ラスト・エンペラーになるか、習近平――独裁色を強める理由

ラスト・エンペラーになるか、習近平――独裁色を強める理由

習近平はなぜ独裁色を強めているのか? それは、そうでもしなければ一党支配体制が崩壊するのを知っているからだ。ソ連を崩壊させたゴルバチョフになりたくない。しかし「皇帝」と呼ばれる習近平は「ラスト・エンペラー」になるかもしれない。次期国家主席候補の胡春華時代に入れば、そこで中国は終わる可能性が大きい。

◆集団指導体制の中で独裁が許されるわけ

2012年11月の第18回党大会でチャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員9人)がチャイナ・セブン(習近平時代の中共中央政治局常務委員)になったとき、党大会直前に予定メンバーが変わった。

本来なら共青団(中国共産主義青年団)派の李源潮(現在の国家副主席、政治局委員)や汪洋(現政治局委員)などが入るということで北戴河の秘密会議では調整が成されていたが、党大会直前になって現在のチャイナ・セブンのメンバーにすり替えられた。それは習近平の意思だった。

李克強以外はすべて元江沢民派。王岐山は中立と言っていいが、習近平を含めて、王岐山もまた、元は江沢民派である。

習近平の意思が通ったのは、江沢民にとっては自分の派閥が増えるので大変けっこうなことだっただろうし、胡錦濤との間には「腐敗撲滅のためには、これしかない」という了解が得られていたからだ。

党大会の第一日目に胡錦濤は中共中央総書記として最後の演説をし、大会最終日の翌日には習近平が新しい中共中央総書記として最初の演説をした。

その二人が異口同音に叫んだのは「腐敗問題を解決しなければ、党が滅び、国が滅ぶ」という言葉だった。

中国共産党幹部の腐敗は蔓延し過ぎて、もう手が付けられない状況になっている。

中国の歴代王朝は腐敗で滅びており、蒋介石率いる国民党軍が共産党軍に負けたのも、「中華民国」の官僚が腐敗しきっていたからだ。

腐敗した方が負ける。

それは地球上に存在している、ほとんど全ての国家の原則だろう。

だから、反腐敗運動を展開するために、ほぼ独断で動けるようなチャイナ・セブンの布陣を創り上げたのである。そうしなければ中国が亡ぶからだ。

党内序列ナンバー3の張徳江は習近平の母親と親しく、ナンバー4の兪正声は、かつて上海市書記になったときに前任の習近平をかばった。ナンバー6の王岐山は、文化大革命(1966年~76年)時代に同じ陝西省の片田舎に追われ、同志愛を育んでいる。ナンバー7の張高麗は、引退後の習近平の父親を大事にした。まだ習近平が、ほぼ無名のときのことだ。だから習近平はこのメンバーたちを党大会寸前に掬(すく)い上げた。

江沢民派の中で、劉雲山だけは習近平自身や習近平の父母との関係を持っていないが、しかし習近平と同じく、元江沢民派ではある。

政治局常務委員会は多数決議決を鉄則とする集団指導体制を、今も行ってはいる。

そのためメンバーは奇数だ。偶数にすると意見が半々に割れたときに、最終議決権は総書記が持っているので、総書記の独断となることを防ぐために、奇数にしているのである。

しかし習近平政権は違う。

多数決議決は最初から習近平側の圧勝となる構成が、最初からでき上がっているのである。

仮に李克強と劉雲山が反対したところで「5対2」で、習近平が提出した議題は必ず通る。

おまけに劉雲山は、元江沢民派なので、元は習近平と同じ派閥にいたことになる。

違うのは李克強だけと思いきや、なんと李克強は劉雲山の上司である李長春(チャイナ・ナインンおナンバー5)と関係していたことが分かった。

李長春は江沢民の腹心。

ということはない、何のことはない、全員が元江沢民派閥であったということになる。

おまけに李克強は習近平と仲がいい。

習近平の座を狙おうとした薄熙来失脚に関して、李克強は陰で大きな力を発揮しているからだ。だから習近平は李克強に感謝している。

この布陣だからこそ、元中央軍事委員会の副主席だった徐才厚や、元チャイナ・ナインの一人であった周永康を逮捕するなど、前代未聞の聖域に斬りこむことができたのである。

別の言い方をすれば、「独裁」も可能だということである。

◆ラスト・エンペラーとなる可能性が大きい習近平

その意味で、世界中、習近平の「皇帝論」が花盛りなのだが、しかし、習近平が最後の皇帝、すなわち「ラスト・エンペラー」になる可能性が大きいと筆者は見ている。

なぜなら、次期国家主席と目されている胡春華では、粒が小さすぎるからだ。

胡春華は胡錦濤が育て上げてきた共青団の人間で、今は政治局委員として広東省の書記を務めている。胡春華政権時代になると、ほぼ共青団派によってチャイナ・セブンは占められることになる。

こうなったら、あの大地を治めきれなくなるだろう。中国共産党による一党支配体制が崩壊するか、良くても連邦制になるのがオチだ。

あの大地には「皇帝」がお似合いなのだが、しかし共青団では「皇帝」になれず、おまけに時代の趨勢は、「皇帝」をすでに許さなくなっているだろう。

習近平の反腐敗運動に関して権力闘争と見る分析が多いが、もしそうなら、彼の闘争相手は誰になるのか?

中国のこれまであった権力闘争というのは「自分の派閥を残して、自分の身の安全を守りたい」ということから来ている。

江沢民が利益集団のドンとなっていて、自分の既得権益を守りたいため(および自分がそれまでにしてきた悪事から自分の身を守りたいため)に、江沢民の腹心を刺客として遣わし、胡錦濤政権時代に、絶えることのない権力闘争を招いていた。それは自分の息子の腐敗を暴かれないようにするためでもあった。

しかし習近平には「系列」がいない。派閥を形成するような「紅二代(太子党)」の系列は、習近平一代で終わりだ。年齢的にも「紅二代(中華人民共和国を建国するために戦った紅軍の第二代)」は、習近平が最後なのである。

中国の政治制度は、ひとたび総書記&国家主席になったら、10年間は絶対に変わらないという特徴を持っている。だから習近平の身分は、民主化革命でも起きない限り、第20回党大会が開催される2022年までは絶対に安泰なのである。権力闘争などをする必要がない。

しかし共産党幹部の腐敗は、中国共産党の一党支配を崩壊させるところまで来ている。

それを食い止め、自分が(ソ連を崩壊させた)ゴルバチョフにならないようにするために、習近平は必死なのである。

胡錦濤もゴルバチョフになりたくないと逃げてきた。

しかし江沢民などの利益集団に阻まれて「反腐敗」を叫んだが、わずかしか実行できなかった。そのツケは、習近平に残された。

だから習近平は権力を一極集中化させて、皇帝になる以外にない。

そうしなければ一党支配体制は崩壊するからだ。

習近平自身は「ゴルバチョフ」にならなくてすむだろう。そのために「紅い皇帝」になった。習近平の時代には中国は崩壊しないだろう。

しかし2022年には、習近平は後継者なしに王座を去る。

年齢的に李克強は残るが、一期(5年間)だけしか残れない。

したがって2022年の第20回党大会では胡春華が党内序列ナンバー1になり、李克強はナンバー2か3くらいになって、一期だけ胡春華を補佐するだろうが、二期目2027年には李克強も年齢的に去る。

李克強にはカリスマ性はないので、2022年からは中国は「皇帝」を失うのである。

つまり、習近平はたしかにカリスマ性を持った「皇帝」となっているが、胡春華政権時代の後半には、中国共産党一党支配は終わりを告げるだろうと筆者は見ている。

それゆえに、習近平は「ラスト・エンペラー」となる可能性は、極めて高い。

おまけに習近平は、必要以上に「皇帝色」を強めすぎている。その意味でも彼は「ラスト・エンペラー」となる可能性を自ら高めているということが言える。彼自身には、それが見えなくなっているとすれば、この可能性は高まるばかりだ。