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今夏も6月8日に登場 北海道の産地リレーで人気に応える「冷製ウニスパ」の実力とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
イーストンのカジュアルイタリアンで恒例フェアの「冷製ウニスパ」(イーストン提供)

「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」というメニューがある。北海道札幌市に本拠を置く株式会社イーストン(代表/大山泰正)という会社が、例年初夏から夏限定で同社のカジュアルイタリアンで提供しているものだ。第1回は2006年8月。以来、毎年この季節に販売、同社の店舗数が増え、このメニューを楽しみにするファンが続々と増え、という具合に昨年までに累計26万食を販売した。今年の販売は6月8日にスタートし8月16日まで行われる。

この「冷製ウニスパ」を待望している熱烈なファンはたくさん存在する。筆者もその一人だ。筆者の場合、使用するウニの量を2倍にした“ウニダブル”を注文する。口に運ぶとウニの甘みと旨味が口いっぱいに広がる。東京に居ながら、漁港の潮風に吹かれているような幸せを感じる。

「ウニのスパゲティ」は数あるパスタメニューの中でも貴重でかつ人気が高い。それをこの会社、イーストンは商品名にあえて「北海道産塩水ウニの」として、産地限定で鮮度の高い状態のウニであることをアピールしている。この同社がこだわり続ける「冷製ウニスパ」は、いかにして誕生し、超人気商品として育っているのだろうか。これらの動向について、同社取締役営業本部長の川西彰氏に聞いた。

「賞味期限が短い」「手間がかかる」

イーストンが誕生したのは1986年5月、札幌・すすきののバーからはじまった。その後、カジュアルイタリアンを手掛けヒットを重ね、会社の発展を期して関東圏への進出を決意、その前哨戦として2003年4月宮城県仙台市に進出。そして、2007年9月関東圏に初進出を果たした。

2022年5月末の総店舗数は飲食店50、食物販4。飲食店の中で「冷製ウニスパ」を提供するカジュアルイタリアンは23店舗(北海道イタリアン・ミアボッカ、北海道イタリアン・ミアアンジェラ、イタリア料理クッチーナ、イタリア食堂クッチーナ)となっている。

「冷製ウニスパ」の第1回販売は2006年8月と述べた。そのきっかけは「夏に旬のメニューでフェアをしよう」となったこと。そこで「漁獲量が日本一で日本一おいしいウニを商品にしない理由はない」ということから北海道産ウニを使用することを即断。第1回は札幌市内の店舗で開催した。

ウニはミョウバンを使用しない「塩水ウニ」であることにこだわった。一般的にウニは剥き身の状態で形を保ち日持ちをよくするためにミョウバンを使用するが、「塩水ウニ」は剥き身のウニを海水と同じ濃度の塩水にぷかぷか浮かべた状態で流通しているものだ。

「塩水ウニ」を使用する一番の狙いは、新鮮なウニの豊潤な甘味・旨味を保つためである。しかしながら、賞味期限が限られていて、提供する時に水切りが必要となり手間がかかる。ただし、この「賞味期限が短い」と「手間がかかる」は、圧倒的な差別化のポイントとなる。そして、この「冷製ウニスパ」を一度体験した人は、また食べてみたいと強烈に思う。川西氏によると「このフェアの開催期間中のリピート率がとても高いことから、恒例のフェアにつながっていった」という。

「冷製ウニスパ」を提供する「北海道イタリアン ミアボッカ」の店頭イメージ(筆者撮影)
「冷製ウニスパ」を提供する「北海道イタリアン ミアボッカ」の店頭イメージ(筆者撮影)

航空便で出荷翌日の午前中に届ける

市場出身者である同社のバイヤーは、好評に応えるために北海道内の産地を幅広く開拓していく。毎年同じ時期に継続的に購買することで取引先との信頼関係を構築。フェア開催期間中はこれらの産地が補完し合うような形で仕入れる体制を築き上げた。例年、北海道全域がその対象になるが、今年は利尻、礼文、道南、サロマ、紋別が中心となっている。

仕入れる塩水ウニは1パック100gで、今年は8000パックを調達している。「冷製ウニスパ」1人前の使用料が25gということからざっくりと3万2000食分となる。ただし、筆者のように「ウニダブル」の愛好者も多数いることから定かではない。

真夏により新鮮な状態でウニを届けるために、仙台・関東圏への配送は航空便を使用。仙台・関東圏とも出荷の翌日午前中に店舗に納品。札幌の場合は出荷とともに発送し当日午後に納品する。発泡スチロールに詰めて発送するが、全てのパックが氷に触れている状態になるよう大量の氷を詰め込んでいる。店内でも冷蔵庫の中に同様の保管機能を設けている。

ウニの価格・数量については例年不安定な状況に置かれるが、今年は気候変動に加え海外情勢も加わり、例年は4月ごろまでに仕入れ価格・販売価格が決定されているところ、今年はスタート直前の5月中旬となって確定できたという。

「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」の今年の開催は、6月8日~8月16日(終了日は変動する場合もある)。価格は札幌が1780円(税込、以下同)、仙台・関東1880円となっている(新宿タカシマヤタイムズスクエア店では2480円)。詳しい内容は、以下のリンクを参照。

■PRtimes

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000078678.html

■イーストンHP 

bit.ly/3G6lbKr

北海道産旬の食材で一年間をつなぐ

イーストンでは、「冷製ウニスパ」で身に付けたノウハウによって、旬の北海道食材のフェアのバラエティを広げるようになった。2017年5月~「北海道産アスパラ」、2019年9月~「北海道産秋刀魚」、2020年1月~「北海道産ホタテ・牡蠣」、2020年7月~「北海道産とうもろこし」を開始し、それぞれ開催期間が約2カ月間のフェアとして恒例化している。

これによって、「北海道産アスパラ」4月末~5月下旬、「北海道産ウニ」6月上旬~8月中旬、「北海道産とうもろこし」7月下旬~8月末、「北海道産秋刀魚」9月上旬~11月頃、「北海道産ホタテ・牡蠣」12月上旬~1月末と、年間を通じて北海道の旬の食材を使用したフェアをつないでいる(2月~3月はチーズを使用したフェアを開催)。イーストンではカジュアルイタリアンの他に焼鳥など多業態を展開していて、ウニ以外の旬の食材はカジュアルイタリアン以外でもフェアメニューとして提供している。

これらの旬のフェアメニューを整理してみよう。

*写真は昨年実施されたイメージ写真

■4月末~5月下旬:北海道産アスパラ

・北海道産アスパラと生ハムの贅沢スパゲティ 山わさび風味

・北海道産アスパラと豚肉のピッツァ プリマベーラ

「北海道産アスパラと生ハムの贅沢スパゲティ 山わさび風味」のイメージ(イーストン提供)
「北海道産アスパラと生ハムの贅沢スパゲティ 山わさび風味」のイメージ(イーストン提供)

■6月上旬~8月中旬:北海道産ウニ

・北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ

「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」のイメージ(イーストン提供)
「北海道産塩水ウニの冷製スパゲティ」のイメージ(イーストン提供)

■7月下旬~8月末:北海道産とうもろこし

・北海道美瑛産とうもろこしとプロシュートのピッツァ

「北海道美瑛産とうもろこしとプロシュートのピッツア」のイメージ(イーストン提供)
「北海道美瑛産とうもろこしとプロシュートのピッツア」のイメージ(イーストン提供)

■9月上旬~11月頃:北海道産秋刀魚

・北海道産秋刀魚を丸ごと一本使った贅沢スパゲティ タプナードソース

「北海道産秋刀魚を丸ごと一本使った贅沢スパゲティ タプナードソース」のイメージ(イーストン提供)
「北海道産秋刀魚を丸ごと一本使った贅沢スパゲティ タプナードソース」のイメージ(イーストン提供)

■12月上旬~1月末:北海道産ホタテ・牡蠣

・漁師から直送!北海道サロマ湖産ホタテのカルパッチョマッシュポテトソース

・漁師から直送!北海道サロマ湖産カキとホタテ、「農家のベーコン」のクリームソース

「漁師から直送!北海道サロマ湖産カキとホタテ、「農家のベーコン」のクリームソース」のイメージ(イーストン提供)
「漁師から直送!北海道サロマ湖産カキとホタテ、「農家のベーコン」のクリームソース」のイメージ(イーストン提供)

従業員のお勧めにリアリティが備わる

ちなみにイーストンでは、コロナ禍にあって関東圏での出店を果敢に行った。生パスタの新業態「下川六〇酵素卵と北海道小麦の生パスタ 麦と卵」を7店舗、食物販3店舗を含めて計14店舗を新規に出店している。

これら関東圏での攻めの出店と北海道産旬の食材を使用したフェアを定例化していることについて、川西氏はこう語る。

「関東圏の従業員が、当社の店のことをお客様に説明する際、単に『北海道からやってきた店』ではなく、『北海道の魅力を伝える店』という具合に、お客様にお勧めする時のリアリティが備わってきて、セールスが磨かれてきている。これが特に関東圏で、当社の店の存在感につながっている。これからは東京の従業員に北海道のことを直にたくさん体験してもらいたい」

北海道の旬の食材を提供し続けるこだわりは、従業員のマインドの中に深く浸透して、結果、店舗の競争力を強くすることにつながっているようだ。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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