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「チームの戦力になりたい」―。復活に向けて順調な「一平ちゃん」こと小川一平(阪神タイガース)

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
シート打撃に登板した小川一平

■術後初のシート打撃に登板

 昨年12月に右肘の手術を行った小川一平投手のリハビリは、順調に進捗している。6月18日に打撃投手として井坪陽生選手、山本泰寛選手を相手に40球(安打性8本)を投げたあと、同24日には予定どおりシート打撃に登板した。

 髙濱祐仁選手、戸井零士選手、野口恭佑選手に対して、のべ5打席で22球。結果は3つの空振り三振と四球、安打が1本だった。ときおりコーチやスタッフから「ナイスボール!」という声も飛び、まずは“一次試験”を無事クリアした。

 「順調に進められているのは一番いいですし、変化球を交えてしっかり投げきれたのはよかった」と振り返った小川投手。

 「バッターが立ったときに力んで(ストライクが)入らなくなるのはよくないと思ったので、ブルペンでもあえて力ませるという感じでやっていた。その部分では、ストライクがけっこう入ったのはよかったかな思います」。

 先日の打撃投手同様、ストライク先行で投げきれたことにも手応えを深めていた。

■フォークボールに手応え

 術後まだ半年だ。「まだまだ自分の中では納得できるボールは投げられていない」のは当然のこと。「ケガする前の球を追いかけるのはよくない」とはわかっていながら、かつて最速153キロ、アベレージで140キロ後半を投げていたころのボールの残像が頭の片隅にある。

 「メスを入れてるんで前と同じようにはいかないと思うんですけど、違う道というか違う方向で前を超えられたらいいとは思っています」。

 ここから回復が進み、体がどうなっていくかは未知だ。そんな中、現在「140キロちょい」というストレートの球速を上げていくことは必須だと話す。

 それに加えて、新たな変化球が「違う道、違う方向」になりそうだという。その球種とはフォークである。

 「(術前も)練習はしていたんですけど、実戦やブルペンで思いきり投げると全然落ちなくて…。でも最近ちょっと、『これかな』っていう握りとか投げ方とかが身についてきて、それは自分の中でも進化した部分ではあるのかな」。

 シートでも試し、空振りも取れた。戸井選手を空振り三振に仕留めたのもフォークだった。「あれはまぁまぁよかったんで、しっかり極めていきたい」と意気込む。

 これまではスライダー、カットボール、チェンジアップを駆使しており、「縦変化がなかった。チェンジアップも空振りを取るボールじゃなかったんで、縦変化で空振りが取れるボールがあれば、もっと投球の幅が広がるのかなと思っていた」と、術後に投げ始めてからずっと練習してきたという。

 なぜ以前は投げられなかったフォークが、今は使えるであろうレベルに上がってきたのか。それは本人も「なんでなんだろう…。投げ方が変わったんですかね。変えてるつもりはないし、傍から見ても変わってないと思うんですけど、何か違うのかも」と首をひねる。

 逆に「カーブがうまく投げられてないです、まだ」と、頼りにしているカーブは以前ほどの精度ではないようで、「唯一遅い球なんで、捨てることはできない。もっとよくしていかないと」と今後も精度アップに取り組んでいく。髙濱選手からはカーブで空振り三振が取れ、有効なボールであるとの思いを強くした。

■痛みを我慢していた

 ルーキーイヤーから1軍の戦力として活躍してきた。昨年はコロナ禍に見舞われた投手陣の穴を埋め、開幕2戦目に先発。翌週も先発すると、今度は中継ぎに回って2連投、その4日後にまた先発し、ローテどおり1週間後に先発とフル回転した。しかし実はその間、自身の中ではずっと右肘の張りがとれず、痛みに耐えていた。

 「投げているときは平気なんですけど、ベンチに帰って2アウトでキャッチボールを始めるまでのその間に冷えると痛くなって…。で、ベンチ横でキャッチボールで思いきり投げて、痛みを飛ばしてっていう感じでやっていました」。

 「痛い」と言い出さなかったのは、チャンスだったから。4月20日の横浜DeNAベイスターズ戦(横浜スタジアム)では7回を2安打 無失点と結果を残し、そのまま先発ローテの座を確固たるものにしたかった。「けど、もうダメだなと思って…」。限界だった。同25日に抹消となった。

 自然治癒で治まる炎症だろうと、ファームでもなんとか“だましだまし”投げ続けた。しかしシーズンが終わり、10月のフェニックス・リーグの最終戦で力が入らなくなり、いよいよ手術をするほかなくなった。12月15日に右肘の「関節鏡視下手術」と「尺骨神経前方移行術」を行った。

■順調に進むリハビリ

 リハビリは思った以上に順調だった。2月1日のキャンプインの日には、キャッチボールで軽く投げられるところまできた。さすがにキャンプ中のブルペン入りまでは無理だったが、その後、キャッチボールの距離を伸ばし、50mを超えるようになったころブルペンにも入れるようになった。

 ただ、痛みが完全になくなったわけではない。最初のころはブルペンで強度が上がってくると、翌日は「けっこうきつかった」ようだ。最近はかなり落ち着いてきたが、それでも遠投のあとは張りが強いという。「今も50mしか投げてないんです。遠投だと痛いんで。近い距離は大丈夫なんですけど」と、無理はしない。

 シート登板では打者に投げたことで力も入っただろうし、また張りも多少は出るだろう。今後も随時、様子を見ながら歩を進める。

 「たぶんもう一回、シートをやると思います。セットでまだ投げてないんで、次はセットでシートに投げて、それでゲームに入れたら入りたいなと思っています」。

 このまま順調に進めば、ゲーム復帰の日も近い。

■一平ちゃんのリラックスタイム

 いつも明るい小川投手だが、周りには見せなくとも気持ちの浮き沈みはあっただろう。そんな中での楽しみを訊くと、「録画したテレビ番組を観ること」だという。お笑いが大好きで「かまいたちさん、めっちゃ好きです。かまいたちさんの番組はけっこう観てます」と白い歯を見せる。

 さらに、ドラマもジャンルを問わずかなり観ているそうで、「キホン、全部観ます。ほぼ全部、一話を観て、一話でちょっとあんまりと思ったらヤメます」というから、かなりの“ドラマニア”である。

 『教場0』『わたしのお嫁くん』『ペンディングトレイン』『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』…観ているドラマのタイトルが次々と口をついて出てくるが、今クールで最もおもしろかった作品はと尋ねると『だが、情熱はある』を挙げる。お笑いコンビ「オードリー」の若林正恭と「南海キャンディーズ」の山里亮太の半生を描いた青春ドラマだ。

 「芸人さんが好きなんで。けっこう似てると思ったし、おもしろかった。自分は好きでした」。

 録画した番組を観ている時間は「めちゃくちゃリラックスできています」と、癒しのひとときになっているようだ。

アップ中に笑顔がこぼれる
アップ中に笑顔がこぼれる

■優勝するための1ピースに・・・

 1軍は残り76試合。「焦りはあります、やっぱ。下も出てきているし。自分がいた位置にいる選手もいたりするんで、ケガしてなかったらなぁと思うこともありますけど、それで変に焦ってもよくないと思ってるんで」と、今後もじっくりと取り組んでいく。

 「焦らず、自分のペースで状態を上げていって、戦力になれるようにしっかりやっていきます」。

 まだ一歩を踏み出したに過ぎないが、着実な一歩であることは間違いない。 

 優勝するためには、さらに盤石な投手陣が必要である。復活した小川投手がその1ピースになれたら、非常に大きい。

(撮影はすべて筆者)

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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