米中首脳会談「ほめ殺し戦」?――予告された「サプライズ」
米中首脳会談「ほめ殺し戦」?――予告された「サプライズ」
中国のメディアでは早くから「APECでは米中首脳会談でサプライズがあるだろう」と報道してきた。そのサプライズとは何だったのか。「ほめ殺し戦」とも見える米中の蜜月とけん制を読み解きながら分析する。
◆2013年6月の米中首脳会談の逆バージョン
2013年6月、訪米した習近平国家主席はオバマ大統領とカリフォルニアの保養所、アネンバーグ亭で(通訳以外の)二人だけの散歩をし、親しさをアピールした。これは盗聴器が無い状況で、二人の密談的な会話を通して、いかに二人が緊密であるかを示したものだ。
会談は「散歩」も含めて8時間にわたった。
今回のオバマ大統領の訪中は、APEC終了後、11日夕方に、中国指導者の住居と執務室がある中南海で「二人だけの散歩」を再現した、カリフォルニアの逆バージョンだった。
この中南海は、米ソ対立があった冷戦時代の1972年に、米中首脳が初めて接触した場所でもある。
キッシンジャーの忍者外交によって、当時のニクソン大統領と毛沢東(中共中央委員会および中央軍事委員会)主席および周恩来国務院総理(首相)との会談が実現し、この中南海で両国首脳が会った。それは世界の歴史を塗り替え、日本も慌てて田中角栄元首相が訪中して日中国交正常化を果した年でもある。
毛沢東の再来かと言われている習近平主席は、あの衝撃を再現し、国際社会の地殻変動を起こそうという計算を、きちんと織り込んだのだろう。
世界第二の経済大国にのし上がった中国は、今回は「新型大国関係」として、アメリカと対等の強さと米中の緊密さをアピールした。
習近平主席は、中国では「第二の毛沢東」か、あるいはそれ以上の存在として人民の間に人気があるが、それをこの歓迎ぶりで国内外に印象付けたかったにちがいない。
日中首脳会談で安倍首相を一人待たせておいてから姿を現したのとまったく違い、オバマ大統領に対しては、逆に習近平主席の方が一人中南海の湖のほとりにたたずんでオバマ大統領を乗せた車が近づくのを出迎えた。テレビカメラはその場面を大写しにした。
会談時間は11日と12日の二日間を合わせて10時間。
中央テレビ局CCTVは、終始こぼれんばかりの笑顔を崩さない習近平主席の姿と、ハグせんばかりのオバマ大統領の喜びようを何度も何度も、二日間にわたり、一部始終報道した。しかも「国賓として公式訪問」という言葉を強調した。
予告されていた「サプライズ」は、この演出だったのだろう。
◆新型大国関係を認めさせながらもけん制――「ほめ殺し戦」?
会談の内容はすでに多くの日本メディアが報道しているので、ここではくり返さない。
筆者が注目するのは、アメリカにおける中間選挙で大敗したオバマ大統領を、今この時期にこそ最大限に歓待して、「新型大国関係」をアメリカ側に受け容れさせようとしているという点だ。
今は習近平の方がオバマより「有利な(?)」立場に立っている。
そのときに最大限の歓待をして、すでに中国がアメリカの上に立っているようなイメージをいやが上にも持たせるようにするという狙いが透けて見える。
中国の報道で強調されたのは、「互いの政治体制は違うが、その違いを互いに認め合い、相互に協力し合う互恵関係を築いていく」という趣旨の習近平主席の言葉だ。
これはアメリカへの「中国の内政に口出しはするな」というけん制でもあり、互いの経済協力でもある。
まさに「戦略的互恵関係」をアメリカと結び、尖閣諸島の領有権に対しても「アメリカがどちらの側にも立たたない」という立場を明確にしていることに焦点を当てながら、日本を牽制する形で、実はアメリカをも牽制している。
ロシアと中国の蜜月関係が、もし軍事同盟にまで発展した時には、アメリカは何としても中国を自分の側につけておかなければならない。それがアメリカのロシアへの経済制裁など、ロシアとの関係(米露関係)によって困難になれば、日米関係を、より一層頼ることにもなるだろう。
しかしアメリカとしては自国の利益と、中露がこれ以上距離を近づけないようにするためにも、中国をアメリカ側に引き寄せることを非常に重要視していくだろうことが会談から見て取れた。
互いに「ほめ殺し戦」をやっているような米中関係だが、その間にいる日本は米中両国の道具に使われないよう、慎重な戦略を練っていく必要に迫られているという印象を持った。
アメリカの中間選挙で共和党が勝利を収めたアメリカと今後の米中関係。その微妙な変化にも注意を払っていきたい。