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香港デモに関して習近平国家主席が――「三つの確固たる不動」

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

香港デモに関して習近平国家主席が――「三つの確固たる不動」

10月1日の新華網が、2日付人民日報(中国共産党機関紙)で習近平国家主席が香港に関して言った「三つの確固たる不動」という論説を掲載すると発表した。中国では中央テレビ局CCTVでも、翌日の人民日報に何が載るかというニュースを報道する。1日のCCTVも新華網と同じことを繰り返していたので、何が書いてあるのかを見てみた。

◆「三つの確固たる不動」とは何か?

人民日報は香港のデモ「占領中環」(Occupy Central)は非合法集会であり、香港の伝統的な法治を犯し、香港の社会秩序を見出し、香港の民衆の生活に影響を与えるとした上で、習近平談話を発表した。

それは9月22日に習近平が香港の財界や工商団代表と面会したときに言った言葉のまとめである。その内容は

1.「一国両制度」の方針と基本法は、どのようなことがあっても絶対に確固たる不動のものとして貫徹しなければならない。

2.香港が法に基づいて民主的発展を推進することを確固たる不動の姿勢で支持する。

3.香港の長期的な繁栄と安定を確固たる不動の精神で維持していく。

人民日報は、習近平のこの決意にこそ、香港に対する中央の誠意と発展を望む気持ちが表れていると解説している。そして「民主と法治は不可分だ」と強調しているのである。

◆中国にとっての「民主と法治」とは?

中国から「民主と法治は不可分だ」と言われる覚えはないと、香港市民は思うだろう。

それが実行されてないからこそ若者は怒り、激しく抗議しているのではないのか。

しかし中国の国務院新聞弁公室はこれに備えて、今年6月10日、『一国二制度の香港特別行政区での実践』に関する白書を発表し、祖国復帰後の「一国二制度」について「これは香港固有のものではなく、すべて中央政府から与えられたものである」と書いている。

つまり香港が中国に返還されたときに制定された「香港基本法」に関して、微妙に香港行政府の自治権を中国大陸側に移しているのだ。

それが可能なのは香港基本法を制定したのが全人代(全国人民大会)で、基本法の解釈に関しては全人代常務委員会が権利を持っているからである。

したがって「法の解釈」によって微妙に中央政府に有利なように動く可能性を持っている。これが中国の「民主と法治」なのである。

◆中国政府は絶対に譲らない

香港で抗議活動をしている若者たちは、今夜中(10月2日内)に行政長官が辞任しなければ、行動を拡大すると言っている。しかし中国政府は絶対に譲歩しないだろう。集会が違法だと主張する理由を、中国側は「中環という商業にも行政にも重要な地区を占拠すれば関連活動が停滞し、交通渋滞などでさらに市民活動に支障をきたす」としている。したがっていざとなったら「社会秩序を乱した罪」で逮捕されるし、また最悪の場合は武力鎮圧をも辞さない構えだ。手段を選ばないと言っている。

となれば、天安門事件の二の舞の可能性さえある。

そのようなことにでもなれば、中国は国際社会から非難を受けるだろうが、経済制裁をしても、制裁をした国が困るほど、日本を含めた多くの国が中国経済に食い込んでいる。また中国の経済自身が、天安門事件が起きた1989年の時点とは比較にならないほど発展してしまっている。

このような事象が起き得る国家と交易を深めるのは、こういったリスクを常にはらんでいることを自覚しなければならない。

ただ中国は、国内の民主化への引き金になる危険性を、その見返りとして抱えることになることもまた、同時に中国が覚悟しておかなければならないだろう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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