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いまどき出店ペースが上がる焼肉店「0秒レモンサワー」、繁盛が続く仕掛けとは

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
20代前半の客層がメインで予約が取りづらいほど繁盛している。(GOSSO提供)

各テーブルにサワーのタップがついて自由に飲める

今、首都圏では「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」という焼肉店が繁盛していて続々と店舗展開を行っている。

同店が人気の一番のポイントは、各テーブルにサワーのタップがついていて、自前で自由にサワーを注ぐことができることだ。「0秒レモンサワー」とは、レモンサワーをオーダーしてレモンサワーが飲めるまで待ち時間が0秒ということ。このような装置の事例は増えてきているが、同店はその先駆けである。

レモンサワーを注文して0秒で出て来るということで名付けられた「0秒レモンサワー」。(GOSSO提供)
レモンサワーを注文して0秒で出て来るということで名付けられた「0秒レモンサワー」。(GOSSO提供)

ただし条件がある。「0秒レモンサワー」の飲み放題は60分500円。延長する場合30分300円。「0秒レモンサワー」だけでなくソフトドリンクも飲み放題になるのでアルコールが苦手な人でも楽しむことができる。「最大席利用時間90分」と明示されていて、同店に滞在できるのは90分間と限られている。このような条件が同店の回転率を高めることにもつながっている。

同店を展開するのはGOSSO株式会社(本社/東京都渋谷区、代表/藤田建)。2005年に創業し、首都圏をはじめ東海、関西、シンガポールにビルインでカジュアルな飲食店を展開してきた。

同店の1号店は2019年12月にオープンした横浜西口店。以来、渋谷店、武蔵小杉店、相模大野店(以上直営店)、FCとして新宿三丁目店、新小岩店、11月16日に本厚木店をオープンした。12月には3店舗がオープンし、来年2月まで出店計画が整っている。客単価は3000円(税込)、標準店舗は25~30坪で50~60席。この客単価は「鳥貴族」「串カツ田中」の客単価2000円強の上で、またバルと言われる4000円前後より低く、空白マーケットと言われている。またこの規模は、この業態としては最も高い生産性が期待できる。

現在、横浜西口店、渋谷店では予約がなかなか取りにくい状態となっている。筆者は9月の平日、渋谷店に予約なしで17時に入店しようとしたところ2回続けて断られ、予約をしたところ10日後に入店することができた。

このような繁盛店がどのようにして誕生したのか、同店を展開するGOSSO代表の藤田建氏に話を伺った。

M&A戦略を進めていく上で巡り合ったウインウインの構想

同店には「本家」となる「仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)というチェーン店が存在する。

「ときわ亭」のストーリーはこのような文言で始まる。

――終戦後の食糧難時代、仙台では焼鳥屋と豚ホルモンをガスで焼く店、通称「とんちゃん屋」が多くあり、価格の安い庶民の味として人気があった。――

開業したのは戦後の闇市の頃というイメージがあるが、1号店は2005年仙台市一番町にオープンし、その後FCを含めて宮城県下でチェーン展開を行っていた。

一方の藤田氏は、100店舗100億円企業を目指すために2~3年前からM&A戦略に眼を向けるようになった。その候補に挙げられたのが、この「ときわ亭」であった。藤田氏は仙台に足しげく通うようになり、「ときわ亭」の商品力の高さに感動し続けたという。

おすすめ一番の「名物 塩ホルモン」380円は本家仙台からの人気定番商品。(GOSSO提供)
おすすめ一番の「名物 塩ホルモン」380円は本家仙台からの人気定番商品。(GOSSO提供)

ちなみに藤田氏は1974年8月生まれの46歳、「ときわ亭」代表の加藤栄一氏はその一回り上でまだ引退する年代ではないことから、お互いのウインウインを模索するようになり、全く互角のパートナーシップを結ぶことになった。

藤田氏は「全国展開をして100店舗100億円を目指す」ことが狙いであり、加藤氏は「ときわ亭のブランドを全国に広げたい」という想いがあった。

そこで、GOSSOでは宮城県以外で「ときわ亭」を展開する権利を持ち、同店で使用する食材を仙台の「ときわ亭」の食肉工場が供給するという取り決めを行った。

藤田氏は、これから全国展開を行うためには既存の「ときわ亭」の商品力に加えて店内に仕掛けをつくりたいと考え、各テーブルにレモンサワーのタップを設けることを考えた。そこで「0秒レモンサワー」の商標を登録した。店名が「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」と長くなっているのは、仙台の「ときわ亭」のブランドに、GOSSOの登録商標を付けているからである。ちなみにGOSSOでは「0秒ハイボール」の商標も登録している。

GOSSOが展開する「ときわ亭」では商品開発を独自に行うことが可能で、本家の加藤氏もこれに参画している。商品は約90品目が存在するが、このうちの3割程度はGOSSOサイドのオリジナルである。インスタ映えする「肉塊 レモン牛タン」1490円や「レモン牛タンカーペット」1290円などがそれに相当する。

GOSSOサイドのオリジナル商品「肉塊 レモン牛たん」1490円はインスタ映えすることで注視効果が高い。(GOSSO提供)
GOSSOサイドのオリジナル商品「肉塊 レモン牛たん」1490円はインスタ映えすることで注視効果が高い。(GOSSO提供)

メニューをはじめリピーターが増えるさまざまな仕掛け

さて、筆者が体験した渋谷店の客層はほとんどが学生のような20代前半である。そして、女性も多い。4割程度が20代前半の女性のようだ。藤田氏によると、「M1(20~34歳の男性)、F1(同じく女性)といった学生からヤングサラリーマンをメインターゲットに想定していたが、コロナ禍のリモート勤務になって学生がほとんどを占めるようになった」という。

現在、横浜西口店で月商1300万円、渋谷店で1200万円と坪当たり売上では繁盛店の目安を大きく超えている。このように大繁盛を継続しているポイントは「メニュー数の多さ」にあるという。

同店では豚の「塩ホルモン」を推しているが、ロースターを使用するメニューだけでも「豚 厳選ホルモン」「牛 厳選ホルモン」「牛タン」「牛の焼肉」「厳選牛」「豚/鶏」「山賊焼き」がある。さらに「ときわ亭本家 つけ冷麺」890円を推すなど、食事メニューも豊富にあり、「ときわ亭の持ち味を知るためには5回程度来店する必要がある」(藤田氏)という。

また、リピーターは公式アプリによって3回来店すると同店オリジナルの金のタンブラーがプレゼントされる。来店の回数が増えるに伴って、幕下から関脇、大関という具合に位が上がり、それぞれのタイミングで特典がもらえる。「0秒レモンサワー」の話題性で来店する新規客に加えて、このような仕組みによってリピーターも多い。

客単価3000円の内訳としてF(フードコスト=原価)35%、L(レイバーコスト=人件費)21~22%となっている。Fは一般的に30%とされているが、同店のFの高さはお客様に満足感をもたらしていると言えるだろう。

3~5店舗を経営する30代経営者がコロナ資金を投入

出店予定が目白押しだが、これはFC出店を希望する経営者が多いからだ。

FCの条件は、加盟金が坪数×10万円、ロイヤルティ3%、補償加盟金が坪数×5万円。加盟金の上限が300万円、つまり30坪以上の人は300万円、下限が100万円で10坪以下の人は100万円、そこで坪数が大きな地方都市で出店する場合は有利と言えるだろう。

既存のFCオーナーや加盟希望者は既に3~5店舗の飲食店を展開している30代の経営者で、コロナ対策の支援制度を利用する、というパターンが多い。藤田氏は「既存店のエリアで同じブランドを展開すると競合してしまう。では、焼肉か焼鳥か専門店を手掛けてみたいが、専門店を開発することは簡単なことではないので、加盟店になった方が早く出店できると考えている人」とまとめてくれた。

専門店の開業を志す30代の飲食業経営者から加盟店となることが待望されている。(GOSSO提供)
専門店の開業を志す30代の飲食業経営者から加盟店となることが待望されている。(GOSSO提供)

さて、藤田氏の計画では2024年度までに100店舗、チェーン売上100億円と想定している。このように、「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」はコロナ禍にあっても絵に描いたような繁盛ストーリーをもたらしている。

ただし、これらのストーリーは付け焼き刃で出来上がったものではなく、藤田氏がGOSSOの成長エンジンをつくり上げるために2~3年の時間を費やした成果である。

藤田氏はこう語る。

「これからは関東圏の大きな都市に出店し、さらに乗降客10万人、20万人といった中核都市、さらに私鉄沿線に出店。そして父ちゃん母ちゃんでも成立する業態をつくっていきたい」

まさに、商売の拡大を現実的に描くことができるパターンをつかみとったという印象を受ける。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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