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日中首脳会談を読み解く

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

日中首脳会談を読み解く

本日10日、日本時間の午後1時前から北京の人民大会堂で、安倍首相は中国の習近平国家主席と会談した。どの国の首脳に対しても振りまく溢れんばかりの習近平国家主席の笑顔は、安倍首相との握手の場面では全くなかったことが印象的だった。その一方で、ニコリともせず、安倍首相の挨拶にも答えなかった習近平国家主席に対して、安倍首相が柔らかな表情を変えなかったのは「ならぬ堪忍、するが堪忍」の精神で乗り越えたのであろうことが見て取れる。

苦しい首脳会談ではあったろうが、少なくとも「偶発的な衝突を防ぐ海上連絡メカニズムの具体的作業に入ることを確認した」のは高く評価できる。早く実行してほしい。

安倍首相は会談後、「戦略的互恵関係の原点に立ち戻る第一歩になった」「アジアの国々だけでなく、多くの国々が日中両国の首脳間の対話を期待していた。期待に応える形で、関係改善に向けて第一歩をしるすことができた」などと語り、会談の意義を強調した。

歴史認識に関して安倍首相は「平和国家」としての歩みを崩すことはないとしたようだ。

しかし中国は安倍首相の「言動不一致」をひたすら宣伝してきており、今回の会談はあくまでも「日本の強い要望に応じて開催したものだ」と報道し、習近平が決して「親日的なわけではない」ことをアピールしている。

したがって今回の首脳会談が、果たして安倍首相が期待するように戦略的互恵関係の原点に立ち戻る第一歩になり得るのか否かは、これからの課題だ。

会談前に日中合意文書を交わさせたことは、ある意味「条件付き会談」を意味しており、中国の対日政策が変わるということは、あまり期待できまい。

ロシアのプーチン大統領とは、いつもハグせんばかりににこやかに握手し終始笑顔を絶やさずに会談する習近平国家主席は、今回もプーチン大統領と来年の「反ファシスト戦勝70周年記念祭典」を再確認している。これは「反ファシスト戦争陣営」であった「連合国側」に、「中国」がいて、「中国はアメリカとともに日本と戦った」ということを、アメリカに対して発信したい中国の狙いがある。

日米同盟があるアメリカを困らせ、アメリカのアジアでのプレゼンスを落していくのが目的だ。まもなく経済的に世界一になるであろう中国は、アメリカに対して「新型大国関係」を打ち出しながらも、一方ではアメリカの(軍事的)アジア回帰を牽制している。

実際は第二次世界大戦のときに、「中華人民共和国」はまだ誕生しておらず、日本と戦ったのは「中華民国」だったのだが、「中華民国」の国民党軍を中国共産党軍が倒して、戦後、4年後の1949年10月に「中華人民共和国」が誕生したことは、その計算の中にはない。だから中国は、アメリカとは、かつての「連合国」としての「同盟国だった」ことを強調したいのである。

米中首脳会談で「サプライズ」があると、中国の報道はくり返しているが、こういった流れの中でしか、中国が日中首脳会談を位置づけてないことは、中国が早くから決めていた戦略で、その戦略を日本がどのように乗り越えていくのか、安倍首相の力量が期待される。

なお最後に一つだけ注意を喚起したい。

中国共産党は中国を経済発展させることによって一党支配の正当性を中国人民に納得させている。日中経済交流は中国経済の発展を助け、その結果、中国共産党の一党支配体制持続に貢献しているのだという側面を見落としてはならない。

それがいいのか否かは読者の判断にゆだねる。

中国共産党の一党支配体制が長く続いて中国がますます繁栄し、その結果日本が脅威を感じたとしても、取り敢えずは目先の経済交流によって日本が潤うことが重要だと思う人もいるだろう。

しかし少なくとも香港の民主選挙を叫ぶ抗議デモが成功しなかったのは、香港経済が中国に依存し過ぎているために、中国中央の意思に従うしかない状態を招いているからだ。チャイナ・マネーは民主を買う力を持っているのである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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