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1勝1敗の衆参補選で、いよいよ岸田首相は衆院解散を決意するのか

安積明子政治ジャーナリスト
所信表明のために登壇する岸田首相(写真:つのだよしお/アフロ)

衆参補選で1勝1敗の意味

 10月22日の衆参補選は、参院徳島・高知選挙区では立憲民主党など野党が応援した無所属の広田一氏が、衆院長崎4区では自民党の金子容三氏が当選した。

 一時は「自民党は2敗する」と囁かれた衆参補選だが、自民党議員の不祥事が原因となった徳島・高知選挙区補選はともかく、「弔い合戦で自民党が大勝する」と囁かれていた長崎4区補選は、2022年の長崎県知事選でのわだかまりや新3区の支部長の座を巡る宏池会内部の分裂で、世襲3世の金子氏は苦戦の末に当選した。

 宏池会会長でもある岸田文雄首相は、かろうじてその体面を保つことができた。だが金子氏の勝因は、15日に長崎入りした岸田首相のおかげではなかった。現地の状況を伝える各社の数字は、金子氏の劣勢を伝えるものすらあったのだ。

 しかし投票箱を開けてみると、金子氏は7000票余りの差を付けて当選した。あの“集票マシーン”が動いたのだ。

鍵を握った公明票

 西日本新聞は10月23日にウェブ版で、「父・原二郎氏と福岡の創価学会を訪ね1万票を“確約”。自民・金子氏が苦戦した選挙戦の舞台裏」とのタイトルで、金子氏の勝因が公明票であったことを報じている。長崎4区には2万票余りの公明票が存在しているが、その多くは当初、静観する様子だった。

 公明党は10月5日に告示された参院補選に自民党から出馬した西内健氏には、すでに9月14日に推薦を決定していたが、金子氏の推薦については10月9日の持ち回り中央幹事会で決定。金子氏に推薦状が手渡されたのは、10日に行われた出陣式の時だった。

 さらに両者の“差”は存在する。岸田首相は10月14日に高知・徳島に入ったが、これに同行したのが公明党の山口那津男代表で、高知市では同じ選挙カーの上に立って西内氏を応援している。

徳島・高知では自民党候補を応援した
徳島・高知では自民党候補を応援した写真:つのだよしお/アフロ

 一方で翌15日の岸田首相による長崎・佐世保市入りには、九州方面本部長を務める秋野公造参議院議員が同行し、山口氏は参加していない。

 実際に公明票の力を見せつけるがごとき動きがある。たとえば15日に投開票された東京・立川市の都議補選(定数2)では、都民ファーストの会の伊藤大輔氏が1万7499票を獲得してトップ当選を果たし、昨年の市議選でトップ当選を果たした自民党の木原ひろし氏は1万2050票で立憲民主党の鈴木烈氏に91票及ばず落選した。伊藤氏が大量得票したのは、小池百合子東京都知事が3度も応援に駆け付けたためだが、その背後に小池知事と近い公明党の票が動いたと見られている。

 こうしたことを踏まえて、金子親子は公明票を頼みにしたのだろうが、その代償は小さくない。そのひとつが解散総選挙の時期だろう。

年内に解散総選挙を行わなければならないその理由

 公明党はかねてから年内解散を主張してきたが、それは来年の都知事選や再来年の都議選、参議院選と重ねたくないためだ。山口代表は23日、「岸田文雄首相が判断すること」と断りながら、「1勝1敗で解散ができなくなったとする根拠にならない」と発言。「解散は消えたわけではないと受け止めている」と可能性について明言した。

 もっとも外交上でも年内に解散総選挙を行うことが望ましいといえるだろう。来年1月13日には台湾の総統選があり、11月5日にはアメリカ大統領選が行われるが、実際にはアイオワ州での共和党集会が行われる1月15日から選挙戦が始まることになる。また3月17日にはロシアで大統領選も行われ、世界情勢が流動的になることは避けられない。このような時に日本が解散総選挙をぶつけるなら、西側諸国が律してきた世界秩序が揺らぎかねない。

台湾を守れ
台湾を守れ提供:U.S. Navy/Naval Air Crewman (Helicopter) 1st Class Dalton Cooper/ロイター/アフロ

 また2025年は「台湾有事」の危険性が大きい。すでに2021年10月に台湾の邱国正国防部長は、中国が2025年に台湾に本格的に侵攻し、陸・海・空を全面的に支配する能力を持つことを明言。今年1月にはアメリカ空軍航空機動司令部のマイク・ミニハン司令官が「2025年までに中国が台湾有事を仕掛け、米中戦争が起こりうる」というメモを出したことが話題になった。

 こうした事情が「外交通」を自負する岸田首相の耳に入らないはずはなく、それを見越して6月や9月に解散風を吹かせたのだろう。しかし前者は麻生太郎副総裁などによって潰され、9月は長崎4区の補選で金子氏が末次氏に予想以上に迫られていたため、風は吹き止んだ。

現在の内閣支持率でも自民党が負けない理由

 年内に解散総選挙を行うとなると、ネックは下降気味の内閣支持率だが、これから必ず上がる保証もない。

 むしろ今、解散を行わなければ、さらに下がる可能性もある。しかも現在の内閣支持率で必ず負けるということでもない。たとえば2017年10月に衆議院選が行われ、自民党は現状維持したが、NHKの調査によれば、当時の安倍政権の支持率は37%、不支持率は43%で、最新(2023年10月)の岸田政権の数字(支持率が36%、不支持率は44%)と大差ないのだ。

 10月23日に行った所信表明演説で、岸田首相は「変化の流れをつかみ取る」ことを宣言した。そのためには自分から、変化を作っていかなければならない。すでに岸田首相の決意は決まっているのだろう。すぐさまその手を打つべきだ。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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