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過去最高益のスシローG 「回転寿司みさき」の展開で見えてくる最強のすし屋軍団

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
京樽代表取締役社長の石井憲氏。スシローGのシナジーを追求した(筆者撮影)

回転すしの「スシロー」を主力ブランドとするFOOD & LIFE COMPANIES(本社/大阪府吹田市、代表取締役社長 CEO/水留浩一、以下スシローG〈グループ〉)は2021年9月期の決算を発表、内容は過去最高益となった。「スシロー」は緊急事態宣言による営業制限がありイートインの売上が減少したが、テイクアウト・デリバリーを拡大し、通期の既存店売上高は104.3%となりコロナ禍前の水準に回復した。

当期の決算の内容は、売上収益2408億円(前年比17.5%増)、営業利益229億円(同89.9%増)、当期利益131億円(同104.3%)で、店舗数はグループ全体で999店舗(同375店舗)となった。

当期のスシローGの国内スシローブランドは従来の郊外型・都市型に加えて、新たにテイクアウト専門店の「スシローTo Go」を15店舗出店。京樽を買収したことで、京樽ブランドが154店舗、海鮮三崎港ブランドが106店舗加わった。これによって当期は大幅に店舗数が増えた。

スシローGの事業会社はこの京樽が加わり国内3社、海外6社。これらで展開されるブランドは「スシロー」「京樽」「海鮮三崎港」「鮨・酒・肴 杉玉」となっている。

すし職人200人の技術力を生かす

スシローGでは、この海鮮三崎港ブランドを「回転寿司みさき」にリブランディングしていくことを発表、11月19日に海鮮三崎港の高円寺店と人形町店を「回転寿司みさき」としてオープンした。店舗デザインを新たにして、外観・内装ともに木目調をベースとした和モダンに仕上げた。

11月19日にオープンする「回転寿司みさき」高円寺店。北側のロータリーに面している(筆者撮影)
11月19日にオープンする「回転寿司みさき」高円寺店。北側のロータリーに面している(筆者撮影)

回転すしの「海鮮三崎港」と「回転寿司みさき」は現在計87店舗となっているが、この業態の特徴はすし職人が200人存在すること、さらに23区内に34店舗存在するなど、それぞれ回転すしチェーンの中では突出している。ここにスシローGの食材調達力と商品開発力を掛け合わせて、順次「回転寿司みさき」にリブランディングしていく。

「海鮮三崎港」では9月にグランドメニューを一新。さらに新たな取り組みとして豊洲市場の目利きが厳選した旬のネタを店舗に直送し、店舗の職人が捌く「豊洲直送」のネタも提供するようになった。職人に箱を開けるまでは「今日何が届いているか」は分からないが、開けてからお客に食べてもらうための捌きの技が発揮される。これによって職人のモチベーションが高まり、お客にとってもワクワク感が高まる。

「豊洲直送」のネタは箱を開ける前までどのような鮮魚が入っているか分からない。それによってすし職人のモチベーションは著しく高まる(筆者撮影)
「豊洲直送」のネタは箱を開ける前までどのような鮮魚が入っているか分からない。それによってすし職人のモチベーションは著しく高まる(筆者撮影)

「回転寿司みさき」では商品ラインアップを強化して新しい名物をつくり上げた。それは「極旨(ごくうま)まぐろ」。「みさき本気のまぐろ祭」とうたって、天然インドまぐろ1本から数%しかとれない希少部位のネタを各種取り揃えている。このメニューは「海鮮三崎港」の全店で提供している。

「みさき本気のまぐろ祭」は数%の希少部位のみを集めて構成している(筆者撮影)
「みさき本気のまぐろ祭」は数%の希少部位のみを集めて構成している(筆者撮影)

数%の希少部位でメニューを構成

これらの希少部位は以下のようになっている(%は、天然まぐろ1本から取れる比率)。

・天然インドまぐろ ちから身 (308円、税込、以下同)、約4~5%

――脂のきめの細かさと舌さわりは、中とろを超える。

・天然インドまぐろ ちから身 塩炙り (308円)、約4~5%

――塩で炙ることで甘味が増し、まぐろの味がより楽しめる。

・天然インドまぐろ わかれ身 醤油炙り (231円)、約3~4%

――筋繊維の力強い味を醤油の炙りでしっかり引き出す。

・天然インドまぐろ 中とろ血合いぎし(308円)、約3.5 ~4%

――血合いに一番近く、脂がもっとも細かい部位。

・天然インドまぐろ 腹とろ (308円)、約2~2.5%

――舌で溶ける、中とろ以上、大とろ未満の贅沢部位。

・天然インドまぐろ すき身(308円)、約2~2.5%

――大とろと中とろの間の腹骨の周り(スペアリブ)、旨味たっぷり。

・天然インドまぐろ すき身手巻(308円)、約2~2.5%

――旨味たっぷりのスペアリブを贅沢に手巻きで。

・天然インドまぐろ すき身とろたく手巻(308円)、約2~2.5%

――旨味たっぷりのスペアリブをとろたく手巻きで。

・天然インドまぐろ ハーモニカ唐揚げ(451円)、約0.5~1%

――背ヒレと腹ヒレの下のエンガワ部分。しっかり食感と濃厚な旨味。

・天然インドまぐろ 希少部位 煮魚(451円)、約2.5~3%

――カマと頭肉の煮付け。骨の周りの脂と肉の旨味が味わえる。

これらの部位をセットや組み合わせにすることで次のような商品をラインアップしている。

・天然インドまぐろ 希少部位 食べ比べ5貫盛(1512円)

――中とろ血合いぎし・はがし大とろ・わかれ身醤油炙り・ちから身・腹とろ

・天然インドまぐろ 希少部位 食べ比べ 2貫盛(605円)

――腹トロ・ちから身 塩炙り

・天然インドまぐろ 希少部位 食べ比べ 2貫盛(528円)

――中とろ血合いぎし・わかれ身 醤油炙り

希少部位のメニューはタッチパネルの中に表示される(筆者撮影)
希少部位のメニューはタッチパネルの中に表示される(筆者撮影)

このような商品を提供する同チェーンのキャッチフレーズを“想像を超える回転寿司へ”としている。

期間限定とは言え、なぜこのような希少部位が提供できるのだろうか。京樽の代表取締役社長、石井憲氏はこのように語る。

「それは100円回転寿司のトップブランド『スシロー』600店舗の食材調達力とシナジーに他なりません。これらの希少部位はスシローでは大とろの一部として提供していましたが、それが京樽のすし職人の技術力によって細かく商品化できるようになった。また、これほどの希少部位を貯めてきたことによって可能になったこと」

今回の「みさき本気のまぐろ祭」が終了してからは、月替わりで希少部位を提供していくという。

11月19日~21日の3日間限定で提供される「本マグロ3貫」374円(税込)(筆者撮影)
11月19日~21日の3日間限定で提供される「本マグロ3貫」374円(税込)(筆者撮影)

新しい路線で事業ポートフォリオが豊かに

京樽は昭和7年(1932年)3月、京都府下京区河原町松原に割烹料理店として創業、来年が創業90周年となる。後に看板商品となる「茶きん鮨」は1951年4月に発売し、これと上方鮨の「京樽」1号店を上野百貨店(東京)ののれん街に出店し、以後100%直営方式によるチェーン展開を推進してきた。

今年4月から京樽がスシローGとなり、「京樽スシロー」というダブルブランドのテイクアウトショップを展開、また「京樽」のグランドメニューを一新することにトライアルしてテイクアウト部門を強化してきた。

京樽の外食事業部門となる「海鮮三崎港」はこれらと同じタイミングでグランドメニューのすべての素材を見直した。

石井氏はこう語る。

「これからどのように成長させていくか、どのようなことを目標とするか、われわれの強みは何か、どのような回転すしを目指すのか、活動しながら議論を重ねてきた。そこでスシロー600店の食材調達力を活かし、当社職人集団の調理技術力によって、他社がまねできない回転すし店をつくることを目標としてきた」

このような思いが前述の希少部位のオンパレードをもたらした。

回転すし600店舗の「スシロー」、伝統のテイクアウト店舗「京樽」、そして“想像を超える回転寿司へ”を標榜する「回転寿司みさき」が登場することによってスシローGの事業ポートフォリオはますます豊かになっていき、“最強のすし屋軍団”として存在感を増していくことであろう。

「回転寿司みさき」高円寺店の店内。”想像を超える回転寿司へ”の期待が高まる(筆者撮影)
「回転寿司みさき」高円寺店の店内。”想像を超える回転寿司へ”の期待が高まる(筆者撮影)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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