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NHK朝ドラ「ちむどんどん」に登場、沖縄の暮らしを支える「共同売店」の歴史、課題と行方

江口晋太朗編集者/リサーチャー/プロデューサー
(写真:イメージマート)

先週から放送が開始したNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」。日本復帰50年の節目に、アメリカの統治下で過ごしたヒロインを描きながら、沖縄の過去と現在の苦悩をテーマに据えた内容だ。

放送開始直後から、沖縄の自然や郷土料理など沖縄の文化への注目が集まっているなか、ヒロインの比嘉暢子一家が暮らす山原村にある「共同売店」での様子も印象的で、「ちむどんどん」ではじめて共同売店という存在を知った人もいるかもしれない。

共同売店」は、100年以上続く沖縄独自の文化として知られている。地域の協同組合的組織として、地域住民らによって出資・運営されてきた歴史を振り返ってみると、沖縄の文化をより深く知ることができるだろう。

沖縄で100年以上続く「共同売店」とは

「共同売店」とは、小さな集落生活を維持するため住民らが出資・運営する集落単位の共同体で、沖縄本島や離島の一部に存立する商店である。その起源は、1906年に国頭村の「奥」という集落で生まれた「奥共同(売)店」だ。

一般的なスーパーや商業施設のように特定の企業が店舗を構え商売するのではなく、共同売店は基本的に「」による区画単位で概ね一つの村落から構成され、字の全住民の出資によって運営されている。そのため、共同売店は地域住民らによる共同資産という扱いだ。また、共同売店の主任(いわば、店長のような存在)も、基本的に地域住民の誰かが担う(詳細は後述)のも特徴的だ。

中心市街地から離れた村落では、共同売店は村落の中で唯一の商店街であるところも少なくない。そのため、共同売店が村落の「まち」を果たしており、日常の買い物や住民らが日常的に交流する場にもなっている。そのため、共同売店の隣接には私設の公民館(沖縄には、公設の公民館と私設の公民館が共存している)があることも多く、地域や村落の中心地として共同売店や公民館が機能している。

生産、購買、販売など多様な役割を果たしてきた

村民らが出資をして設立・運営することから、共同売店は地域所有の共同財産として管理運営されており、その運営体制も独特のものがある。

1957年に発表された『琉球村落の研究-国頭村奥区調査報告-』によると、以下のような記述がされている。

当時の奥の共同店の事業は生産、購買、販売、信用の各分野に及んでいる。生産事業においては、製茶業、精米業、酒造業、電灯業、購買事業では区民の必要とする消費物資を取扱い、販売事業としては区民から買い取った林産物、農産物等を外部に搬出売却する。信用事業においては、区民に対して信用授受の業務を行うと共に余裕金の投資を行う。

『琉球村落の研究-国頭村奥区調査報告-』

つまり、地域産業の核として地場の生産の主体であり、さらに、地域住民らから買い取った物資(野菜などの地場産物)を外部(沖縄の中心市街地や鹿児島など本土)に販売する行商的な役割、そして共同購入による日用品の調達、ひいては、融資や病院などの見舞金など共済(保険)機能といった金融的存在など、複数の機能や役割を有した存在であることが見て取れる。その核には、共同売店は村落経済を発展させるという大きな役割が付与されているのだ。

また、管理運営においても独特の制度がある。共同売店の運営責任者は、村会議員と同様に共同売店の主任を選挙で選出し、毎年の売り上げ帳簿の開示や情報公開などを総会を通じて承認される運営体制が取られている。地域住民らによる共同資産という存在ゆえの独特の制度ともいえる。

共同売店の衰退と変容

村民らが出資をして設立・運営すると言っても、歴史的な過程をみると、その実は運営を継続し続けるために多くの苦労や管理体制の難しさがある。

沖縄で共同売店が始まる1900年代初頭、当時、日本では1900年に産業組合法が成立したことを受け、沖縄にも産業組合の流れが入り始めてきた。奥共同店でも、一時は産業組合に切り替えたものの、数年で運営が立ちゆかず、解散したという経緯もある。

その後、奥共同(売)店を皮切りに、ある種の「商業の共同化」を通じて村民の共同の利益を確保するというあり方は、沖縄村落における生活においても仕事においても必要不可欠なものとして広がっていき、沖縄各地で多くの共同売店が設置されてきた。

第二次世界大戦をはさみ、1951年にアメリカ合衆国の管轄下におかれ、1972年の沖縄返還などを経て、1980年代以降、共同売店は次第に低迷の一途をたどるようになる。

沖縄本島の北部や離島では、道路などのインフラ整備が急速に進み始め中心部への人口流入が進むと同時に過疎化と高齢化が加速したことで、共同売店の維持管理が難しい村落が続出した。「字」単位で展開されていた共同売店は、中心市街地を中心に閉店が相次ぎ、今では数えるほどの数しか共同売店は残っていない状況である。また、基本的に運営に携わるのは同じ「字」の住民同士であることから、「厳しい掟」「厳しい人間関係」など、村落という限られた人間関係の難しさも抱えており、共同売店がある種のユートピア的共同体幻想に対する懸念は当時から指摘されていた。

幅広く事業展開していた共同売店も、その多くがごく一部の生産事業以外は購買事業など限られた事業にまで縮小しており、いまや、ぱっと見は地域のコンビニと同じようなたたずまいになっているのが現状かもしれない。今は基本的に、運営形態として主任制(組合による共同)、直営(組合を解散し、集落が直接所有)、請負制(経営を外部人材や個人に委託)のお店がある。特に請負制は、個人や外部に経営を委託するという形態であり、時には地元住民と請け負った側との意識の相違によって運営が困難となり閉店するケースもしばし起こりうる。他にも、元共同売店で建物を個人が買い取ったものの土地や地域所有のままで店名もそのままな場所や、担い手が見つからず長年閉店していたが、新たな担い手が見つかり営業再開するところなど様々だ。

共同売店における地域福祉的役割

一方、現在の共同売店は、交通が不便な場所が今なお存続する状況のなかで、この不思議な状況に研究者らが着目し、2000年頃から共同売店の持つ新たな可能性として、地域への包摂性が注目されるようになる。

買い物難民」や「地域包括ケア」などの社会問題の議論が盛んにされ始めている昨今、共同売店がそうした問題への解決の糸口になるのでは、という考えがでてきている。実際に、「買い物難民」問題について書かれた書籍で、共同売店に言及される(『「買い物難民」をなくせ!消える商店街、孤立する高齢者』杉田聡)など、いわば地域福祉的な機能としての共同売店というあり方が次第に浮かび上がってきている。

現存する沖縄の共同売店についてリサーチや活動を行う「愛と希望の共同売店プロジェクト」のメンバーらによると、とある共同売店では10名以下の「字」でも運営が成り立っている共同売店があるという。もちろん、共同売店の運営者は「字」内に暮らす高齢者だ。共同売店の中の商品をのぞくと、個別具体に、どこに暮らす誰が、どんな商品を、いつ買いに来るか、その人らの個人個人の趣味や嗜好を把握した上で、限られた商品を陳列し、日々運営している。日常的に接することで、普段の体調の具合や、数日顔を見せないことで、何かあったのでは、ということを察することができる。地域住民らによって支え合う形で維持されているのだ。

また、その共同売店では、高齢者たちのお孫さんらが帰省時にいくばくかのお金(数万円ほど)を共同売店に置いていくという。置かれたお金は、祖父母らが共同売店に買い物に来た際に使った分だけ引き落とされる。直接、祖父母にお金を渡すのではなく、日々の生活に必要な日用品や食料品の購入に充てるために、共同売店にお金をチャージする仕組みによって、共同売店の運営や高齢化した地域住民らのある種のセーフティネットとして機能している。こうした、ある種の「ケア」的な振る舞いが、日々の住民達の生活の安定に寄与している共同売店も存在するのだ。

残された共同売店の行方

経営を維持するために一部では観光地化を目的とした共同売店もある。外部の人たちが一定程度訪れることを見越して商品を仕入れ、そこで出た売上が地域住民らに還元されることをみると、一定程度の外部からの流入や売上見込みがあることに意味はある。しかし、共同売店の本来の意味に立ち返るならば、地域住民らに必要な資源や商品を共同売店というハブを介して調達し、共同購入する窓口であるべきでもある。外部の流入と地域内の経済というバランスをいかに取るかは、答えのない課題である。他にも、金融的な側面は生活の安定、維持にも欠かせない。単純な物資の売買だけの機能にとどまらない役割がそこにはある。

「商業の共同化」という当初の目的から、地域内の相互扶助、地域コミュニティのハブや居場所作りといった目的へと次第にシフトしていることからも、社会の変化とともに変容する共同売店を通じ、他の地域における様々な地域課題と向き合う際の一つのあり方として、その歴史や過程を振り返り分析することに大きな意味があるはずだ。

いまはどうにか経営を維持している共同売店も経営状況が良いとも言えず、時代の変化に呼応しながらも、いかにして現代にその文化を引き継いでいくか。先にも触れた「愛と希望の共同売店プロジェクト」や、長年共同売店の情報発信などを行う「共同売店ファンクラブ」など、沖縄で共同売店の価値を発信する活動を丁寧に行っている団体もいる。そうした地元で活動している方々とともに、この沖縄に長年続く文化をより良い形で継承できる道を模索していきたい。

なお、共同売店に関する調査研究として、沖縄国際大学内の南島文化研究所が長きに渡って調査研究しており、研究成果をまとめた『共同売店の新たなかたちを求めて-沖縄における役割・課題・展望-』で、沖縄独自の文化の発展やその過程がつぶさにまとめられているので、ぜひそちらもご覧いただきたい。

編集者/リサーチャー/プロデューサー

編集者、リサーチャー、プロデューサー。TOKYObeta代表、自律協生社会を実現するための社会システム構築を目指して、リサーチやプロジェクトに関わる。 著書に『実践から学ぶ地方創生と地域金融』(学芸出版社)『孤立する都市、つながる街』(日本経済新聞社出版社)『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)他。

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