飲食業の多くはコロナ禍で大きな影響を被っているが、一方で飛躍的に伸びた飲食業もある。それは「ゴーストレストラン」「バーチャルレストラン」(以下、業態表記の場合はGR・VRと略す)。GRとはキッチン機能だけを持つ施設で「クラウドキッチン」ともいう。VRとは既存の飲食店がもう一つ別なブランドを持ち既存のキッチンを活用するということだ。どちらも商品をお客様に届けるのはUber Eatsや出前館といったデリバリープラットホームと呼ばれる業者である。

この業界で株式会社バーチャルレストラン(本部/東京都江戸川区、代表/牧本天増、会社名はフルで表記)は、GR・VRの直営店を営む傍ら、現在加盟店を続々と増やしている。同社が設立したのは2020年6月のこと。この頃、GR・VRが盛んに行われるようになったが、社名に「バーチャルレストラン」と付けたことに社業の一貫した姿勢が感じられる。

タピオカからデリバリーの世界へ

代表の牧本氏は1997年5月生まれ、現在は中央大学商学部の4年生で、入学時の同期は社会人3年目となっている。学生起業家として2018年から事業を起こして、飲食業は2019年3月東京・明大前にタピオカドリンクの店をオープンしたことから始まる。この店は3坪で月商1000万円を売り上げた。

そして、2020年6月のバーチャルレストラン立ち上げに至る。現在、直営店は7拠点、リアル店舗で加盟しているのは全国に100店舗強、GR・VRのブランドは全体250店舗を超えている(2021年5月末)。

当初はタピオカドリンクのリアル店舗を展開することからスタートした。(さいたま市の与野店/バーチャルレストラン提供)
当初はタピオカドリンクのリアル店舗を展開することからスタートした。(さいたま市の与野店/バーチャルレストラン提供)

同社のブランドとそれぞれの商品をざっと紹介しよう。

タピオカドリンクの専門店「OWL TEA」、韓国ワッフルの専門店「Crazy Waffle」、サラダチキンとブロッコリーがメインのサラダ専門店「サラダチキン研究所」、バナナジュース専門店「BANANA LAB」、ごはんと食べるスープの専門店「&Soup」、油そば専門店「油そば天増」、スムージーとアサイーボウルの専門店「SMOOTHIE MONSTER」、コッペパンサンドイッチの専門店「最強のコッペパン」――等々。約20ブランドとなっている。

これで気づくことは、同社のブランドは重飲食ではなく「軽飲食」であることだ。しっかりと食事をするのではなく、軽く食事をするという商品である。

なぜ、同社が今活況を呈するGR・VRの世界で伸びているのか。それはこれらの商品構成にある。

「サラダチキン研究所」の商品のイメージ。鶏の胸肉とブロッコリーが中心。最近は「筋肉系」と呼ばれる。(バーチャルレストラン提供)
「サラダチキン研究所」の商品のイメージ。鶏の胸肉とブロッコリーが中心。最近は「筋肉系」と呼ばれる。(バーチャルレストラン提供)

軽飲食で利益を確保し生産性を高める

バーチャルレストランの商品を軽飲食にした理由について、牧本氏に尋ねると「加盟店の利益を上げるため」という。例えば、「Owl Tea新宿店」のメニューをみると、タピオカドリンクが550円~702円、サラダ842円~1404円、ビッツァ1296円~1512円、パスタ1296円~1706円などとなっている。一般的に外食をする価格と変わらない。1200円以上の注文に対して配達手数料を無料としている。一般的に軽飲食は重飲食に対して原価率が低いが、軽飲食に特化して利益を確保して、配達手数料を吸収している。

同時にローコストオペレーションにしている。本部指定で加盟店に送られる材料はOEM(他の工場で製造されたもの)で、ポーションコントロールがなされ、キッチンでの作業のほとんどは盛り付けるだけだ。そこでキッチンの中では1人で複数のブランドのオペレーションが可能となる。

本部から送られる商品は、本部の利益をのせることなく原価のまま。容器は、本部がまとめて購入しているので、加盟店が自分で調達するよりも安いという。加盟店が独自に調達してもいい材料もある。例えば、牛乳は乳脂肪分が3.6%以上のものであればメーカーを問わない。冷凍のフルーツは業務用スーパーの商品で構わない。こうして、デリバリー商品の原価率は容器代を含めて20%に抑えている。

加盟店のロイヤリティはブランドによって異なるが、売上の5~10%となっている。加盟店が望めば、同社のブランドをいくつ行っても構わない。

同社の本部はJR小岩駅から徒歩10分ほどの場所にあり、デリバリーのキッチンを兼ねたテストキッチンと倉庫を備えている。キッチンでは同社の8ブランドを営んでいて、それを1人で回している。1回のデリバリー単価は1800円あたりで日商20万円を売り上げている。

JR小岩駅から徒歩10分の場所にある本部のテストキッチンを兼ねたデリバリ―のキッチン。8ブランドを1人で回して日商20万円になることもある。(筆者撮影)
JR小岩駅から徒歩10分の場所にある本部のテストキッチンを兼ねたデリバリ―のキッチン。8ブランドを1人で回して日商20万円になることもある。(筆者撮影)

時間とスペースを有効活用

同社の商品を軽飲食にしている理由はほかにもある。

まず、デリバリーは注文があってから届けるまで30分の時間がかかる。そこで軽飲食は重飲食と比べると経時劣化のリスクが少なくクオリティを担保できる。

デリバリーは重飲食が多く競合が激しい。一方、軽飲食は少ない。また、軽飲食のブランドがたくさんあることによって加盟店が地域特性に合わせてブランドを組み立てやすい。

加盟店の中には、漫画喫茶が同社のブランドで月商80万円、ナイトワークの店が空いている昼の時間帯を利用して180万円を売り上げている事例もある。このほか、社員食堂しかり、同社のブランドを活用している業態は多岐に及ぶようになっている。

「飲食店を営業するということは、あくまでも飲食ビジネスのスタートに過ぎません。飲食の事業者の皆さんには空いている時間とスペースを有効活用して、デリバリーの価値を最大化していただきたい」(牧本氏)

加盟店にとっての戦略的なITの組立については、同社がすべてをまかなっている。売上管理も同社が行って、売上が不振の場合は、ブランド構成を変えるなどのアドバイスを適宜行なっている。またデリバリープラットホームのレビューが上に上がるための工夫をデリバリープラットホームと共に行っている。

加盟店のIT分野に関しては本部がすべてに対応している。(バーチャルレストラン提供)
加盟店のIT分野に関しては本部がすべてに対応している。(バーチャルレストラン提供)

湧き出るアイデアが業界を変える

牧本氏のアイデアマンとして秀逸な事例を幾つか紹介しよう。

バーチャルレストランはフードサービスのデリバリーをメインとしているが、ペットフードも行っている。それは「犬のご馳走便」。飼い主が愛犬と一緒に食事ができるペットフードで、トッピングなどによって栄養バランスのケアも行う。単品価格は1500円が中心だが、1デリバリーあたりの単価は4000~5000円となる。この商品のメーカーは既存のペットフードのメーカーで、牧野氏のインスタグラムによって知己を得た。

これを発案したきっかけは、富裕層が多い街のコンビニで同店の品ぞろえを見ている時であった。その店ではペットフードがレジ近くに分かりやすく陳列されていて、とても需要が多いことを察知した。

2021年2月に新規事業としてフードデリバリーに特化した総合情報メディア「ゴーストレストランの教科書」を立ち上げた。

このメインのコンテンツは「新着!FC募集中ゴーストレストラン一覧」というもの。全国のGR・VRの事業者がそれぞれのブランドの内容、開業資金の総額、サポート体制、収益モデルなどを発信。GR・VRを手掛けたい事業者とマッチングさせるというものだ。月額で掲載している。開始して3カ月と間もないが、現状1日に2~3件が成約しているという。

この他「ゴーストレストランの始め方」「説明会」「最新ニュース」等、GR・VRの開業に関するさまざまなコンテンツが網羅されている。この分野のビジネスを広げていくためには大いに参考となるだろう。

ゴーストレストラン・バーチャルレストランのマッチングサイト「ゴーストレストランの教科書」では1日2~3件が成約しているという。(バーチャルレストラン提供)
ゴーストレストラン・バーチャルレストランのマッチングサイト「ゴーストレストランの教科書」では1日2~3件が成約しているという。(バーチャルレストラン提供)

最近の話題としては、「タイミー」と業務提携を行なうことを6月2日にリリースした。「タイミー」は、すぐに働くことができてお金がすぐに支払われる“スキマバイトアプリ”で、ベンチャー企業であるタイミーが開拓してきた。現在、このサービスの導入店舗数が4万カ所、利用者数200万人(2021年5月末)という規模となっている。今回のリリースはこれらの利用者が同社の加盟店の配達要員として働くことができる仕組みで、既存のデリバリープラットホームとの契約に至る煩雑さを解消し、なおかつ加盟店ではこれらの配達要員を“業者”ではなく「自社便」として位置付けることになり、デリバリーのクオリティが向上する。さらに、バーチャルレストランの加盟店は24時間営業を行なっているので、これを導入することで売上が伸びる可能性は高い。

コロナ禍にあって飲食業界はデリバリーによって「お客様に料理を届ける」という売り方を手に入れた。そしてバーチャルレストランのようなアイデアを持つ取組みによって、デリバリーの付加価値の差別化が進んでいくのではないか。