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うなぎのファストフード「名代 宇奈とと」に見るコロナ禍の勝ちパターンとは?

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
コロナ禍でありながら業容を拡大した「名代 宇奈とと」。(筆者撮影)

コロナ禍でも業容を拡大している事例は散見されるが、うなぎのファストフード「名代 宇奈とと」の場合は一つのパターンを築いたものとして注目される。

「名代 宇奈とと」を展開しているのはG-FACTORY株式会社(本社/東京都新宿区、代表/片平雅之)という経営コンサルティング会社であるが、そもそも同社は2003年に「名代 宇奈とと」を譲受したことから同社を設立した。当時は、「牛角」「てんや」といった日本の伝統的な業種がFCチェーンとして勢いを増していて、代表の片平氏はこれらに類する可能性を「宇奈とと」に見出した。そしてこの事業を推進することから経営コンサルティング事業のスキームを構築していった。

飲食事業のライセンス契約をリリース

2020年の年初からのコロナ禍で「名代 宇奈とと」ではその対策を練り込んでいくが、6月5日にライセンス契約によって全国展開することをリリース。「テイクアウト・デリバリーによる収益拡大を検討している」「夜間のみ営業している居酒屋のランチ時間帯を有効に活用したいと考えている」「既存店のリソースをベースに売上アップを実現したい」――このように考える事業者向けに「名代 宇奈とと」の商品やノウハウを提供し、ゴーストレストランや、テイクアウト・デリバリー専門店の開業を支援するサービスを開始した。

ライセンス契約者には、それぞれのオリジナルな商品と一緒に、「名代 宇奈とと」の商品を直営店と同じ価格で販売してもらう。テイクアウト・デリバリーだけでなくイートインでも同様だ。これらの商材は「宇奈とと」で万全に整っていることから、ライセンス契約を結ぶことによってすぐに納品することができる。

 契約者は、焼鳥店を営んでいるなど炭火を扱うことに習熟しているところが有利だが、その経験がなくても「宇奈とと」が研修期間を設けて指導する。また、希望者には「Zoom」によるweb説明会を開催して、顧客ターゲット、メニュー構成、原価率をはじめとした出店を検討する際に必須となる情報について伝えていく。

テイクアウト商品に向いているうな丼・うな重の特長を生かして昨年の3月から積極的にテイクアウト・デリバリ―を展開。新しい事業の手応えをつかんだ。(G-FACTORY提供)
テイクアウト商品に向いているうな丼・うな重の特長を生かして昨年の3月から積極的にテイクアウト・デリバリ―を展開。新しい事業の手応えをつかんだ。(G-FACTORY提供)

直営店で手掛けたことが実績をつくる

これに至る伏線は既存店でテイクアウト・デリバリーを手掛けたこと。この需要が著しく増えた。デリバリープラットホームのUber Eatsがデリバリーのエリアを拡大するようになり、それに伴ってデリバリーの売上が伸びていった。顕著な例は23区以外の調布店で、同店はコロナ禍の影響をさほど受けておらず、昨年4月、5月の売上げは前年対比130%となった。ほかの店の売上も前年実績を上回った。インバウンド需要が減少した浅草店ではこの分野の売上が増えて7割を占めるようになった。6月の段階で「名代 宇奈とと」全体の売上に対してテイクアウト・デリバリーは6割を占めるようになった。

この機運に乗じて、5月25日(月)~6月7日(日)「うなめしギガ増し+」1100円(税込)のキャンペーンを展開した。「うなめし」とは刻んだうなぎの上に海苔をトッピングした丼で通常は並550円。そのキャンペーンメニューとして人気が定着していた「うなめしギガ増し」のうなぎ量を3倍から4倍に増やした商品が「うなめしギガ増し+」で2週間で1万食を販売した。店舗当たり1日平均50食ほどを販売したことになる。

また、「猛暑で疲れた体へのスタミナチャージに!」をうたって8月24日(月)~9月6日(日)同価格でキャンペーンを行った。

昨年初めて行った「うなめしギガ増し+」は人気定番のキャンペーンに育った。今年は2月22日(日)~2月28日(日)に続き、3月8日(月)~14日(日)第2弾が行われる。(G-FACTORY提供)
昨年初めて行った「うなめしギガ増し+」は人気定番のキャンペーンに育った。今年は2月22日(日)~2月28日(日)に続き、3月8日(月)~14日(日)第2弾が行われる。(G-FACTORY提供)

6カ月間でゴースト20店舗が誕生

さて、「名代 宇奈とと」のライセンス契約の第1号は広島県福山市の飲食企業で、9月24日地元で営業を開始した。その後、続々と契約事例は増えていった。

2号店以降営業を開始した店を順に挙げると、2020年10月17日茨城県つくば市、10月23日東京都千代田区(水道橋)、10月30日千葉県市川市、11月12日札幌市清田区、11月17日東京都港区(溜池山王)、11月24日福岡市博多区、12月1日東京都豊島区(池袋)、12月4日大阪市北区(おいでやす通り)、12月16日群馬県高崎市、12月23日京都府長岡京市(イズミヤ長岡店)、12月24日東京都渋谷区(原宿)、12月28日札幌市北区、2021年1月15日大阪市阿倍野区、2月5日大阪府堺市、2月15日大阪府岸和田市、2月19日東京都墨田区(曳舟)、2月22日東京都板橋区(板橋区役所前)、3月3日島根県松江市、3月8日大阪市淀川区である。このように出店ペースは上がっている。ライセンス契約者は、飲食業、弁当惣菜の製造販売業である。

 また、この間リアル店舗も出店。11月28日東京都立川市に「名代 宇奈とと」立川店(直営店舗)、12月19日東京都千代田区(秋葉原)に「名代 宇奈とと」秋葉原店(ライセンス店舗)と2店舗をオープンしている。これで、テイクアウト・デリバリーの機能を持ったリアル店舗は16店舗、テイクアウト・デリバリー専門店は20店舗となった。このうちライセンス事業は21拠点に育ち、同社の飲食事業はコロナ禍にありながら大きく成長することが出来た。

「うなめしギガ盛り+」開催を連発

さて、季節は春間近である。本年初のキャンペーンとして2月22日(日)~2月28日(日)「うなめしギガ増し+」(同価格)を東京・大阪の一部店舗で販売した。

そして、3月8日(月)~14日(日)、本年の第2弾となる「うなめしギガ増し+」(同価格)を展開する。緊急事態宣言が明けるのはまだ先のようだが、このようにポジティブな姿勢は今を生き抜く上で重要なことではないか。

経営コンサルタンティング会社にとって、飲食事業のこのような経営判断と俊敏な行動は力強いバックボーンとなっていくことであろう。

2020年11月28日にオープンした「名代 宇奈とと」立川店のオープン前の様子。顧客にとって出店が待ち望まれる飲食店として定着している。(G-FACTORY提供)
2020年11月28日にオープンした「名代 宇奈とと」立川店のオープン前の様子。顧客にとって出店が待ち望まれる飲食店として定着している。(G-FACTORY提供)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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