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習近平訪朝はなぜ米朝首脳会談の後なのか?――中国政府関係者を独自取材

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
全国人民代表大会における習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 習近平国家主席の訪朝は米朝首脳会談の後になるだろうと、訪朝していた宋濤・中共中央対外聯絡部長の帰国に合わせてCNNが報道した。同時にポンペオ米CIA長官の極秘訪朝も判明。中国政府関係者を独自取材した。

◆CNN情報 

 4月18日、中国の芸術団を引き連れて訪朝していた中共中央対外聯絡部の宋濤部長(訪朝団一同)が中国に帰国した。

 それに合わせるかのようにCNNが “Chinese President Xi Jinping will visit Pyongyang 'soon,' official says”(習近平国家主席が“まもなく”平壌を訪問するだろうと、当局者が語った)と発表。この「まもなく」は英語では“soon”となっているが、果たして「どれくらいの“まもなく”」なのか?

 詳細に記事を読んでみると、そこには possibly after the planned summit between US President Donald Trump and North Korean leader Kim Jong Un, which is expected to take place in late May or early June(おそらく5月末か6月初旬に行なわれるだろうアメリカのトランプ大統領と北朝鮮の指導者キム・ジョンウンとの会談の後ではないか)という趣旨のことが書いてある。これは「まもなく」とは言い難いのではないかとも思うが……。

 なぜなら、3月26日から28日にかけて訪中した金正恩委員長と習近平国家主席との会談において(以下、敬称略)、金正恩は習近平に訪朝を要請した。習近平は快く承諾し、相互に訪問し合うシャトル外交を今後進めていくことを約束している。したがって米朝首脳会談が行われる前後に習近平の訪朝があるだろうことは、十分に予想されているからだ。

 宋濤訪朝団帰国後で南北首脳会談前、あるいは米朝首脳会談前に、習近平が訪朝するとなると、これは非常に大きな出来事で、かつあり得ないわけではないが、しかし米朝首脳会談後というのであれば、あとは、なぜ米朝首脳会談後なのかだけが問題の焦点となる。

◆中国政府関係者を独自取材

 そこで先ず、中国政府関係者に「習近平が訪朝する時期はいつ頃になると思うか」と聞いてみた。すると案の定、口外してはならない時の言葉が戻ってきた。曰(いわ)く:

 「まだ、公式の発表はない――」

 いつも通りだ。

 やむなく、これも又いつも通り、しつこく食い下がってみた。

 「それでも必ず、訪朝はするでしょう?」

 「もちろん!それは当然のことだ!約束したのだから」

 「で、それは、いつ頃になると思いますか?」

 「……あくまでも個人的な見解だが……、おそらく、米朝首脳会談の後ではないかと思う」

 内心、「しめた!」と思った。しかし間を置かずに、すぐさま「なぜですか?」と畳みかけた。

 すると、「あれだけ互いを信頼していない米朝両国が、朝鮮半島の非核化と南北朝鮮の統一を実現することができるとでも思っているのか?」と答えてくれるではないか。勢いづいて、

 「ということは、中国にしか、朝鮮半島問題を解決する力がないと考えているということなのか?」

とストレートに食い込むと、さすがに、この問いには直接は答えてくれなかった。しかし、「これは、個人の意見だが……」と最後に次のように「個人的見解」を述べてくれた。

 「アメリカは、半島問題で中国が主導権を持つことを嫌がっている。そうでなくとも金正恩は真っ先に中国を訪問した。彼が外国を訪問するという行動に出て最初に会ったのが習近平なのだ。それだけで、トランプのメンツは十分に潰れている。だから中国はこれ以上、アメリカを追い詰めない方が賢明だ。われわれの長年の主張は米朝首脳会談だったので、それが実現しないような事態になってほしくはない。もっとも、トランプには半島問題を解決する力はないだろう。だからといって、習近平がトランプと力を合わせて半島問題を解決するだろうなどという期待は持たない方がいい。その時期はすでに過ぎてしまった。一時期は、その可能性があったが、今や無理だ」

 なるほど――。

 これで十分だ。

 

◆宋濤部長の訪朝を大々的に報道した北朝鮮の狙いは?

 関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授が、4月18日付の北朝鮮の労働新聞は異様で、「宋濤訪朝団の記事ばかりで、おまけに大量の写真を使って大々的に報道している」と教えてくれた。

 中共中央聯絡部の宋濤部長が訪朝することの意味は、4月12日付けのコラム<北朝鮮、中朝共同戦線で戦う――「紅い団結」が必要なのは誰か?>で詳述した。

 中朝双方にとって、今や両党の友好をアピールすることは双方それぞれの利益と深く関わっているが、このたび宋濤部長の訪朝を大々的に報道した北朝鮮の狙いは明らかだ。万一にも米朝首脳会談が決裂した場合、背後には中国がいることをアメリカに強く印象付ける目的があったものと解釈できる。

 北朝鮮の核放棄に関するロードマップは、あくまでも「段階的」であり、「周辺(米韓)と歩調を合わせる」というものだ。米韓が北朝鮮への攻撃をせず、金ファミリー体制の維持を保障し、かつ朝鮮戦争の休戦協定(1953年)を平和条約に持っていくことなどが前提条件でもある。

 しかしトランプ大統領は早急な核廃棄を要求している。そもそも米朝首脳会談自体、核廃棄が前提だとさえ言っていたし、最近では譲歩して、会談後6ヵ月から1年以内の完全廃棄を要求するだろうとの情報もある。これでは米朝首脳会談が決裂しないという保証はない。

 だとすれば、習近平の訪朝は、やはり米朝首脳会談後になるだろうということが考えられる。

◆ポンペオ米CIA長官の訪朝

 17日、ワシントン・ポストは、トランプ政権の国務長官に指名されているポンペオCIA(中央情報局)長官が3月30日から4月1日にかけて秘密裏に訪朝し、金正恩と面会していたと報じた。18日にはトランプ大統領(以下、敬称略)自身がツイッターで同氏を大統領特使として北朝鮮に派遣したことを明らかにした。米朝首脳会談の準備の一環とのこと。

 そのポンペオは金正恩と密談した後の4月12日、米議会上院外交委員会の公聴会で「金正恩が核兵器でアメリカを威嚇できないようにしなければならない」としながらも「北朝鮮の体制転換は求めていない」と答えた。

 トランプは18日のツイッターの中で、ポンペオと金正恩との会談は非常にうまくいっており順調だと書いているので、金正恩にとっての最大の関心事である現体制維持の保障はなされたものと考えていいのかもしれない。

 しかしその一方でトランプは、安倍首相との会談の中で「場合によっては、米朝首脳会談が必ずしも開催されるとは限らない」という趣旨のことさえ言っている。まだまだ不確定要素が残っているようだ。

 となればなおさら、習近平国家主席の訪朝は、米朝首脳会談のゆくえと結果を見てからということになろうか。

 なお、金正恩があそこまで熱烈に宋濤訪朝団を歓迎して見せたのは、その不確定要素を北朝鮮に有利に持っていくためであることは明らかなものの、少なくともトランプは「休戦状態の南北朝鮮が終戦を実現することには賛同だ」とも言っているようなので、米朝首脳会談への基本路線は固まりつつあると見ていいだろう。またポンペオは、会談の最大の目的は、「対米の核脅威への対処だ」と述べているので、米朝の間ではアメリカ本土を射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発凍結のみで合意する可能性も否定できない。中日韓を射程に入れる短距離・中距離弾道ミサイルに対する扱いが曖昧にされた場合、中国と韓国は今や「熱い友情」により攻撃の対象となることはもうないが、日本だけが取り残される可能性は否めない。最後まで圧力と制裁強化を主張する日本だけが割を食わなければいいが……。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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