣魚島)の天気予報を「中国の領土領海の天気予報」として流し続けている。

 これで、「日中関係が正常な軌道に戻った」のだろうか。

 安倍首相は、まるでお呪(まじな)いのように、この言葉を繰り返しているが、これが「正常な日中関係」なのか?

 習近平はアメリカの制裁で困り果てて、日本に微笑みかけているだけだ。

 このような時にこそ、日本は毅然と構え、「会いたければ、先ずは尖閣問題を解決してからにせよ」と習近平に言わなければならない。

 だというのに、こちらから跪いて「私を国賓として呼んでください」と頼み(4月26日付コラム<中国に懐柔された二階幹事長――「一帯一路」に呑みこまれる日本>)、今度は習近平を国賓として招聘する。

 安倍首相は、かかる国際情勢の中、なぜ習近平を国賓として招聘しなければならないかを、日本国民に、そして世界に説明しなければならない。

 

 そもそも、中国建国の父・毛沢東は「尖閣諸島は沖縄県(中国では当時、琉球群島)に所属するもの」と、明確に宣言している。たとえば、1953年1月8日付の、中国共産党機関紙「人民日報」の記事は、

 ――琉球群島は、我が国・台湾東北と日本の九州西南の海面上に散在しており、尖閣諸島、先島諸島、大東諸島、沖縄諸島、大島諸島、吐か喇諸島、大隅諸島等を含む、島嶼から成る。

という定義をした上で、アメリカ帝国主義の占領に対して、琉球人民が抗議し闘争していることを紹介している。そして「沖縄人民よ、頑張れ!」「アメリカ帝国主義に敗けるな!」とエールを送っているのだ(沖縄返還前なので、中国では「琉球」と呼んでいた)。

 それを覆すのは中華人民共和国が国連に加盟する時だが、その話をし始めると長くなるので、詳細は拙著『チャイナ・ギャップ』に譲る。

 1978年10月にトウ小平が日中平和友好条約批准書の交換で来日した際に「棚上げ」を主張したが、「日本固有の領土」を「棚上げ」することさえ論理的整合性がないのに、ここまで蹂躙されてもなお、「日中関係が正常化した」と言うのは、許されることではない。

 日中の間で最も重要なのは、安全保障問題だ。

 ピュー・リサーチセンターがこのほど、34カ国の3万8000人以上を対象に、今年5月13日から10月2日にかけて行った対中感情に関する調査結果を発表している。それによれば、中国の軍事力に対して脅威を感じている国のトップは日本だった。「脅威を感じる」が90%もいる。2007年では80%。ここ10年で、脅威は10%も増しているのである。

 安倍首相は人気取りのために習近平を国賓として招聘したいと思っているのだとしたら、大間違いだ。

 習近平を国賓として招聘することは、日本国民の利益に適ってないのである。

 そのことを肝に銘じて、即刻、国賓としての招聘を中止すべきである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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