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「日本一の学食」を運営する飲食企業のノウハウが、いま各大学から求められているわけ

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
ORIENTALFOODSが運営受託する桃山学院大学の学食(米田勝栄氏提供)

「学食ランキング」というものがある。この始まりは早稲田大学のサークル「早稲田大学学食研究会」によるもので、1999年より都内を中心に全国の大学学生食堂のランキングを発表している。評価対象は「料理の質・価格・学食の雰囲気」でそれを総合的に評価している。これは同サークルが独自に行っていることで、厳密な客観性は存在しない。

これで例年「第1位」に選出されているのが「東洋大学白山キャンパス6号館地下1階」の学生食堂(以下、学食)である。同施設は客席数1300、ここに7つの専門店(インドカレー、カフェ、パスタ、洋食、鉄板ごはん、窯焼き料理、韓国料理)が出店し、フードコートの形態を取っている。類似のランキングは数多存在し、同施設は常に「学食日本一」となることから、同施設はその定説となった。

「学食日本一」が定説となっている東洋大学の学食、東洋大学白山キャンパス6号館地下1階の様子(米田勝栄氏提供)
「学食日本一」が定説となっている東洋大学の学食、東洋大学白山キャンパス6号館地下1階の様子(米田勝栄氏提供)

この中で、洋食、鉄板ごはん、窯焼き料理の3店舗を営んでいるのが株式会社ORIENTALFOODS(本社/東京都品川区、代表/米田勝栄、以下オリエンタルフーズ)である。同社はこの施設の中で、3つの店舗の他に「洗い場」の運営と7店舗全体のマネジメントを担当している。

ここで3店舗を運営する同社は、厳密にいえば「日本一の学食の一部の店を運営する企業」となるが、専門家の間では今日学食のエキスパートとして認められている。同施設のメニューの価格は一律550円(税込)、一般の飲食店では1000円に相当するクオリティを、この価格で提供し続けることと、限られた時間でニーズに応えるというスピードが求められることから、同社は学食運営の基本的なノウハウがあり、さらにこれからの学食運営に求められるノウハウを実践している。

学食運営のノウハウを築き上げる

オリエンタルフーズが設立されたのは2006年8月。代表の米田氏は1974年3月生まれ。専門学校を卒業後、都市ホテルのバーテンダー、オーストラリアでのワーキングホリデーなどさまざまな形で飲食業を経験。2004年30歳の時に個人事業主としてバーを運営受託した。この時、東洋大学学食の一部でカフェの立て直しを任されることになった。そこで同社は当初日商3万円に満たない店舗を17万円あたりまで引き上げた。

このカフェの運営はリセットすることになり同社の運営受託はいったん終了。その後、リニューアルする過程でこの施設をプロデュースする会社から出店を要請される。それが現在の3店舗となり、さらに「洗い場」業務と同施設のマネジメントが加わった。

ちなみに、学食運営の多くは大学側が事業者の諸経費を負担することが通例。それは学生から収めてもらう設備費で充当していているから。事業者には家賃なしで運営負担が軽減される一方、一般飲食店より格段に低い価格で価値のある食事を提供することと、大学のブランディングにつながる競争力を持った学食運営が求められている。

東洋大学の学食の場合、家賃は売上の歩合で1割に満たない。また、「洗い場」が共有化されていることから、各店舗のこの作業で発生する人件費は削減される。

学食運営の事業者にとって大きな課題は、大学が年間約4カ月間休業し、この間学食を運営できないということだ。オリエンタルフーズはこの休業期間を一般の飲食店のオペレーションを臨時で請け負うことで売上をまかなっていた。それが東京・五反田の東急池上線高架下の「五反田桜小路」に肉バルやワイン販売店を出店することによって、常設の飲食店を構えることができた。これによって後述する五反田のイベント等に参加するようになり、このノウハウが整っていくにつれて事業内容が広がっていった。

「五反田桜小路」の中で営業する肉バル「東京食堂」の様子(米田勝栄氏提供)
「五反田桜小路」の中で営業する肉バル「東京食堂」の様子(米田勝栄氏提供)

また、フードトラックの事業にも着手。きっかけは学食運営で培ったスピーディな調理、販売予測とロス管理のノウハウがこの分野に生かせると考えたからだ。これを手掛けるようになってから、産地との関係性が深まるようになり、兵庫・淡路島、鹿児島、北海道、山口、高知、福岡、山梨等々、産地の食材を使用したフードメニューを提供、フードトラックが都会で営業することによって地方活性化につなげるプロジェクトに発展するようになった。現状、フードトラックは3台保有している。

学食運営のノウハウを活用してフードトラック事業も展開。このサービスを大学構内でも行うようになった(米田勝栄氏提供)
学食運営のノウハウを活用してフードトラック事業も展開。このサービスを大学構内でも行うようになった(米田勝栄氏提供)

学生が深く関わることの教育的効果

オリエンタルフーズでは、東洋大学での学食、五反田でのリアル店舗、フードトラックと店舗運営の形態が広がっていったが、それぞれの運営に関して学生に積極的に参画してもらう仕組みをつくっていった。これは学食で学生に触れる機会が多い中で米田氏自身がひらめいたという。米田氏はこう語る。

「学生のアイデアは斬新で、それが実際の営業に新しいアイデアとして生かされると働いているわれわれが触発される。そして、アイデアが採用され実績として表れた学生にとって、その教育的効果はとても大きいと考えるようになった」

五反田桜小路でリアル店舗を構えたことがきっかけとなり、五反田駅前の肉フェスである「五反田G1グランプ」に参加するようになった。同社はここで2014年と2019年に優勝しているが、2019年に優勝した「伝説の牛カツ赤ワインソース」は学生アルバイトが提案した企画であった。この他、肉バルでも学生アルバイトのアイデアをメニュー化した事例が数多くある。

五反田駅前の肉フェス「五反田G1グランプリ」では、これまで2度優勝している(米田勝栄氏提供)
五反田駅前の肉フェス「五反田G1グランプリ」では、これまで2度優勝している(米田勝栄氏提供)

このような活動が、2020年3月放送の『カンブリア宮殿』(テレビ東京)で紹介されたところ、大きな反響があった。それは「新しい学食運営」の依頼である。

「学食」は今や大学をブランディングする役割を担っている。食を扱うビジネスとして、生産者とのつながりがあり、マネジメントがあり、DXがあり、という具合にこれからの社会に必要とされるエッセンスが詰め込まれている。そこで、同社の活動はこれからの大学と学食の在り方を模索する人々から熱く注目された。

学食は生産者と地域社会を結ぶ存在

その第一弾は、桃山学院教育大学(大阪府堺市)。

オリエンタルフーズが同校から求められた「新しい学食運営」の在り方とは、このような内容だ。

①スマート食堂(モバイルオーダー、AI、テクノロジーの導入)

②ベンチャー食堂(経営体験、メニューコンテスト、空きスペースプロジェクト)

③FOODFOODプロジェクト(地域とつながる、地域活性化)

まず、①の「スマート食堂」とは。「並ばない」「触らない」「非接触」のモバイルオーダーをはじめ、これからはAIによってその日の注文予測や一カ月先の売上などが分かることから、食品ロス問題や残飯問題なども解決。売店には無人レジの導入も検討。

②の「ベンチャー食堂」とは。食堂や売店の空きスペースをビジネス的に活用する提案であり、食堂のメニューコンテストなども含まれる。洗い場を手伝った対価として食事が無料となる企画等々、食堂がきっかけとなったアイデアを引き出す。

さらに、③の「FOODFOODプロジェクト」とは。学食が地域と連携することによって地域活性化と地域社会貢献につながる。地産地消をはじめ、子ども食堂の導入など地域の人々にも活発に学食を利用してもらい、学食を地域社会になくてはならない存在にする。

学食やフードトラックの事業によって地方の生産と地域社会をつなげる存在となった(米田勝栄氏提供)
学食やフードトラックの事業によって地方の生産と地域社会をつなげる存在となった(米田勝栄氏提供)

まさに「学食」は次世代に向けた大きな存在意義を秘めている。

プロデュース会社である株式会社アンデレパートナーズと提携し桃山学院教育大学での学食運営は2021年4月から受託。さらに、桃山学院大学(大阪市和泉市)の学食運営を今年4月から受託、神戸国際大学(兵庫県神戸市)の学食運営を今年9月からの受託を予定している。

米田氏によると、オリエンタルフーズ直営での学食運営はここまでと想定。これ以降は同社が築いてきた学食運営をFCで展開していくという。

「関西の大学の学食運営を受託するのは、東京から遠距離にある学食運営のノウハウをつくるため。ここで仕組みが整ったら、全国の大学の学食が、学生の学びの場であり、生産者や地域社会を結ぶ存在として育っていくことを推進していきたい」

このように語る米田氏は、飲食業と学食がきっかけとなった社会活動家として大いなる展望を描いている。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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