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北朝鮮ミサイル発射に中国はどう対処するのか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

米韓合同軍事演習に合わせて、北朝鮮が新たにミサイルを発射するなど暴走が止まらない。この事態を中国はどう受け止め、どう行動しようとしているのか? 中国政府関係者を単独取材した。

◆中国政府関係者の回答

北朝鮮は3月18日、ノドンと見られる中距離弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射し、このうちの1発は日本海に落ちた。日本の自衛隊もいざという時に備えて行動しているようだ。中国の外交部報道官も非難声明を出している。

3月18日、陸慷外交部報道官は、「北朝鮮のミサイル発射等の問題に関して、国連安保理決議は明確な規定を出している。中国は北朝鮮が安保理の関連決議を順守することを要求する」と定例記者会見で言った。

これに関して、もう一歩踏み込んだ中国側の考え方を知りたいと思い、中国政府関係者を単独取材した。

彼は以下のように述べた。

1. 中国の公式見解は外交部報道官が述べた通りだ。

2. 以下はあくまでも私個人の意見だが、18日に韓国の朝鮮半島和平交渉本部長である金●(火へんに共)均が訪中していることに注目してほしい。

3. 先般の王毅外相と岸田外相が電話会談したことに続いて、いま何が起ころうとしているかが見えてくるだろう。

4. 中国はあくまでも国連安保理決議を遵守するよう関係各国に求めており、アメリカの「単独制裁」に反対する。アメリカのこの単独行動は、やがてリビアやイラクにおいてアメリカが単独に行なった行動が中東情勢を混乱に陥らせているのと同様に、東アジアを取り返しのつかない方向へと導いていく。そのことを最も警戒している。

◆あくまでも6者会談

以上の中国政府高官の「個人的見解」を、もう少し詳細に紐解いてもよう。まず「1」~「3」の内容に関して論じる。

3月16日付け本コラム「王毅外相はなぜ岸田外相の電話会談を承諾したのか?」で、その背後に王毅外相が全人代を途中欠席してまで急遽モスクワに飛びラブロフ外相(やプーチン大統領)と会談したことを書いた。

今度は武大偉・朝鮮半島問題特別代表が韓国の金●(火へんに共)均・朝鮮半島和平交渉本部長を緊急に招聘して北京で6者会談(6ヵ国協議)に関して話しあっている。これはこのたびの対北朝鮮国連安保理決議後、初めての中韓間の6者会談関係者の会談である。

ということは、中国はひたすら何とか6者会談に持っていこうとしていることが見えてくる。

◆アメリカの単独制裁は東アジアに第二のIS情勢を生む

中国政府はアメリカの韓国における史上最大規模の米韓合同軍事演習を「北朝鮮に対するアメリカの単独制裁だ」とみなしている。

それは中国メディアが、3月17日に発表されたロシアのマリア・ザハロワ外交部報道官の言葉を借りて、アメリカを批難していることからも鮮明に見えてくる。その報道によれば彼女は次のように言っているという。

――モスクワは対北朝鮮への(アメリカによる)単独圧力を認めない。なぜなら国連安保理こそが制裁を決定することができる国際社会の意志決定だからだ。私たちの出発点はあくまでも安保理制裁の合法性であり、国際社会が一致して決定したことに基づいて行動すべきである。私たちは絶対に単独の圧力のかけ方を認めない。国連安保理の決議は何だったのか。全ての関係国は国連安保理精神に基づいて行動すべきで、朝鮮半島安定のためにはその決議を遵守すべきだ。

中国メディアはさらに、ロシア科学院東方研究所・蒙古朝鮮研究室のウォロンゾフ主任が「アメリカは北朝鮮に対して単独制裁をすべきではない」と言ったことを大きく報道し、ロシアが「アメリカ」と名指しで、史上最大規模の米韓合同軍事演習を批難してることを強調している。中米関係への配慮からか、中国政府の公式見解としては「アメリカ」という名指しは避けている。

筆者が取材した中国政府高官は、上記の「4」に関して、激しい口調で以下のように述べた。

――アメリカは国際社会のルールを守り、国連安保理で決定した制裁決議以上の圧力を単独に北朝鮮に掛けるべきではない。これがどのような結末を招く危険性を孕んでいるかを、中東情勢で学習すべきだ。アメリカはかつてリビアのカダフィ大佐を暗殺してリビアをテロリストの温床とさせてしまった。アメリカの介入がなければ、ここまでのISの恐怖は生まれなかったはずだ。1967年から暗殺されるまで、カダフィはそれなりにリビアを豊かな国へと変えていった。しかしアメリカが率いた大量爆撃作戦によりリビアは破綻し、今ではテロリストISの温床になってしまったのだ。ISの存在により、世界がどれだけの恐怖に追い込まれているか考えてみるといい。

イラクに関しても同じだ。国連安保理の決議なしに、アメリカはイラクに大量破壊兵器があるとして一方的に先制攻撃したが、結局、大量破壊兵器は見つからなかった。サダム・フセイン死刑に成功したアメリカが中東世界に残したものは何だったのか。テロリストISの恐怖を全世界に拡散させたことだ。

同様のことを、今度は北朝鮮をターゲットとして断行し、東アジアを第二の中東にしてほしくない。自分たち(アメリカ)は遥か遠くにいて安全かもしれないが、中国にとっては「玄関先」だ。人の家の玄関先で、わざわざ混乱を起こすことをすべきではない。

アメリカにこそ、国連安保理決議を遵守すべきだと、われわれは言いたい。そうでなければ、問題の解決どころか、取り返しのつかない事態が待っている。

◆日中外相電話会談→日中外相会談→日中首脳会談への道

中国政府関係者は語気荒く続けた。

――それも緊急に動かないと、「あの若造(北朝鮮)」が何をやるか分からない。だからこそ王毅外相は岸田外相との電話会談に応じたのであり、電話会談に応じたということは実際に会って会談する中日外相会談を用意しているということの、何よりの表れだ。

中日外相会談のつぎには何があると思うか。

それは言うまでもなく、中日首脳会談だ。

ここまでが、中国政府関係者を取材した結果、得た情報である。

中国政府としては言えない「個人の見解」を、個人的に述べたものと思うが、それは中国の本音でもあろうと感じた。

これをさらにどのように解釈し位置づけるのかに関しては、長くなり過ぎるので、ここで留める。あとは読者のご判断にお任せしたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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