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半世紀の歴史を持つ喫茶店企業が合併、指揮を執る元マクドナルドのエリートの展望とは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
老舗喫茶店企業が合併したC-United代表取締役社長の友成勇樹氏(筆者撮影)

日本マクドナルドホールディングスでは、かつて手づくりサンドイッチチェーンを展開していたことがある。それは「Pret a Manger」(プレタ・マンジェ)。フランス語で「できたての食事」という意味で、合成添加物を使用せず店内手づくりを特徴としていた。イギリスのチェーン本部と両社折半で日本プレタ・マンジェを設立。2002年9月、東京・日比谷の日比谷シティ内に1号店をオープンした。

マクドナルド新会社の社長に就任

この社長に就いたのが友成勇樹氏である。当時38歳。大学卒業後、日本マクドナルドに入社。すぐに頭角を現し、276人の同期の中で最も早く25歳で店長に就任。30歳でスーパーバイザーに就任し、34歳でアメリカ・シカゴのマクドナルド本社に赴任する。現地の店舗で働き、プロフェッサーに就任した。そして、4年ぶりに日本に戻り、日本マクドナルドHDの新事業の社長に就任した。

友成氏は現在C-Unitedという会社の社長を務めている。同社は今年4月1日付けで生まれた。源流となるのは喫茶店チェーンの「珈琲館」。これが2018年にUCCグループから分社独立し、この時に友成氏が社長に就任した。さらに「コーヒーハウス・シャノアール」と「カフェ・ベローチェ」を擁するシャノアールが合併することになりC-Unitedは総店舗数400以上、7つのブランドを持つコーヒーショップカンパニーとなった。

C-Unitedの企業理念は「珈琲文化の創造と発展を通して人を幸せにする」というもの。これは友成氏が珈琲館の社長に就任するに際して作り上げた。「あえて“珈琲文化”としたのは、それをわれわれの軸足とするため」と友成氏は語る。

「珈琲館」の特徴は、11種類のコーヒー豆を置いていること。中でも、炭火珈琲、蔭干し珈琲、完熟珈琲の3種類は珈琲館オリジナルである。注文が入ってから一杯ずつコーヒー豆を挽いて、ハンドドリップの店はハンドドリップで、サイフォンの店はサイフォンで一杯ずつ丁寧に淹れる。「このようなことを愚直に行っている全国コーヒーチェーンは『珈琲館』だけ」と自負している。

コーヒー豆の品揃えにこだわりを持ち「永遠の40歳」をターゲットとする「珈琲館」(C-United 提供)
コーヒー豆の品揃えにこだわりを持ち「永遠の40歳」をターゲットとする「珈琲館」(C-United 提供)

2年間4回のテストを重ねてメニュー改訂

友成氏が珈琲館の代表に着任して真っ先に行ったことは、FCの各オーナーにあいさつをして回ることであった。同チェーンには加盟30年、40年というオーナーも多く、喫茶業に対する愛着と誇りが伝わってきたという。オーナーの中で代替わりをしているところも多い。

友成氏が代表に着任した当時、FCオーナーの中には本部が指定している以外のメニューを入れているところもあった。そのようなオーナーにメニュー変更を申し出ると「それじゃ売上はつくれない」と反対されることもあった。しかしながら、「とにかく『珈琲館』という店名で商売をしていますので、一度統一させてください」とお願いして理解をしてもらった。こうしてメニューのブラッシュアップに着手した。

チェーン店としてクオリティの均一化を図ると店内調理の簡略化を検討するようになる。そのために、調理済み商品を多くするとメニューのクオリティは低下してしまう。このような問題を解決するためにメニュー設計はテスト段階でFCオーナーにも参加してもらい、可能な限り店内手づくりで行うものにした。こうしてメニューの全体を完成させるまでにマーケットテストを4回重ねた。

今日カフェで人気定番商品となっているホットケーキもブラッシュアップした。これはトレンドのスフレではなく昔ながらのホットケーキにこだわった。綺麗に焼き上げるためには数十万円かかる銅板の焼成機が必要となるが、これを看板メニューとするためにFCオーナーに理解を求め、ほとんどの店が導入するようになった。これは「トラディショナル・ホットケーキ」ホイップクリーム付き1枚450円、2枚560円(税込)として、定着するようになった(メニューはほかにバリエーションがある)。

このように新メニューは完成するまで2年の時間を費やして、この7月より全店で導入されている。現在FCオーナー、お客共々好評を得ている。

ブラッシュアップされて「珈琲館」を象徴する商品となった「トラディショナル・ホットケーキ」(C-United提供)
ブラッシュアップされて「珈琲館」を象徴する商品となった「トラディショナル・ホットケーキ」(C-United提供)

合併によって利用動機の多様性に対応

珈琲館はこの4月にシャノアールと合併してC-Unitedとなった。これによってバイイングパワーが付いたと同時に業態ポートフォリオ(=資産構成)が拡大した。

まず、立地別に見ると「珈琲館」は住宅街を背景とした駅前ないし駅近くを得意とする。「カフェ・ベローチェ」は都市型、繁華街、観光地となる。これらが合併したことで営業のエリアが拡大した。

「カフェ・ベローチェ」はいわゆる低価格型セルフサービスカフェでメインターゲットは20代から40代。同店のサンドイッチやコーヒーゼリーは創業以来店内手づくりで、リピーターはこれらの商品にロイヤリティを抱いている。これらが「手づくり」であることを一般に改めてアピールしたところ売上が目標数値を上回った。友成氏はこう語る。

「『カフェ・ベローチェ』は同じ業態であるスターバックスの対極にあります。スターバックスは『サードプレイス』ですが、ベローチェは『ファーストプレイス』ないし『セカンドプレイス』です。具体的には、次に移動する時に“ちょっと立ち寄る”といい場所。つまり、目的来店でなくても、自分の生活の一部として存在して、何気なく毎日を支えている存在」

リピーターにとっては自分の生活の一部となっている「カフェ・ベローチェ」(C-United 提供)
リピーターにとっては自分の生活の一部となっている「カフェ・ベローチェ」(C-United 提供)

「珈琲館」のターゲットは「永遠の40歳」という。

「『珈琲館』は若い人を対象にしたブランドではない。とは言え年配の方だけを相手にするブランドでもなく、40歳くらいになってものが分かるようになった方々が、600円を出して珈琲を飲むこと、そのような時間をとることもいいものだな、と思っていただくような存在」

前述の企業理念に続いて、経営ポリシーはシャノアールが「心地よい日常を文化にする。」。珈琲館では「一杯のコーヒーに心をこめて。」としている。同じ業種が合併して、それぞれの経営ポリシーを明確にして進むべき方向性を明らかにしている。

「喫茶店文化」を再構築する存在

さて、コロナ禍でC-United全体の業績は、2019年比で8割以上に回復してきた。テイクアウト・デリバリーにも着手していて、売上を2%程度押し上げている。ブランド別では「珈琲館」の落ち込みは軽微とのこと。それは、店が住宅街にあることから、コロナ禍で巣ごもり生活を強いられていても、気分転換で利用するパターンがあったことが要因にあるようだ。

今後の店舗展開は「珈琲館」をメインに想定している。今年は東京・用賀と神奈川・新百合ヶ丘に出店しそれぞれ好調なスタートを切っている。また、通常のFC契約とは別にBFL(ビジネス・ファシリティー・リース)という既存の直営店をリースするプランも設けている。このような形で業容の拡大とともにFCの活性化も図っている。

「コーヒーハウス・シャノアール」は「珈琲館」と同様フルサービスである。標準店の規模に差があるが、ブランドを相互に転換することによって活性化につなげるポテンシャルもある。

大型の店舗でフルサービスを行う「コーヒーハウス・シャノアール」(C-United 提供)
大型の店舗でフルサービスを行う「コーヒーハウス・シャノアール」(C-United 提供)

社内的には「旧珈琲館社」と「旧シャノアール社」の間で人事交流を行っている。店長、SV等の各ポジションの異動を通じて、これまで関わってきた業態の視点からの改善提案も挙がる。

ちなみに珈琲館は1970年に真鍋国雄氏が創業、シャノアールは1965年に中村脩氏が創業した喫茶店の会社である。それぞれ50年以上の歴史を持つ会社を一つに束ねて指揮を執るという友成氏のパターンは、外食の歴史の中で初めてのことだ。

かつて大きく隆盛した「喫茶店」はいつの間にか「カフェ」という言い方が主流となった。友成氏が率いるC-Unitedがこれらのジャンルをどのように形づくっていくのか大いに楽しみである。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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