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「スシロー」がコロナ禍でも過去最高売上を達成することができた施策の内容

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
「スシロー」の店内はさながらテーマパークのような楽しさがある(「スシロー」提供)

回転すしの「スシロー」をメイン業態とする株式会社スシローグローバルホールディングスの2020年9月が売上高2049億5700万円(対前期比2.9%増)と過去最高を記録した。ちなみにスシローの店舗数は2020年9月末現在で国内559店舗(前年度比31店舗増)となっている。

同社はコロナ禍にあって、売上の回復が早く、特にいち早くテークアウトに着手したことが奏功した。また、コロナ禍以前から非接触の取組みを先験的に行っており、このような数々の取組みがコロナ禍にあっても売上高を増加することができた要因と言える。

では、具体的にスシローはどのようなことを行ってきたのかを紹介しよう。

「自動土産ロッカー」でテークアウトをより便利に

スシローの月次報告を見ると、コロナ禍が顕在化して、自粛要請が出た3月度は既存店客数83.9%、客単価102.8%。緊急事態宣言が出た4月度は既存店客数45.3%と半減したが、既存店客単価は122.7%と2割以上アップ、5月度も同じような傾向が続き、7月では、既存店客数88.5%、既存店客単価109.0%となり、既存店売上高は96.5%とほぼ前年並みとなってきている。4月度、5月度の既存店客単価が大きく伸びている要因は、テークアウト需要が伸びたことに他ならない。

まず、このテークアウト需要の動向について述べておこう。

4月に入り、スシローではテークアウトに関してデジタルの活用を進展させた。お客がスマホアプリ・インターネットから簡単かつ便利にテークアウトの注文ができるようにした。インターネット・アプリでは受け取る待ち時間が一目で分かるようになっていて、受取日の店舗の空き状況を確認できるようになっている。また、店舗でも受け取り時間を指定できるために、受け取りをスムーズに行うことができる。

その画像が、トップページ→店舗選択→受取日を選択→商品を選択、の一連である。

また、お客がスシローアプリで予約して、店頭で受付をすると、リアルタイムで待ち時間の確認ができる。お客はプッシュ通知機能で来店時間を入力しておくと、待ち時間が近づくまでは駐車場の車の中で待つこともできる。

リニューアルされたテークアウトの注文の手順。これによって4月度の注文数は前年同月比で3倍となった。(「スシロー」提供)
リニューアルされたテークアウトの注文の手順。これによって4月度の注文数は前年同月比で3倍となった。(「スシロー」提供)

さらに店舗の中に「自動土産ロッカー」を順次導入している。これは、温度管理機能が整ったロッカーを使用しているもので、お客が「店内で予約」「電話ないしFAXで予約」または「アプリ・ネットで予約」すると、お客にメールでQRコードが届き、そのQRコードをかざすことによってロッカーから商品を取り出すというもの。アプリで事前に支払いをすませておくと、指定された時間に店舗に行き人に接することなく商品を受け取ることができる。このロッカーは2年前に兵庫県の店舗ではじめて導入したところ、SNS上で大いに話題となった。

各店舗で順次導入が進められている「自動土産ロッカー」。これもテークアウト需要を伸ばすことに大いに役立った。(「スシロー」提供)
各店舗で順次導入が進められている「自動土産ロッカー」。これもテークアウト需要を伸ばすことに大いに役立った。(「スシロー」提供)

安心・安全のイメージを高めた非接触の仕組み

新しく開発したテークアウト商品も需要を増やした。その筆頭が4月に入って急遽つくった「スシロー手巻きセット」1980円(税別)である。これは店舗にある、器、鮮魚、ノリ、ご飯を使用したもの。従来の手巻きセットの器は間仕切りが設けられた専用のものを使用し、ノリのサイズもそれに合わせたものを使用していた。それを「お客さまにテークアウト商品をスピード提供する」ということを優先させて、従来店にあった容器を使用することで柔軟に取り組んだ。

この頃はリモート勤務する人が増えたこともあり、住宅街を背景としたロードサイドのスシローではこの需要が飛躍的に増えた。4月度単月ではテークアウトの売上は前年の4月度実績の3倍に増えた。同商品のネタは「マグロ」や「サーモン」「えび」などスシローで人気上位の10種を詰め合わせたもので、同社の広報担当によると「お仕着せの手巻きすしセットではなく、家庭の冷蔵庫の中にある納豆やアボカドなどを組み合わせた食べ方を楽しんだのでは」と語る。さらに「スシロー特上手巻きセット」を4月末から、これが好評となり「手巻き用追いネタセット」などを5月下旬から、「お子様向け」を想定した「シャリ玉バージョンの手巻きセット」を6月上旬より販売を行った。

さて、スシローの客数の回復が早いのは「非接触サービス」も要因として挙げられる。これはコロナ禍以前から積極的に進めてきたことだ。

それはまず「自動案内」。お客が専用システムでチェックインすると、機械がお客を席まで案内してくれるもので、席は店内アナウンスで教えてくれる。待ち時間が発生する場合は、システムの近くにあるモニターに順番が表示される。

こちらは「セルフレジ」。いち早く非接触に取り組んでいて、安心・安全のイメージが定着していた(筆者撮影)
こちらは「セルフレジ」。いち早く非接触に取り組んでいて、安心・安全のイメージが定着していた(筆者撮影)

さらに「セルフレジ」。お客が食事を終えて、席で会計をした後に渡される会計札(QRコード)をレジにかざすことによって無人で支払いができる。レジでスタッフを待つことがなく、人との対面を減らすことができるために、支払いをスムーズに済ますことができる。

前述した「アプリの活用」や「自動土産ロッカー」も「非接触サービス」の一環である。

これらを推進することで、スシローは高い生産性を維持している。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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