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中国「四中全会」のテーマは「法治」――腐敗撲滅の一環

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

中国「四中全会」のテーマは「法治」――腐敗撲滅の一環

2014年10月20日から北京で四中全会(第四次中共中央委員会全体会議)が開催される。テーマは「法治」で、これも反腐敗運動の一環だ。

◆経済成長が法治より優先されていた、これまでの中国

昨年11月の三中全会では「全面的に改革を深化させる中央指導グループ(中央全面深化領導小組)」が新しく設立された。組長は習近平だ。改革を深化させる内容の一つに「法治中国」というのがある。

「依法治国」(法によって国を治める)という、民主主義国家では当たり前の概念が中国共産党の一党支配体制の下では行われてこなかった。改革開放後、経済発展を優先したため、経済成長が法治の上に位置付けられていたのである。

だから経済成長の名の下に利益集団が形成され、党幹部のまわりで、中国の伝統文化である「腐敗」が蔓延した。

このままでは中国共産党の一党支配体制は「腐敗」で滅びるのは誰の目にも明らかだった。だから習近平は中共中央総書記になるや、すぐさま(2013年1月に)中央紀律検査委員会(中紀委)会議を(中紀委書記の王岐山に)開催させて、習近平自身、「虎も蠅も同時に叩く」というスローガンのもと、反腐敗運動に斬りこんでいったのである。

1年後の2014年1月までに処分した腐敗分子の数は18.2万人で、そのうち党幹部が15万人。聖域とされていたチャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員会委員9人)の一人であった周永康も、いま中紀委の手の中にあり取り調べを受けている。

四中全会が「法治」をテーマの中心とするのは、この腐敗を軽減していくための法制度を整えるためでもある。周永康は中共中央政法委員会(公安、検察、司法を管轄)の書記だった。この職位を中共中央政治局常務委員会委員から降格させ、チャイナ・ナインをチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員会委員7名)にして誕生したのが、習近平政権だ。

法を司る最高機関であった「中共中央政法委員会」が党幹部の特権を乱用して腐敗の限りを尽くしていたのだから、「法治国家」など望みようもない。そこで中共中央政法委員会書記の職位を降格させただけでなく、今までは斬りこめなかった聖域にまで斬りこんで周永康の取り調べに入っている。

この流れの中で、四中全会が「法治」を中心とせずに開催されることはあり得ない。

周永康を始めとした、少なくない元中共中央委員会委員の党籍剥奪問題も討議されることだろう。

◆軍隊における腐敗撲滅も

もう一つは中国人民解放軍における腐敗問題だ。

胡錦濤時代の中央軍事委員会副主席であった徐才厚は、今年3月に中紀委の取り調べを受け、6月の中共中央政治局会議ですでに党籍をはく奪されている。

これは軍の腐敗に関しても容赦はしないということを象徴している。

事実、今年10月16日、習近平は中央軍事委員会主席として、「軍隊領導幹部経済責任審計規定(軍隊の指導幹部の経済責任に対する会計監査規則)」なるものを発布した。これを実行するために軍隊における昇進の際の「身体検査」を厳重に行ない「帯病昇進」(不正を抱えた者を昇進させること)を厳重に戒めよと強く警告している。

「帯病」とは「病気を持っている」という意味で、その「病気」を事前に発見すべく「身体検査」を厳重に行なえ、ということだ。「病気」を持った者がより高位の権力を手にしていくと、そこから腐敗が増殖していくということを警戒している。

このため「四中全会」では、中央軍事委員会メンバーの人事異動に関しても討議がなされる可能性がある。

徐才厚に関係している人物を完全除去し、「帯病」の萌芽を摘み取る構えだ。

さらに中央軍事委員会の紀律検査委員会強化も図られるものと見られる。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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