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岸田首相が応援に入るも、衆参補選で自民党惨敗か?

安積明子政治ジャーナリスト
悩ましさはつのる……(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

永田町に飛び交った偽情報

 衆院長崎4区補選が告示された2日後の10月12日、「西日本新聞が行った電話調査」なる数字が永田町に出回った。内容は「2000世帯に電話をかけ、1318世帯が回答。結果は自民党の金子容三氏が48%で、立憲民主党の末次精一氏が29%、「その他」が23%というものだ。

 自民党現職の死去による補選であるからといって、この数字は驚愕だった。というのも、同区については10月7日に長崎新聞が“自民党実施とみられる情勢調査”として「2.5ポイント差」と報道したばかり。それがまたたく間に「19ポイント差」になるのだから、さすが自民党は強い!

知事選分裂と刑事告発~ゴタゴタの長崎自民党

 と、思うわけがない。そもそも長崎の自民党は2つに分裂しているのだ。それが表沙汰になったのは、昨年2月の県知事選で、現職で4期目を目指した中村法道氏に対し、知事時代に中村氏を副知事に起用した金子原二郎元農水相や谷川弥一衆議院議員が元厚労省医療技官で国政に意欲を示していた大石賢吾氏を擁立した。大石氏は541票の僅差で当選したものの、その直後に出納責任者と選挙選挙コンサルタント会社社長による公職選挙法違反問題が発覚し、長崎地検に刑事告発されている。

 長崎を巡る問題はそればかりで終わらない。長崎県知事選で中村氏を応援した北村誠吾元規制改革担当相は今年5月に食道がんで死去したが、その1か月前に後継として山下博史県議を指名し、自民党本部に申し入れた。しかし党本部は「宏池会の問題」としてそれを受け入れず、結果的に北村氏が地盤とした4区の大部分が吸収される新3区の公認候補として、金子氏の長男の容三氏が決定。その前哨戦となる4区補選にも、容三氏が出馬した。

 容三氏は「世襲3世」で、父・原二郎氏が衆議院議員、県知事、参議院議員を務めたばかりではなく、祖父の岩三氏も第1次大平内閣で科技庁長官、第1次中曽根内閣で農林大臣として活躍した。また容三氏の姉の夫は谷川建設の谷川喜一社長で、谷川弥一衆議院議員の長男だ。弥一氏が創業した同社は県内最大の建設業者で、2022年には237億5394万円の売上高を計上した。

 このような華々しい背景を背負いながら、長崎から伝わってくるのは「苦戦」の情報。ただし「立憲民主党の末次氏が強いから」という話ではない。

岸田首相が応援に現地入り

 自民党本部は危機を感じ、岸田文雄首相が14日に高知と徳島に入り、西内健候補を応援した。現役の首相が高知県入りするのは10年ぶりだが、それ以上に異例なのは「劣勢の選挙に首相が出てくる」という点だ。そこで頼みにするのは公明党で、岸田首相はこの日、山口那津男代表と一緒にマイクを握った。

 その後はいったん東京に戻った岸田首相だが、翌15日には長崎県に飛び、5月に亡くなった北村氏の追悼式典に参加した。岸田首相は5月26日の通夜にも27日の告別式にも参加していなかったから、その「罪滅ぼし」のつもりだったかもしれない。だが上記した事情によって分裂した長崎県政で、岸田首相が苦戦する金子陣営のために北村陣営に「世直し」に出向いたようにしか見えないのだ。

5月に逝去した北村誠吾元規制改革担当大臣は、後継に山下博史県議を指名していたが……
5月に逝去した北村誠吾元規制改革担当大臣は、後継に山下博史県議を指名していたが……写真:Natsuki Sakai/アフロ

 当初は「衆参補選で2勝すれば、衆議院の解散に踏み切る」と言われた岸田首相だが、10日に告示されると「2勝」はほとんど不可能になってきた。そんな時に出てきたのが、冒頭の不可思議な数字だった。「西日本新聞が10月7日と8日に実施」したにもかかわらず、その後に西日本新聞による記事は皆無。しかも自民党と立憲民主党の“一騎打ち”にもかかわらず、「その他」が加わっていた。ある永田町関係者は、「自民党の圧倒的優位を流布して、“勝馬”に乗ろうとする人を誘導する意図があるのではないか」と訝しる。

内閣支持率は低迷したまま

 なお西日本新聞は「補選に関して電話調査を行っていない」と関与を否定し、「衆院補選にデマ拡散 熱帯びる情報戦、陣営は冷静」とタイトルを打った記事を掲載。水面下での熾烈な戦いを匂わせている。

 実際に同じ頃に行われたJX通信社の調査や日経新聞社の調査によれば、長崎4区は横一線状態。しかも世論調査についての日経新聞社の記事の表記では、末次氏の優位の模様だ。

 そのような中で岸田首相による応援は、果たして自民党候補にとって功をなすものなのか。ちなみに15日に公表された毎日新聞の世論調査によれば、内閣支持率は前回と同じ過去最低の25%で、不支持率も68%で前回と同じだった。

 衆参補選はいよいよ後半戦に入る。もし全敗すれば、来年の総裁選までの政権の継続も困難になるかもしれない。岸田政権の命運が衆参補選にかかっている。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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