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朝鮮戦争「終戦協定」は中国が不可欠――韓国は仲介の資格しかない

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
安倍首相と電話会談した文在寅大統領(写真は会談時のものではない)(写真:ロイター/アフロ)

 安倍首相と韓国の文在寅大統領との電話会談で「終戦宣言」なら「最低でも南北と米国の3者による合意が必要だ」と述べられたようだが、「終戦協定」ならば「休戦協定」の署名国である中国を欠かすことはできない。

◆安倍首相と文在寅大統領との電話会談

 4月25日、安倍首相と韓国の文在寅大統領との間で電話会談が行われ、「終戦宣言」に関して、「最低でも南北と米国の3者による合意が必要だ」と述べたと報道されている。両者のどちらが言い出したかは知らないが、少なくとも両者は「韓朝米の3者」という認識を共有したことは確かだろう。

 だとすれば、これは朝鮮戦争の休戦協定が持っている意味と、現在の朝鮮半島問題の基本的原因を無視しており、問題を生む。

◆休戦協定の署名者は

 朝鮮戦争(1950年6月25日~1953年7月27日)の休戦協定は、1953年7月27日に板門店で

     国連軍のクラーク・総司令官

     中国人民志願軍の彭徳懐・総司令官

     朝鮮人民軍の金日成・最高司令官

の3者の署名により締結されたものである。

 韓国(大韓民国)は国連軍の中に組み込まれていたから、署名者の中には入っていない。国連軍にはアメリカ、韓国、イギリス、フランスなど22カ国が参加しているが、休戦協定の署名国にはそのどの国も入ってないことと同様に(同等に)、韓国も入っていないのである。

 したがって、もし、この休戦協定に終止符を打って、正式に「終戦協定(平和条約)」を締結するのであれば、休戦協定の署名者である中国を無視することはできないということになる。

 むしろ米中朝の3カ国代表が署名すべきで、韓国はあくまでも仲介役を果たす資格しかない。

 特に朝鮮戦争に参戦した兵力は、北朝鮮側としては

     北朝鮮:80万人

     中 国:135万人~200万人(諸説有り)

     (旧)ソ連:2.6万人

であるのに対し、国連軍側は上位3カ国だけを書くなら

     アメリカ:48万人

     韓  国:59万人

     イギリス:6.3万人

などであり、中国人民志願軍が圧倒的に多い。この中国を入れずに「少なくとも韓朝米の3カ国で」という認識を共有した日韓首脳は、この歴史的事実を無視したことになり、言葉には注意すべきだろう。

◆朝鮮半島問題の根幹

 そもそも朝鮮半島問題の起因は、休戦協定(第4条60節)で「休戦協定締結後3ヵ月以内に朝鮮半島に駐留する全ての(南北朝鮮以外の)第3国の全ての軍隊は朝鮮半島から撤退すること」と書かれており、アメリカはそれに署名して撤退を誓いながら、同時に韓国との間で「米韓相互防衛条約」(米韓軍事条約)を締結したことにある。そこには「米軍は(永遠に)朝鮮半島から撤退しない」という趣旨のことが書いてあり、完全に相矛盾する条約に米韓は署名したことになる。

 だから北朝鮮と中国は「アメリカは休戦協定違反だ」と長年主張してきたのである。

 北朝鮮の肩を持つように思われたくないし、絶対にそのような誤解をしてほしくないが、客観的事実として、休戦協定違反をしているのはアメリカであることは明白なのである。筆者はこの「客観的事実」を『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』の第3章「北朝鮮問題と中朝関係の真相」で詳述した。

 休戦協定を締結するに当たって、アメリカの違反行為を促したのは韓国の当時の李承晩大統領で、彼はどうしても休戦したくなく、アメリカが休戦協定を提案したことに反対した。自分一人ででも、絶対に戦いつづけて韓国が朝鮮半島を統一するのだと主張した。そこでアメリカはやむなく、李承晩をなだめるために米韓軍事同盟を締結したに過ぎない。その意味では朝鮮半島問題を生んだ「真犯人」は韓国であり、そもそも朝鮮戦争を起こしたのは北朝鮮の金日成(当時は主席)なので、「真犯人」は北朝鮮である、ということもできる。

 もっとも、「真犯人」をたどれば、そもそも朝鮮半島に38度線を引いたアメリカと旧ソ連のせいだということができ、なぜ38度線が引かれたのかに関して言うならば、日本の朝鮮半島統治があったからだということになる。日本敗戦直後、旧ソ連の南下の中で米ソの間で行なわれた領土収奪合戦により引かれた線だ。南北首脳会談が、この38度線の撤廃にまでやがてつながるかどうかは別だが、少なくとも日朝国交樹立という事態になれば、日本にとっての戦後処理の終結を包含し、他人事ではなくなる。日朝間ではまだ戦後賠償に関する協議がなされていないからだ。

◆「終戦の意思を盛り込む」までが限界

 いずれにせよ、この問題に関して南北首脳会談で語られるのは、せいいっぱい「休戦状態にある朝鮮戦争にピリオドを打ち、終戦に持っていきたい」という希望に対する意思表示をするところに留まると考えるべきだろう。つまり平和体制を構築したいという共同宣言を出すことだ。それ以上のことはできない。

 日本は、このことを肝に銘じて発言に注意すべきであろうと考える。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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