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カーター米国防長官訪日で日米を非難する中国

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

カーター米国防長官の訪日を受けて、中国は日米批判を強めている。米国の軍事予算削減と中東問題という弱みを日本に肩代わりさせて、日本の軍国主義への道を助長し、米国のアジア回帰を果そうとしていると。

◆中国中央テレビ局CCTVが「メディアの焦点」で特集番組

中国の華春瑩(かしゅんえい)外交部報道官は8日、カーター米国防長官の訪日と発言を受けて、厳しく日米を批判している。というのも、カーター長官がアジアにおける領土問題が軍事化することへの懸念を表明し、中国が南沙諸島で行っている岩礁の埋め立てに関して軍事化する可能性があると懸念しているからだ。

華報道官は定例の記者会見で「米国は、中国が関係国と対話を通して問題解決に当たろうとしている努力を尊重すべきだ。責任ある話をし、責任ある行動を取るべきである」と非難した。

中国の国営テレビ局である中央テレビ局CCTVは、「メディアの焦点」で、カーター長官訪日に関する特集番組を組み、各国の専門家の意見や報道を紹介した。

それによれば、中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は、おおむね以下のように解説しているとのこと。

――米国はアジア回帰(リバランス)を狙っている。しかし近年来の米国の景気低迷と美国民の戦争への嫌悪感から、米国は軍事予算を削減し、その肩代わりを日本にさせようとしている。米国自身の軍事力を高める代わりに日本に集団的自衛権を解禁させ、新たな日米防衛協力ガイドラインを見直そうとしている。それは安倍政権が渇望してやまない軍事力拡大にゴーサインを出すことにつながる。米国は中東問題からも抜け出せずにいるので、日本は喜んで米国の猟犬になろうとしている。これは日米両国にとって互いに都合のいいことだ。

一方、日本の共同通信の報道によれば、7日に公開された日米世論調査では「日本がもっと積極的に軍事拡張に参加すべきだと主張した日本国民の割合は23%」で、「同様の主張を示した米国民の割合は47%だった」と、中国メディアは報道している。

カーター長官の訪日分析に関しては、日本のメディアよりも関心が高く、また詳しい。

◆尖閣諸島に関して

日本の外務省のホームページによれば、日米双方は「尖閣諸島への日米安保条約の適用を含む米国の我が国(日本)に対する防衛コミットメント(公約、約束)を再確認した」とのこと。

しかしその米国、「尖閣諸島の領有権に関しては係争国のどちらの側にも立たない」と宣言している。2012年9月に発表された米議会調査局(CRS)リポート「尖閣諸島の領有権係争」も、2013年1月に発表された同じタイトルのリポートも、「米国政府は、ニクソン政権が『尖閣諸島の領有権問題に関しては係争国のどちらの側にも立たない』と宣言して以来、その立場を変えたことはない」と高らかに謳っている。

これは1971年の沖縄返還交渉の際に、ニクソン(大統領)やキッシンジャー(国務長官)らが中華人民共和国に接近して、中華人民共和国を「中国の代表」として国連加盟させ、当時の「中華民国」が国連を脱退せざるを得ない状況を作る中で、「中華民国」の蒋介石(総統)に対して弁明するために出した結論だ(ニクソン・キッシンジャー・ピーターソン密談。米公文書館ドキュメント115&134等。詳細は『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』第7章)。                            

日本は日米防衛ガイドラインの見直しをする前に、尖閣諸島の領有権に対する米国のこの「立場」を見直させるべきだ。中国が強気に出るのは、米国のこの宣言と立場があるからであって、オバマ大統領は2013年6月の習近平国家主席訪米の際の共同記者会見で、強い語調で「アメリカは尖閣諸島の領有権問題に関しては、(係争国の)どちらの側にも立たない」と宣言した。こうして中国を喜ばせておきながら、一方では東シナ海で領有権争いがあることを理由の一つとして日米防衛ガイドラインの見直しをする米国は、筆者から見れば二面相だ。

もし日米間に真の信頼関係があるのなら、日本ももっと毅然として米国を説得すべきである。尖閣諸島が日本の領土であることは、歴史的にも国際法的にも歴然としているのだから。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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