阪神連覇を願ってミスタータイガース・掛布雅之氏ら阪神OBが生田神社の節分祭で豆まき
■生田神社の豆まき神事
「福はぁ~内」「福はぁ~内」
すっきりと晴れ上がった空の下、神戸市の生田神社の境内には活気ある声が響きわたり、特設の櫓からまかれる福豆に手を伸ばす参拝者たちで大賑わいとなった。
2月3日に行われた節分祭。櫓の上には阪神タイガースのOBたちが顔をそろえた。ミスタータイガース・掛布雅之氏をはじめ、往年のエースでノーヒッター・川尻哲郎氏、地元関西出身のドラフト1位・的場寛一氏、左のスリークォーター・山本翔也氏だ。午前と午後の2度、「福男」として豆まき神事に参加し、約3,000人の参拝客を喜ばせた。
■豆まきのコツとは?
「久しぶりなんですよ、豆まきやるのは」。
そう言って掛布氏は、なつかしそうに現役時代を振り返った。当時は毎年、主力選手が方々の神社で豆まきに参加し、「僕は京都の九頭竜神社(九頭竜大社)の担当でね。田淵(幸一)さんは生田さん(生田神社)にお世話になってたんじゃないかな」と豆まきを終えたあと、高知県の安芸でキャンプインしたのだと明かす。
豆をまきながら、参拝客の顔を見て感じるものがあったそうだ。
「去年の阪神の日本一というものを、すごく喜んでいただいているなと。みなさんの笑顔がすごく嬉しかった。今年は能登の地震もありましたのでね、神戸の方たちは29年前の震災を経験されているので、この笑顔が向こうに届けばなぁと、そういうものを感じながらまいていましたね。えぇ、えぇ」。
そして、人々の笑顔に自身も元気をもらえたと喜んだ。
川尻氏も「豆まきは初めてじゃないかな。いや、やったことあるような気もするけど…やっぱ初めてかな」と笑い、「ああやって高いところから見る景色は違うね」と楽しんだ。
ただ、「肩が痛くて遠くに投げられないんだよ」と利き腕ではなく左手で投げていたようだ。軽い豆とはいえ、30分間投げ続けるのは、なかなか大変な作業だっただろう。
昨年に続いて2度目だという的場氏は、3年ぶりの開催だった昨年との違いを感じたという。
「去年はコロナ明けでようやく人が集まって、なんか楽しんでいいんかなっていう雰囲気だったけど、今年は本当にひとりひとりが心の底から楽しんでいる様子が見えた。だから僕自身もすごく楽しめたし、来てよかったなって思ってもらえる時間を一緒に過ごせた。こっちも元気をもらったみたい」。
経験者だけあって、コツも会得した。
「上から投げると風に乗って変化するから、自分のとこに来たと思っても取り逃している。ブーメランみたいに投げると軌道が想定できて取りやすいみたいで、キャッチする確率が高いなって、途中から気づいた」。
取る人の立場になって考えられるのはさすがだ。
「あと、前に掛布さんとかがおられたから、無我夢中で投げて頭をパチンって叩かんように気をつけた(笑)」。
どこまでも気遣いの人である。
■岡田タイガース、連覇の確率は?
虎戦士OBが顔を合わせると、やはり話題はタイガースのことになる。キャンプ初日のあいさつで岡田彰布監督は「連覇」を連呼した。球団初の偉業は達成されるのか、各々の見解を聞いた。
掛布氏は「50%の確率だろう」と予想する。意外に低いが、「連覇はそんなに簡単ではない」とキッパリ。
「去年は独走態勢で勝った。競り勝つ野球になったときにどうだろうという心配はある。それと、ただ勝つことを目標にするのと、『勝たなきゃいけない』と背負って戦うのは違う。選手も高い契約をもらって、やって当たり前という評価に対して出さなきゃいけない答えは難しい」。
昨年とは取り巻く環境や周りからの見られ方が違う。掛布氏自身は数々のタイトルを獲得し、円熟期に入ってからの日本一だったので、精神的にブレるということはなかったというが、今のタイガースの主力はみな成長途上である。彼らがどのように立ち向かっていくのかが鍵になると見ている。
また、最も怖いのはケガだと断じる。日本一の翌年4月、手首に死球を受けて骨折した掛布氏は、その後も負傷が続いてシーズンを棒に振った。ほかの主力も故障し、それによって戦力はガタガタと崩れた。大きな故障がないことも条件に挙げる。
川尻氏は「去年は俺ね、70%で優勝するって言ってたんだけど、今年は85%って言ってる」と高い数字を掲げる。
「選手の質、実力、考え方がしっかりしているし、ほかに強いチームもいないんで。ヤクルトがちょっと怖いかなぁ…。塩見が復活して、ピッチャーがよくなったら、ちょっといやらしいかなと思っている」。
東京ヤクルトスワローズを対抗馬に挙げはしたが、タイガースの連覇は揺るぎないと鼻息は荒い。そのわけは「先発も中継ぎも抑えも駒はいる。投手力はナンバーワンじゃないかな。レベルが高い」と、盤石な投手王国であるからだという。
ただ、「ケガは怖いね」と語る。予期できないだけに、それが15%の死角だ。
的場氏は「さらにパワーアップしたタイガースが見られると思っています!」と、連覇を確信する。
「ある程度、勝ち方がわかったと思う。変に驕らなければ…。いや、でもプレースタイルとか見てても、みんなすごい謙虚やし、泥臭くやる選手が多いから、そこは大丈夫じゃないかな。たとえちやほやされても、今の選手はしっかりしている。やることはやるっていうふうに見えるからね」。
勝ち方を知り、負けが込んでも慌てない。「強弱をつけられるチームやと思う」と、昨年築いたものを継続していけると信じている。
■連覇へのキーマンは誰だ
では、キーになる選手は誰だろうか。掛布氏は壇上のあいさつの中で「佐藤輝明」の名前を挙げていた。
「彼はチームの雰囲気を変えるホームランを打てるバッターだし、ひと振りの怖さを持ったバッターですから、彼が30本以上のホームランを打つことが一つ条件になるんじゃないかな、連覇の」。
大きな期待を込めて、力強く語った。
川尻氏は「全員がキーマン」と言いつつも、「打つほうではサトテルの確率が上がれば」と、同じく佐藤選手の名前を挙げた。「掛布さんとも話してたんだけど、もっとすごい選手になると思うんだよ。こんなものじゃない。もっともっとよくなる」と高評価を与えていた。
さらに「やっぱ外国人が打ってくれればね。3割近く打ってくれたら」と、とくにノイジー選手の2年目の上積みに期待する。
的場氏は「僕は森下(翔太)選手やな。3割を目指すってシフトチェンジしたらしいけど、ホームランも捨ててもらいたくない」と言い、「真弓(明信)さんや岡田さんのように3割30本を目指してやってほしい」と注文をつけた。
「パワーもあるし、足もある。肩もいい。思いっきりのよさ、バットコントロール、それにスター性がある。なによりあのやんちゃな感じ…愛されるキャラじゃないかな。三拍子そろってるし、スター候補生」。
昨年の日本シリーズ第5戦では、エラー後の逆転2点三塁打に感動したという。「あれはなかなか打てんよ。すごい。ミスを取り返せるのがいい選手。ハートが強い。引きずるんじゃなく、バネにしてパワーに変えられる。そういうところもスター性がある」とゾッコンだ。森下選手の伸びしろにも注目だ。
■福=連覇
2年目の岡田阪神には不慮の故障以外、大きな死角が見当たらないようだ。
掛布氏は「去年、横浜を3つ叩いてスタートしたように、いい形でスタートを切れればスッといく」と、開幕カードである対読売ジャイアンツ3連戦が鍵を握ると予想する。
「阿部慎之助監督の初陣でもある。巨人のチームバランスも整ってきているから、開幕3連戦は143分の3じゃないんじゃないのかな。けっこうたいせつな、重い3連戦になると思いますよ、えぇ」。
昨年初めてローテーションを守った村上頌樹投手や大竹耕太郎投手らも研究される。「自分自身の最初の登板をたいせつにしてほしい」との助言を送り、いい滑り出しができるようにと願った。
タイガースにとっての「福」である球団初の連覇。OBたちも「福は内」と心から祈って、豆をまいていた。
(撮影:筆者)