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成瀬國晴氏が個展「阪神タイガース2023日本一記念“さあ みんなで今季も”」に込めた思いとは

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
タイガースファン歴75年というイラストレーター・成瀬國晴氏

■19年ぶりとなるタイガース関連の個展

 胴上げされる岡田彰布監督に右腕を振るう村上頌樹投手。佐藤輝明選手は豪快なスイングをしている。走攻守で躍動感あふれるプレーをしているのは近本光司選手だ。

 現在開催中のイラストレーター・成瀬國晴氏の個展「阪神タイガース2023日本一記念“さあ みんなで今季も”」では、今にも飛び出してきそうなイキイキとした虎戦士たちの姿に出会える。

 成瀬氏のタイガース関連の個展は実に19年ぶりとなる。

 昨年9月14日、タイガースがリーグ優勝をした瞬間だ。「描こう!」と思い立ち、まず岡田監督が選手たちの手で宙に舞う姿を描いた。「3、4日で描き上げたんじゃないかな。1週間もかかってない」と成瀬氏。

 「05年は『目指せ!日本一』というタイトルで東京と大阪で個展をやった。そのときは日本一にならなかったけど、その思いは僕の中で残ってるわけよね。ずっと優勝できずにいた中で、去年は5月にえらい調子がええやん、と(笑)。ひょっとしたらわからんなという気持ちはもっていたけど、描くとこまではいってなかった。ところが、リーグ優勝した。それで描きだした」。

 優勝の喜びに衝き動かされた成瀬氏は、続いて選手たちを集めた絵を投手と野手に分けて描いた。すると、あれよあれよという間に日本一になり、「(優勝時の絵は)胴上げばっかりやん。日本一も胴上げか?」と思案し、今度はチャンピオンフラッグを掲げる誇らしげな岡田監督を描いた。「これでバラエティに富んだんや」とニヤリ。

 さらにこの個展に向け約半年間、次々と選手を個々に描いていった。マグマのように蓄積した積年の思いが、一気に爆発したかのようだった。

入り口を入ると、チャンピオンフラッグを掲げる岡田彰布監督の笑顔が出迎えてくれる
入り口を入ると、チャンピオンフラッグを掲げる岡田彰布監督の笑顔が出迎えてくれる

(左上から時計回りに)村上頌樹、岩崎優、佐藤輝明、大山悠輔の絵
(左上から時計回りに)村上頌樹、岩崎優、佐藤輝明、大山悠輔の絵

■タイガースを描きながら世相も

 ファン歴75年を誇る成瀬氏とタイガースの縁は深い。後藤次男監督時代からスポーツニッポン新聞社の仕事でキャンプ地や球場に足を運び、新聞紙上でタテジマ戦士たちを描いてきた。「田淵幸一)さんがいたころやな。掛布雅之)が入ってきてなぁ」となつかしむ。

 吉田義男監督時代の1985年、球団からチームスローガン「3F野球(フレッシュ、ファイト、フォア・ザ・チーム)」の横断幕デザインを任され、チームは日本一を達成した。その後もチームスローガンの横断幕デザインは野村克也監督、星野仙一監督の時代まで続いた。

キャンプ地に掲げられたチームスローガンの横断幕(パネル展示)
キャンプ地に掲げられたチームスローガンの横断幕(パネル展示)

 2003年、2005年と優勝を記念して個展を開いたが、その後は途絶えた。しかしようやく昨年、18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に輝いたことで、19年ぶりの開催が実現した。

 会場には先述した岡田監督ほか、投手、野手と分けて展示されている。ゴールデングラブ賞の5人の選手たちの隣には昨年、早逝した横田慎太郎さんの最後のバックホームシーンが並ぶ。「これはご遺族に差し上げるということで描いた」。在りし日の横田さんが、そこに息づいている。

横田慎太郎さん
横田慎太郎さん

 おもしろいのは、2005年の優勝時と昨年のそれとの違いだ。

 「一番、手間がかかったのはタオルや。風船はパーッと描けたけど、今回はタオルの中の絵をきっちり描かなあかん。ごっつう時間がかかった(笑)」。

 2005年の絵は背景にジェット風船が飛んでいるが、コロナ禍以降、甲子園球場ではジェット風船に代わってタオルが掲げられるようになった。昨年の絵には、そのタオルがリアルに描かれているのだ。

 「これは、いわゆる風俗画になっているんやな。僕は監督や選手だけじゃなく、お客さんもたくさん描いた。雨の中の親子、応援団…ずっとスケッチしてきた。まだ女性が甲子園に来てないころの絵もある」。

 2003年に出版した画集『夢は正夢 阪神タイガースの20年』を開くと、タイガースを描きながらも、その中に世相も表現していることが見てとれる。

2005年の優勝時はジェット風船が富んでいる
2005年の優勝時はジェット風船が富んでいる

2003年の胴上げの絵ではタオルが描かれた
2003年の胴上げの絵ではタオルが描かれた

■タイトルに込めた「さあ」の意味

 プライベートでゴルフをともにするなど、昵懇の間柄である岡田監督の再登板が決まったときは、「何かはやるだろう」という思いがあったと振り返る。

 「僕らは岡田さんに忘れていた野球を教えてもらった。学び直したね。基本の大事さというかね、守りが一番であるとか、フォアボールの重要性とかね。岡田イズムというのは、原点に戻れということや」。

 岡田イズムが選手に浸透し、個々に成長したとうなずく。その結実が18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一だったわけだ。

 成瀬氏にとってもこの上ない喜びだったという。

 「そら、筆も進むわな(笑)。僕、米寿(88歳)やで。米寿でこんなことやってる人、おるか(笑)? 選手や球団から元気をもろたんや。その元気で描けた。今度は選手のみんなに元気を返さないと。『さあ』というタイトルもそういうことや。『さあ、みんなで今季も応援していきましょう』と、な」。

 「おめでとう」「ありがとう」は昨年もう済んだ話だ。それよりこれから始まるシーズンに向けて、気合いを込めたと明かす。

(左から)チャンピオンフラッグを掲げる岡田彰布監督、2023年シーズンを戦った野手陣
(左から)チャンピオンフラッグを掲げる岡田彰布監督、2023年シーズンを戦った野手陣

ゴールデングラブ賞を受賞した5選手
ゴールデングラブ賞を受賞した5選手

■次回の個展に新たに加わる若虎は?

 個展初日には、吉田元監督や粟井一夫球団社長も訪れた。

 「吉田さんは言うとった。『ジャイアンツも強なかったらあかん』と。ジャイアンツが強くて、さらにその上をいくのがタイガースでないとあかんからな(笑)」。

 両雄が並び立ってこそ、野球界は盛り上がる。明日の開幕戦は、そのジャイアンツが相手だ。いきなり「伝統の一戦」で幕を開けるシーズンは、どのような結末が待っているのだろうか。

開催初日に駆けつけてくれた吉田義男元監督(左)と(写真提供:成瀬國晴氏)
開催初日に駆けつけてくれた吉田義男元監督(左)と(写真提供:成瀬國晴氏)

 「去年は途中から心の準備はしたけど、今年はもう今から準備しているで」と、腕をぶしている成瀬氏。新たな戦力を描くことを楽しみにしているという。「門別啓人)とな、(前川右京も入るわな。それはもう間違いないな」。

 早くも次回の個展に並ぶ若虎たちの姿をイメージし、「連覇できるように祈るわ」と、ワクワクした様子で成瀬氏は笑った。

 「阪神タイガース2023日本一記念 成瀬國晴個展」は4月1日まで、阪神百貨店梅田本店の8階催事場で開催している。

岡田彰布監督から寄せられた色紙
岡田彰布監督から寄せられた色紙

【阪神タイガース2023日本一記念 成瀬國晴個展】

期間:3月27日~4月1日

場所:阪神百貨店梅田本店8階催事場(タイガースショップ前)

入場料:無料

【成瀬國晴(なるせ くにはる)】

1936年 大阪生まれ

*日本漫画家協会会員

*甲子園歴史館顧問

*大阪府立上方演芸資料館(ワッハ上方)運営懇話会委員

*ラジオ大阪番組審議会委員長

 ◆著書◆

「ばんざいばんざいタイガース 甲子園ドキュメントスケッチ」

「ドキュメンタリー大相撲」

画集「夢は正夢 阪神タイガースの20年」など

熱心に筆を走らせる成瀬國晴氏
熱心に筆を走らせる成瀬國晴氏

(表記のない写真の撮影は筆者)

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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