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駐米中国大使とも密通していたクシュナー氏

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国に取り込まれたトランプ大統領の娘イヴァンカさんとその夫クシュナー氏。(写真:ロイター/アフロ)

ロシア・ゲートで疑惑を受けているトランプ大統領の娘婿クシュナー氏は駐米中国大使とも密通し、トランプ大統領を親中に誘導していた。米国がAIIBに入れば日本も入る。中国の天下だ。背後にはキッシンジャー元国務長官が。

◆「クシュナー&駐米中国大使」路線を構築せよ!

昨年11月8日にトランプ氏が大統領に当選すると、同月17日、トランプ次期大統領はキッシンジャー元国務長官と会い、アジア外交問題に関してアドバイスを受けた。そのとき娘婿のクシュナー氏と、(ロシア問題で今では既に辞任している)フリン氏が同席していた(フリン氏は2017年2月に安全保障担当の大統領補佐官を辞任している。昨年11月17日の時点ではまだ政権移行時期なので、正式就任もしていない)。中国のウェブサイトThe Paperなどが伝えている。

12月2日にキッシンジャー氏は北京で習近平国家主席と会談していたが、その同じ日にトランプ次期大統領が台湾の蔡英文総統と電話会談したことは既知の事実だ。

しかしキッシンジャー氏がアメリカに帰国した後の12月6日、クシュナー氏に会って、中国の楊潔チ・国務委員と会うように忠告したことは、あまり知られていない。

楊潔チ氏は、12月11日と12日、ラテンアメリカに行くことになっていた。そのトランジットでニューヨークに立ち寄り、12月9日と10日、キッシンジャーの仲介で、楊潔チ氏は崔天凱・駐米中国大使とともに、クシュナー氏に会った。ワシントン・ポストが報じている。

会談場所はクシュナー氏の執務室だ!

その結果はまだ、クシュナー氏からトランプ次期大統領に伝えられてはいなかったのか、あるいは敢えて揺さぶったのか、12月12日、トランプ氏は「(貿易問題に対する)中国の対応次第によっては、アメリカは必ずしも『一つの中国』原則に束縛されるものではない」という爆弾発言をした。

キッシンジャー氏と駐米中国大使館は慌ただしく動いた。

そして中国の春節(1月28日~)の初五(5日目)に当たる2017年2月1日、崔天凱大使はトランプ大統領の娘・イヴァンカさんとイヴァンカの娘アラベラちゃんを中国大使館の「春節の宴」に招いた。

その背後では凄まじい勢いでクシュナー氏とイヴァンカさんを中国陣営に取り込む作戦が実行に移されていた。

中文メディアでは「クシュナーと中国大使との関係構築工作」という言葉で表現されている。つまり習近平国家主席が、崔天凱大使を使って、イヴァンカさんを取りこみ、クシュナー氏を中国陣営に取り込んで、トランプ内閣を改造させろという作戦である。

トランプ大統領が娘イヴァンカさんの言いなりになり、その婿クシュナー氏を重用していることに目をつけた中国は、「クシュナーとイヴァンカ」にターゲットを絞ったのである。

クシュナー氏は1月20日に大統領上級顧問に就任している。

2月4日のCNNは、2月1日にイヴァンカさんが中国大使館に行く前に、クシュナー氏と崔天凱中国大使は、密室で長時間にわたり会談を行ったと書いている。

◆対中強硬派は権力を削がれ、親中へと誘導されていくトランプ政権

その結果、2月8日(日本時間2月9日)に、トランプ大統領は習近平国家主席宛てに春節のお祝いの電報にかこつけて、1月20日の就任式に習近平からもらった大統領就任の祝賀電報に対するお礼を述べている。そして翌日、安倍首相が訪米する日に合わせて、トランプ大統領は習近平国家主席と電話をして、「一つの中国」原則を尊重すると宣言するのである。

背後にはもちろん、以前コラムで書いた習近平の母校の清華大学経営管理学院顧問委員会の委員で、トランプ大統領の「大統領戦略政策フォーラム」の議長でもあるシュワルツマン氏(ブラックストーン・グループCEO)の存在や、顧問委員会の委員で元米財務長官を務めたこともあるポールソン氏(ゴールドマンサックス元CEO)など親中派米財閥が動いていた。しかし、クシュナーと、クシュナーを操っていたチャイナ・ロビーとさえ言われるキッシンジャー氏の役割を無視することはできない。

こうして4月4日付けで対中強硬策のバノン氏(主席戦略官)は国家安全保障会議の常任委員から外され、同じく対中強硬派のナバロ氏が委員長を務めていた国家通商会議は5月3日に廃止された。代わりに通商製造政策局が設置され、ナバロ氏がトップに就くものの、貿易相手国との交渉は担当せず、ナバロ氏の影響力が低下するのは明らかだ。

バノン氏は解任される前、クシュナー氏のことを「民主党リベラル派に近く、トランプ主義に反する」と非難していたが、バノン氏はクシュナー氏の中に「中共に洗脳された人間」を見ていたのかもしれない。

トランプ政権の中央から、対中強硬派は姿を消し、親中派が幅を利かす方向へと誘導されている。

◆習近平の狙いは「一帯一路とAIIB」で「世界の覇者」に

習近平国家主席の狙いは、一帯一路(陸と海の新シルクロード)構想とAIIB(アジアインフラ投資銀行)にアメリカを参加させて、世界の覇者になることである。

「日本は対米追従なので、アメリカを取りこみさえすれば日本は必ずアメリカについてくる」と、中国は思っている。クシュナー氏や清華大学経営管理学院顧問委員会における米財閥委員を通してアメリカを懐柔し、先ずは5月14日、15日に北京で開催された「一帯一路国際協力サミットフォーラム」にアメリカ代表を送ってくれることを優先事項とした。

だから、4月6日、7日の米州首脳会談では習近平国家主席はトランプ大統領に「一帯一路サミットフォーラムに米国が参加するように」、優先的に依頼した。

中国における米中首脳会談の報道は、「一帯一路サミットフォーラムに米国代表を送るようにトランプ大統領に言った」ということが最も大きな成果として挙げられていた。あたかも、トランプ大統領が「承諾した」というような報道のしようだった。

案の定、アメリカは代表を送り込み、日本もアメリカに倣(なら)った。

中国の計算通りだ。

アメリカがTPPから撤退した以上、グローバル経済の世界の覇者になるのは中国だと、中国は思っている。

そのためには人民元の国際化だけでなく、国際金融の中心をウォールストリートから北京に持っていくことが重要だ。

一帯一路とAIIBはペアで動いており、一帯一路は中国の安全保障を裏づけていく構想でもある。インフラ投資を表向きの看板としているが、それを名目として一帯一路沿線国・地域、つまり陸と海の新シルクロード経由地に物流の拠点とともに軍港を建設していく。すべて中国の影響力下に置くという寸法だ。

この構想の中に日米が「ひれ伏して」入ってくるなら、世界はもう、中国のものだ。中国はそう思っている。

習近平政権の国家スローガン「中華民族の偉大なる復興」とは、アヘン戦争でイギリスに敗北して以来の列強諸国による中国の植民地化に対する報復と、日米を凌駕することなのである。

◆日中関係改善の兆しなどと喜んでいていいのか

拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』で詳述したように、中国共産党・毛沢東は「統一戦線」の名のもとに国共合作をし、「日本軍と戦う振りをして日本軍と手を組み」、日本の対戦相手である国民党・蒋介石を弱体化させていった。そして毛沢東は最終的に天下を取ったのである。

「統一戦線を張れ」と命令してきたのはモスクワのコミンテルンだ。

まさに、第二次世界大戦のときに旧ソ連のコミンテルンがアメリカのルーズベルト政権に潜り込み、日本の近衛内閣にも潜り込んで、ソ連に有利な方向に世界を持っていき、そして日本を一気に敗戦へと追い込んだ状況を彷彿とさせる。

あのころのコミンテルンの役割を、いまロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が演じている。

中国の洗脳の力を軽んじてはならない。

しぶとく影響力を持ち続けるキッシンジャーを中心に、クシュナーやイヴァンカという洗脳されやすい「若者」をコマに使って、中国の夢を叶える戦略がうごめいている。

日本は先の戦争と同じ愚を繰り返さないようにしてほしい。

そのためには、何が動いているのか、事の本質を見極める目を持たなければならない。ロシア・ゲートは、クシュナー氏を通して、日本に良い教訓を与えてくれていると思う。彼は、中国の巨大な戦略の犠牲者だ。

中国は良好な米中関係を日本に見せつけて日本を動かし、日米を中国の枠組みの中に組み込んで、世界の覇者を狙っている。

そのクシュナー氏は既にロシア・ゲートで米連邦捜査局(FBI)による捜査対象となっているが、トランプ大統領に(万一にも)弾劾裁判などが待っているとしたら、この「親中誘導」も「事件」として捜査の対象になっていく可能性がある。

トランプ大統領は外遊から帰国した後、FBIがクシュナー氏を捜査対象としていることに関して早速「あれはフェイクニュースだ」とつぶやいているようだが、フリン氏がすでにロシア疑惑で辞職しており、フリン氏と行動を共にしていたクシュナー氏が疑惑から逃れることは難しいだろう。

掲載した写真は、ロシアゲート疑惑報道が出た後の、外遊先におけるクシュナー夫妻の一コマだ。いつもの爽やかな笑顔をふりまく二人とは表情が違う。クシュナー氏の顔は恐怖に満ち、いつもは颯爽としているイヴァンカさんのうつむいた顔は苦悩に満ちているように筆者には見える。何もなければ、このような変化は生まれないだろうし、中国大使館との接触の仕方から見ても、ロシアゲートに関するFBIの捜査発表は十分な裏付けがあってのことだろうと推測される。(筆者の追跡は中国との関係にターゲットを絞っている。)

今年はたしかに日中国交正常化45周年記念で来年は日中平和友好条約締結40周年となる節目の年ではある。

しかし一帯一路サミットフォーラムに日本が代表を送り込み、習近平国家主席にAIIBへの加盟を勧誘されて、「日中関係改善の兆し」などと喜んでいていいのだろうか?

なにも友好的であることをやめろとは言わないが、但し、そこに潜んでいる落とし穴があることに、日本は気が付いてほしいと望む。物事の本質を大局的に見極めた、毅然とした外交戦略を持てと言いたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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