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村木さんら法制審有識者委員が緊急アピール「可視化の拡大を急がなければ市民の人権が危うい!」

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
記者会見する右から周防、神津、村木、松木、安岡の各氏(司法記者クラブで)

 2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、河井克行元法相から金を受け取った地元政治家に対し、検察官が不起訴を示唆するなど誘導して取り調べを行っていたことが明らかになったのを受けて、5年前の法制審議会特別部会で委員を務めた村木厚子さんら有識者委員5人が8月30日、緊急アピールを発表。全事件・全課程への取り調べの録音・録画(可視化)に向けて、刑事訴訟法を改正し、刑事司法制度の抜本的・全体的改革を進めるよう求めた。

 アピールを行ったのは、村木さんのほか、神津里季生・元連合会長、映画監督の周防正行さん、松木和道さん、安岡崇志さん。特別部会においても、5人は可視化は原則として全事件を対象とし、取り調べの全課程で行うよう求めていた。ただ、法改正の際には、裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で、身柄拘束をしている被疑者に限っての導入となった。5人は、広島の選挙買収事件での検察の取り調べ状況を知り、「全件・全課程の可視化を急がないと、また市民の人権が危うくなってしまうという危機感を抱いた」という。

 改正刑訴法は全面的な施行から3年後に見直すことになっている。法務省は昨年7月、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」を立ち上げたが、メンバーのほとんどが刑事司法の専門家で、市民を代表するような有識者委員は、新聞社の論説委員が1人入っているだけ。しかも、会議は未だ7回しか開かれておらず、いずれも非公開。今年7月6日に行われた会議の議事録は未だ公表されていないなど、その議会運営はさらなる法改正に消極的な姿勢がありありだ。

危機感を訴える村木厚子さん
危機感を訴える村木厚子さん

 村木さんは、「法制審の時に、今後法改正をして全面実施するという道筋も示されたのに、その約束が反故にされてしまうのではないか」と深刻な懸念を訴えた。

 5人が求めているのは、次の3点。

(1)「協議会」での検討を急いで、1日も早く法制審における審議に移り、全事件・全課程の取り調べの録音・録画を含む実効ある法改正を行う。

(2)検察官が密室において違法・不適切な取り調べで作った調書を裁判で安易に証拠採用し、無実の市民が有罪とされたりすることがないよう、裁判所が独立した機関として期待されている十分に果たす。

(3)刑事司法は市民1人ひとりの人権と深く関わるものなので、改正のための議論は、先の法制審特別部会と同様、市民の意見を聞きながら行うべき。そのためにも、現在進行中の協議会はメディアの傍聴を認めるなど、審議状況を広く市民に知らせ、法制審には一般市民の代表者を相当数メンバーに加える。

 警察や検察は、しばしば「カメラの前では被疑者は本当のことを語らない」と主張する。これについて村木さんは、「(全面可視化を)やってみて、不都合が起きたなら、それを事実として出してもらい、検証してどうするかを考えるべき」と述べた。また、周防さんは映画監督としての経験から、「映されている人は、カメラの存在をすぐに忘れる。現に、録音・録画をしている状態でも、捜査官が違法な取り調べをしたケースはいくつも聞いている」と述べ、「密室でないと人は本当のことを語らない、という発想は、公開法廷の意義を否定しているようなものだ」と語気を強めた。

周防さん(右)と神津さん
周防さん(右)と神津さん

 また、神津さんは「人権について、検察・法務省当局はいったいどう考えているのか。治安維持のためには多少間違いがあってもしょうがないという進め方をしているようだ。誤りがあれば、1人ひとりの人生が狂う。そういうことがなくなって初めて、日本は人権が大事にされる国だと言える。今はそのはるか手前にいる」と危機感をあらわにした。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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