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タピオカブームで揺れた企業が、ブーム鎮静化の今どんな巻き返し策を進めているのか

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
タピオカグランプリ(日本タピオカ協会主催)で金賞を受賞(Bull Pulu提供)

飲食の世界にはいつの世でも「ブーム」が存在する。近年では「タピオカ」がそれである。若者が集まる飲食店街で小型の物件はことごとくタピオカドリンクの店となった。そして、オープンすればたちまち行列ができた。

このタピオカブームは2018年から始まった。これは台湾ブームが発端となったようだ。当時はインバウンドもさることながら日本から海外に渡航するアウトバウンドも活発で、『エイビーロード』(2020年休刊)の『海外旅行調査2019』によると、台湾は渡航先ランキングで5年連続1位だったという。これが象徴するように、台湾フードに親しむ人が増えて、タピオカブームにつながっていった。2019年には「タピる」(タピオカを食べること)がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、ぐるなび総研主催の「今年の一皿」に「タピオカ」が選出されるなど、この年は「タピオカの年」であった。

しかしながら、最近タピオカにかつての活気が見られない。出店がローコストであるから退店も身軽である。これらの事業者はタピオカブームからどのようなものをつかみ取っているのだろうか。今回は、まさにタピオカブームのただ中にいた企業の話である。

2010年にタピオカ事業を立ち上げる

その会社は株式会社Bull Pulu(本社/東京都豊島区、代表取締役会長/加藤二朗)。同社の主力店舗であるタピオカ専門店の「Bull Pulu」は現在全国に74店舗を展開し(うち26店舗が直営)となっている(2021年8月末現在)。これまで直営とFCの比率は1対2のバランスを保ってきたという。

手短にBull Puluの沿革を述べよう。

同社の現在の代表は会長の加藤氏と社長の忠岡鴻謹氏である。会社の発祥は加藤氏の父が精密機械の工場を営む傍らラーメン店を開業したことだ。

加藤氏は大学を卒業後、大手の小売・流通業に入社した。ここでは、現場の販売業務にはじまり、会社のシステム開発、そしてショッピングモールのテナント開発や運営・管理などを経験した。

そこで台湾に関わる機会があり、現地でタピオカが大きなビジネスになっていることを目の当たりにした。「これは日本でも大きくなる」と感じ取り、加藤氏が手掛けていたショッピングモールで誰かにブランドを立ち上げてもらいもらえないかと考えた。しかしながら、手を挙げる人はいないことから、加藤氏は父と相談しタピオカ事業を立ち上げた。2010年のことだ。加藤氏の会社では台湾から良質の食材を仕入れるルートを育てていった。店名の「Bull Pulu」はフレンチブルドッグを愛犬とする奥様が名付けた。このようなファミリーの感覚で、純粋においしいタピオカを売っていこうと考えていた。

店名の「Bull Pulu」とは、加藤会長の奥様の愛犬の名前。このように「ファミリー」の感覚でタピオカのショップを始めたが、それがブームと共に大きく広がっていった(Bull Pulu提供)
店名の「Bull Pulu」とは、加藤会長の奥様の愛犬の名前。このように「ファミリー」の感覚でタピオカのショップを始めたが、それがブームと共に大きく広がっていった(Bull Pulu提供)

投資回収3カ月というタピオカブーム

その後、知人から「FCをやらせて欲しい」という声が相次ぐようになった。しばらくして、前述した台湾フード・ブームが到来し、タピオカ人気に拍車がかかった。加藤氏は、父の会社に本格的にかかわる必要性を感じ会社に退社を申し出たが、新しく立ち上がった部署で退社ができなかった。ようやく2019年12月退社が叶い、現在の会社に就いた。

当時のタピオカブームはすさまじいものがあった。FC募集を公開していなかったが、知人からの要望が相次いだ。持ち込み物件も同様である。2019年の1年間で40店舗を出店した。コロナ禍になっても、既に出店が決まっていたところがあり、厳しい経営状況でありながらも、店は増え続けていった。前職のショッピングモール開発の関係者から、コロナ禍で空いた区画に出店して欲しいという依頼もあり、居抜きで出店するというパターンも幾つかあった。

出店コストは、スケルトンからだと1200万~1300万円、居抜きであれば500万~600万円で出店可能。標準店は8坪、これで月商300万~400万を狙う。損益分岐点は200万円。これがタピオカブームの当時には1000万~1500万円を売っていた。実に3カ月で回収ができた。

「Bull Pulu」の店舗の投資額は低く、回収が速いことも事業家から注目されたポイントである(Bull Pul提供)
「Bull Pulu」の店舗の投資額は低く、回収が速いことも事業家から注目されたポイントである(Bull Pul提供)

タピオカの商売はこのように絶好調であったのに、なぜブームが鎮静化したのか。加藤氏はこのように述懐する。

「まず、2019年の終わりごろにブームの熱が高じて物件の取り合いがはじまり、これによって家賃相場が上がるようになった。こうして経営環境を厳しいものにした」

「タピオカの店舗は路面でありながら、座って落ち着いて飲むことが出来ない。フードコートにある店舗であれば椅子やテーブルがある。そこで市中の路面にある店舗が撤退する事例が増えた。さらにコロナ禍となり、マスクをつけるようになったことでタピオカドリンクの“飲み歩き”ができにくくなった」

「直営」と「フランチャイジー」の両輪

加藤氏はこの度のコロナ禍にあって、「当社はこれからどのように進むべきか」ということを一生懸命考えたという。そこで収れんされたことは大きく二つ。それは、「直営部門」と「フランチャイジー部門」の両輪である。

「直営部門」はこれまで同社の事業を大きく推進することになった「台湾」の食文化を基軸としている。

まず、大きく成長した「Bull Pulu スタンダード」。これは台湾ポップカルチャーをコンセプトにして、ショッピングセンターを中心とした現状の立地で展開する。従来のタピオカに加えて多様なメニュー構成を取る。

次に、「Bull Pulu カフェ」。これは台湾茶のカルチャーをコンセプトとして、駅ビル、百貨店に展開して、台湾茶が楽しめるほか、持ち帰りのスイーツを充実させる。

そして、「Bull Pulu Tenshin」「灯」。台湾屋台フードや豆花(トウファ)をはじめとした台湾スイーツを提供する。

さらに、「生ぎょうざ・小籠包」。生ぎょうざと小籠包の販売店である。

台湾スイーツの定番「豆花」も人気定番商品に育っている(Bull Pulu提供)
台湾スイーツの定番「豆花」も人気定番商品に育っている(Bull Pulu提供)

もう一つの「フランチャイジー部門」はこうなっている。

まず、加藤氏の父の代に基盤をつくった長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」が現状2店舗存在する。

次に、日常外食にエンターテインメントとこだわりの要素を提案するB級グルメ研究所が本部のナポリタン専門店「パンチョ」が1店舗存在する。

さらに、台湾ではスイーツや台湾フードの人気ブランド「騒豆花」(サオトウファ)が1店舗存在する。

そして、これから高級パン「みるく」を展開する。これは足立区北綾瀬の牛乳販売店が開発したブランドで商品にはプリンやソフトクリームもある。

これらのフライチャイジーとなっている業態を成長させていく考えだ。

また、本場イタリアのエスプレッソクオリティを核とした「セガフレード・ザ・ネッティ」と業務提携を行なって「Bull Pulu」でメニューを提供していく。

「台湾」と「商業施設」を基軸に据える

コロナ禍の中で、同社は新しい戦略商品として「台湾カステラ」を生み出し、既存のショップで有効な持ち帰り品として育てているところだ。

台湾カステラとは、日本のカステラと比べるときめが細かく濃密でクリーミー。濃厚な卵感があって、みずみずしく、プルプルしている。カステラをはじめとした和菓子や、ケーキなどの洋菓子とも異なり、「台湾カステラ」はスイーツの選択肢を広げる存在である。

既存店では「台湾カステラ」を焼成する機能を持つところもあるが、多くは東京・駒込の店舗や埼玉・和光の工場で焼成し、それを冷凍して各店舗に配送している。和光の工場では、この他、餃子の製造を行い、この年末からタピオカも製造するという。

もっちり、クリーミー、濃密、濃厚な卵感、という具合にスイーツとしては差別化の要素が際立っている「台湾カステラ」(Bull Pulu提供)
もっちり、クリーミー、濃密、濃厚な卵感、という具合にスイーツとしては差別化の要素が際立っている「台湾カステラ」(Bull Pulu提供)

また、同社では株式会社ドリンクリンクという会社を擁している。ここでは同社が輸入しているタピオカ、シロップ、茶葉などの商品をB to Bで飲食業者に販売している。例えば同社のシロップを仕入れた居酒屋では、それを使用して自社オリジナルのサワーを提供するなどしている。かき氷に使用しているパターンもある。これらの商品は日本のメーカーにはない、本場を感じさせて、また使い勝手のよいことが既存のユーザーから喜ばれている。

加藤氏は「これらの商品は、台湾とのネットワークを強くしてきた当社の強みであり、これからは積極的に売り込んでいきます」と語り、「台湾」と共に育んできたBull Puluのミッションを背景にして営業に力を入れていく方針だ。

台湾茶も「Bull Pulu」ブランドの人気定番商品となっている(Bull Pulu提供)
台湾茶も「Bull Pulu」ブランドの人気定番商品となっている(Bull Pulu提供)

前述した事業ビジョンにあるそれぞれのブランドの展開場所の多くは商業施設内である。これはひとえに加藤氏が前職で大手小売・流通業にいて、あらゆる業務を経験し、小売・流通業とは何かを知り尽くしているからこそ描くことができる立地戦略である。

同社では「台湾」をキーワードに多様なブランドに展開してきた。また、FC部門を広げて商売の幅を広げてきた。「こうすることによって商業施設に対してのさまざまな提案ができるのです」と加藤氏は展望を語る。

コロナ禍以前の同社の年商は27億円であったが、コロナ禍で15億円となった。それを今期19億円に巻き返し、5年後40億円を計画している。

同社は確かに「タピオカ」で揺れた企業である。しかしながら、企業が成長してきた強みとは「台湾」の飲食文化に精通していること、そして商業施設によって育まれてきたということをこれからのビジネスの支えとして、新しくスタートを切っている。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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