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ランチ限定で利益率50%、肉の二郎系「ステーキ五郎」がバズったきっかけとは?

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
印象深い「ステーキ五郎」のメニューのモデル。(ダイヤモンドダイニング提供)

最近、日中の都心で「ステーキ五郎」という看板が見られるようになった。これはもっぱらディナータイム営業を行っていた飲食店が、クローズしていたランチタイムを活用して営んでいるものだ。黄色と黒のよく目立つ看板で商品を大きく打ち出してお値打ち感をアピールしている。

商品は「ステーキ」で、シングル(150g)980円(税込、以下同)、ダブル(300g)1660円、1ポンド(450g)2200円とボリューム別で価格が設定され、これに無料で、ヤサイ(無し・普通・マシ・マシマシ)、トロトロ脂すじ(無し・あり)、ニンニク(無し・あり・マシ)、脂〈バター〉(無し・あり1枚・マシ2枚)を顧客が好みで選び、さらにトッピングとして生卵50円がある。ライスは食べ放題。

肉とヤサイのボリュームを選び、さらにトッピングを選ぶことによってカスタマイズしたステーキを楽しむことが出来る。(ダイヤモンドダイニング提供)
肉とヤサイのボリュームを選び、さらにトッピングを選ぶことによってカスタマイズしたステーキを楽しむことが出来る。(ダイヤモンドダイニング提供)

このブランドを運営しているのは株式会社DDホールディングス(本社/東京都港区、代表/松村厚久)の連結子会社である株式会社ダイヤモンドダイニング(本社/東京都港区、代表/鹿中一志)。

現在は、都心の「MEAT&WINE WINEHALL GLAMOUR NEXT 新橋」「WINEHALL GLAMOUR 赤坂」「博多かわ串・高知餃子 酒場フタマタ」の浜松町店と西池袋店、広島市内の「Monday」の5店舗で営業している。

このブランドが誕生した背景と動向について、開発を担当した井比政貴氏が解説してくれた。

10人中3人がドはまりする食事

井比氏によると、「ステーキ五郎」は「昼のクローズタイムに営業する」「ランチタイムの売上が芳しくないところでの売上対策」として2019年10月から構想が練られていったという。それが2020年に入り、コロナ禍でにわかに具体化していった。

商品設計のポイントは「インパクト」「味」「商品力」、ターゲットは「20~40代のスーツを着ていない男性」で、「10人中10人がおいしいと評価するのではなく、10人中の3人がドはまりする食事」「商品が来店の目的となること」を基軸として考えた。

この商品についてWeb上では「ラーメン二郎インスパイア」と発信されているが、野菜を山盛りにした様子や、これらを増量する言い方を「マシ」「マシマシ」としているのも「ラーメン二郎」を彷彿とさせる。これもこの商品設計のストーリーであり、まさにターゲットとしている顧客に分かりやすく伝わるように組み立てたものだという。

ステーキの肉はUSビーフのミスジ(牛の肩甲骨から手首までの部分にある赤身肉で肉質が柔らかい)をミディアムに焼き上げている。ヤサイは茹でたもやし。その上から顧客の好みで、トロトロ脂すじ、ニンニク、バターを添えている。

最初に導入した店の立地が新橋であったのは、井比氏が当時担当していた営業店舗の中で適した業態の既存店舗が新橋にあったということから。設備投資は不要。現在導入している店舗は、ステーキを焼くために必要なロースターや焼き台がもともと備わっていたところだ。客単価は1109円で原価率47.9%、社員だけで営業しているので、原価以外は水道光熱費が若干かかるもののそれ以外は営業利益となっている。

「博多かわ串・高知餃子 酒場フタマタ 西池袋店」の店頭の様子。本来の店の暖簾を目立たなくして、A看板とポスター、のぼりで存在感をアピールしている。(筆者撮影)
「博多かわ串・高知餃子 酒場フタマタ 西池袋店」の店頭の様子。本来の店の暖簾を目立たなくして、A看板とポスター、のぼりで存在感をアピールしている。(筆者撮影)

人気ユーチューバーの存在感

新橋店の従来の営業時間は17時~23時30分でランチ営業をしていなかった。そこで「ステーキ五郎」を11時30分から15時で営業し、営業開始から3日間”五郎“(ゴロウ)に掛けて「560円」(ステーキ150ℊ)で販売したところ1日30食が売れた。しかしながら、それが終了してからは5食程度となった。

井比氏はそれを巻き返すために人気ユーチューバーにダイレクトメッセージで「ステーキ五郎を取材してユーチューブにあげてほしい」という趣旨の営業を行った。これが反映されて売上は1カ月で戻り、客数は伸びていった。現在では1日当たり、新橋店55~60食、赤坂店50~55食、浜松町店68食、池袋店30食、広島店は1月29日に導入したばかりで1日30食限定だが45分で完売している。

当時「ステーキ五郎」の存在を知らずにいた同社でホームページを管理する担当者が、いきなりアクセスが伸びていることを不思議に思い、調べたところツイッターから「MEAT&WINE WINEHALL GLAMOUR NEXT 新橋」に着地し、そこから流入していることが判明した。まさに「バズっている」という状態であった。

井比氏にとって人気ユーチューバーは見ず知らずの相手だったが、提供した情報に目が留まればユーチューバーから自主的に動画を投稿する。そしてこれらの視聴数が増えるにともなってこのような現象が起きる。

ユーチューバーが情報発信することで、店や商品の認知度や客数回復のスピード感は従来と全く異なるようだ。井比氏も「商品力については確信を抱いていたので客数は自ずと増えていくのではと思っていたが、客数を早期に回復することは必須であった中で、驚くほどの成果が見られた」と語る。

潜在するニーズをトレンドにする

このような現象は、特に地方都市で顕著に表れている。

広島で「ステーキ五郎」の営業状況が好調であることを前述したが、これは地方都市におけるユーチューバーの存在感に起因しているようだ。

テレビから発信されるグルメ情報は東京がメインになる。地方都市の場合、地元の情報は少なく、また取り上げられる店は決まっている。このような具合に、地方都市のグルメ愛好家にとって地元のグルメ情報は渇望されている。

そこで、地元のグルメ情報を発信しているユーチューバーがいるとファンとなり、チャンネル登録を行う。「このユーチューバーが紹介しているお店だから、おいしいに決まっている」「家から近い」「会社から近い」という具合に地元意識がくすぐられ、取り上げられた店はにわかに注目されるようになる。

「ステーキ五郎」ではデリバリー展開も見据えている。そして、ランチタイム営業だけでなくゴーストレストランとして一日通しで営業することもできる。同社内で限定せずに、キッチンを持っている事業主に向けてFC展開をすることも可能だ。

井比氏はこう語る。

「ディナータイム主力の飲食業にとって、夜営業できないからといきなりランチをはじめて、にわか仕込みのパスタを売ったところで売れるものではありません。地元の人にとっては行きたいパスタ屋さんは決まっています。そのような中でお客様を獲得するためには、潜在するニーズをつかみ取り、そのトレンドをつくってしまうというアクションが必要になるのでは」

何とも力強い、飲食業界の閉塞感を打ち破り、大いに参考となる事例ではないか。

300ℊ、ヤサイ・マシ、ニンニク・マシ、トロトロ脂すじ・あり、バター・1枚。山盛りの野菜を小皿に取り分けるのがポイント。ステーキが浸っているスープにご飯をつけて食べるのも楽しい。(筆者撮影)
300ℊ、ヤサイ・マシ、ニンニク・マシ、トロトロ脂すじ・あり、バター・1枚。山盛りの野菜を小皿に取り分けるのがポイント。ステーキが浸っているスープにご飯をつけて食べるのも楽しい。(筆者撮影)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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