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ファーム新球団・くふうハヤテが虎退治で初勝利!プロ目指し市役所職員から転身した早川太貴が勝ち投手に

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
ウィニングボールを手にする赤堀元之監督と勝利投手の早川太貴

■開幕7試合目での初白星

 今季からNPBファームウエスタン・リーグに加盟したくふうハヤテベンチャーズ静岡が3月22日、2-0と阪神タイガースを完封し、開幕7戦目で初勝利を挙げた。15日の開幕後、1分けをはさんで5連敗というトンネルをやっと抜け出せた。

 勝利の瞬間、マウンドに集まったベンチャーズナインは笑顔を弾けさせた。ハイタッチで出迎える選手たちの表情にも、喜びがあふれていた。静岡から応援に駆けつけたファンも「このときを待っていた」と涙を浮かべ、“歴史的快挙”を見届けた。

初勝利の瞬間、マウンドに集まるベンチャーズナイン
初勝利の瞬間、マウンドに集まるベンチャーズナイン

元NPB選手の田中健二朗、倉本俊彦、福田秀平、居谷匠真の姿も
元NPB選手の田中健二朗、倉本俊彦、福田秀平、居谷匠真の姿も

■阪神タイガースを完封

 この“歴史的快勝劇”の主演は、先発の早川太貴投手だ。虎打線を相手に7回を投げ、許したのは散発の単打3本のみで、ホームは踏ませなかった。

 力強いストレートにキレのあるスライダーを中心にスプリットを駆使し、ときに大きなカーブでタイミングを崩して若虎たちを翻弄した。物怖じしない堂々としたマウンドさばきは見事だった。

 「まっすぐの強さが一番の強み」と胸を張るとおり、ストレートはぐいぐいと打者を差し込んでいた。これまでの最速は150キロだという。この日は鳴尾浜球場のスピードガンの調子が悪かったようで、ストレートの球速表示は130キロ台にとどまったが、トラックマンの計測では140キロ中盤だった。気温が上がれば今後、さらに上がるだろう。

 変化球の持ち球は「カーブ、スライダー、カットボール、ツーシーム、スプリットで、一番自信があるのはスプリットです」と言い、渡邉諒選手を空振り三振に仕留めた96キロのカーブには「あれはいい感じでした」と笑顔を見せた。

早川太貴
早川太貴

■開幕投手として登板した先週

 ちょうど1週間前、オリックス・バファローズ戦で開幕投手としてマウンドに上がったが、被安打10、与四球5で山中堯之選手には3ランを献上し、4回7失点(自責5)でノックアウトされた。同じ轍は踏むまいと、強い決意をもっての登板だった。

 「前回ダメだった部分を修正して臨もうと思った。(ストライクを)狙いすぎて四球が続くのが一番ダメ。カウントを悪くしてヒットを打たれることが多かったので、もっと広く見て、今日は自分の中で余裕をもって投げられたのがよかったかなと思います」。

 与えた四球もわずかに1。「自分のやることをやろう」というテーマを実現でき、「強いチームにいいピッチングができたのは、自身になりました」と、誇らしげな表情を見せた。

早川太貴
早川太貴

早川太貴
早川太貴

■元NPB投手のアドバイス

 “師匠”の教えも大きかった。「僕は変化球を投げるのがあまり得意じゃないので、健二朗さんにはどういう意識で投げているのかを聞きました。『まずベース板を外さないこと、浅いカウントからわざわざ狙いすぎる必要はない』と言われました」と、田中健二朗投手(元横浜DeNAベイスターズ)からアドバイスを受け、それによって気持ちに余裕が生まれた。

 「健二朗さんのおかげでメンタルが安定した分、いいところに投げられたかなと思います」。

 田中投手からは、ほかにもボール球の見せ方なども教わっており、今後さらに余裕ができたら実行し、次の段階へステップアップするつもりだ。

 その田中投手も同日、2点リードの八回1死一、二塁で登板すると、きっちり火消しをして見せ、回をまたいで最終回も三者凡退に抑えて2015年(セントラル・リーグ)以来のセーブを挙げた。

 早川投手へのアドバイスについては「そんなたいしたこと言ってない(笑)。やったのは本人だからね」と照れくさそうに笑うが、投手陣にとって大きな存在であることは間違いない。

田中健二朗 左奥は倉本寿彦
田中健二朗 左奥は倉本寿彦

1・2/3を抑えて初セーブ
1・2/3を抑えて初セーブ

■市役所勤めを辞めてファームリーグに挑戦

 1年前の今ごろ、早川投手は北広島市役所で地方公務員として働いていた。プロ野球選手を目指して北海道大麻高校から小樽商科大学に進学したが、「球速が上がったのも大学4年になってからで、コロナもかぶっていたりして、どこのチームにも行けなかった」とNPBのスカウトの目に留まることはなく、それどころか社会人チームからの誘いもなかった。

 それでもプロ野球選手への夢はあきらめきれず、市役所に勤めながらクラブチームウイン北広島でプレーした。だが、「北海道のクラブチームでは強かったけど、企業チームには勝てなくて、そんなにレベルが高いという感じではなかったですね」と、中央でアピールする機会はないまま時だけが過ぎていった。

 そんなおり、NPBのファームが2球団増えることを知り、くふうハヤテのトライアウトを受けることにした。大学卒業時、独立リーグに進むことには大反対した両親も「NPBなら」と折れ、快く送り出してくれた。

 そうして、すべてを捨ててファームリーグに飛び込んだ。

早川太貴
早川太貴

早川太貴
早川太貴

■ドラフト指名を勝ち取る!

 ファームとはいえ、「ストライクからボールになる球を投げても、なかなか簡単に振らないところとかは、やっぱり今までのレベルと全然違う」と、相手の実力の高さに舌を巻く。

 だが、「それを変に意識しすぎたのがダメだった」と前回のバファローズ戦を振り返り、今後も今回のタイガース戦のように気持ちに余裕をもって向かっていきたいと誓う。

 目標はただ一つだ。

 「ドラフトでNPB12球団に入りたいというのが、個人として一番の目標。1試合よかったからといって(ドラフトに)かかるわけはないので、シーズンを通して結果を残せるように頑張っていきたい」。

 シーズンを通して野球漬けという生活は初めての経験になる。これから疲労がたまることもあるだろ。リーグ最東端に位置することから、移動の苛烈さも堪えるだろう。

 しかし、これまでにはなかった「見てもらえる環境」は、なによりありがたい。スカウトの目、ファンの目も意識しながら、それに応えるピッチングを今後も見せていく。そして秋には念願の「ドラフト指名」を勝ち取る。

早川太貴
早川太貴

■初勝利に赤堀元之監督は満面の笑み

 田中投手からウィニングボールを受け取った赤堀元之監督(元近鉄バファローズ大阪近鉄バファローズ)は、「ほんとによかったですね。みんな、『勝つぞ』という気持ちが出ていた試合だった」と相好を崩す。

 「いいプレーも出たし、早川がしっかりとゲームを作ってくれた。フォアボールがなければ試合はうまく機能する。ストライク先行すれば、こういうゲームになる。やはりピッチャーが大事だなというのは、本当にわかりました」。

 敵失で得た貴重な2点を守り抜いた守備、そして先発・早川投手の好投に目を細めた。

 「投げる気持ちを変えたんだと思います」と、前回からきっちり立て直した早川投手を讃え、「荒れるボールは少ない。安定した投球はできるので、核になってしっかりできる」と、先発の柱としての活躍を期待している。

 加えて、ピンチを救ったベテラン・田中投手についても「すごくチームのことを思ってくれている。しっかり抑えてくれたのは本当にすごいし、感謝している」と語り、今後もその経験を後輩たちへ伝授してくれることを願っていた。

 「こういう小差でもいいんで、しっかりと戦えるようなチームにしたい。1つ1つ勝つ気持ちを忘れないで、みんなが挑戦することを大事にして、これから1試合1試合戦っていきたいと思っています」。

 そして「気持ちいいですよね」と、新チームでの初めての白星の味を噛みしめていた。

赤堀元之監督はウィニングボールをにぎにぎ
赤堀元之監督はウィニングボールをにぎにぎ

試合後のミーティングでも笑顔が絶えない赤堀元之監督
試合後のミーティングでも笑顔が絶えない赤堀元之監督

■和田豊監督も目を見張る

 足を使った機動力、球ぎわに執念を感じさせる好守備は、相手監督をも唸らせていた。タイガースの和田豊監督は試合後、こうコメントした。

 「いや、エンドランとかさ、食らいつく姿勢は見事だよね。もうほんとに1球に対する思いっていうかね、そういうところは逆に見習わないといけない。ファウルグラウンドを追ってスライディングしながら捕球したり」。

 レフト・西川僚祐選手(元千葉ロッテマリーンズ)、ショート・仲村来唯也選手、ファースト・福田秀平選手(元福岡ソフトバンクホークス千葉ロッテマリーンズ)らの好捕は、ゲームをビシッと引き締める超ファインプレーだった。

歴史的勝利を刻んだ2024年3月22日(阪神鳴尾浜球場)
歴史的勝利を刻んだ2024年3月22日(阪神鳴尾浜球場)

■8試合で1勝6敗1分

 なお、翌日は雨天中止、3戦目は奮起した虎打線につかまり1―15(五回、降雨コールド)で敗れ、この3連戦は1勝1敗で終えた。

 静岡県からはるばる5時間かけて兵庫県まで遠征してきたが、多くの収穫を手にしたベンチャーズナイン。シーズンはまだ始まったばかりで、ここから戦いは長く続く。

 早川投手はじめ、ドラフト指名を目指す選手たちのアピール、そしてチームとしての成長が楽しみだ。

田中健二朗から赤堀元之監督にウィニングボールが手渡された
田中健二朗から赤堀元之監督にウィニングボールが手渡された

【早川太貴(はやかわ だいき)*プロフィール】

1999年12月18日(24歳)

185cm・96kg/右投右打

北海道大麻高校―小樽商科大学―ウイン北広島

北海道出身/背番号41

初勝利を挙げた早川太貴
初勝利を挙げた早川太貴

(撮影はすべて筆者)

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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