Yahoo!ニュース

東京での自公関係が復旧へ 内閣改造と次期衆院選を巡って取引か #自公連立 #岸田政権

安積明子政治ジャーナリスト
日米韓首脳会談に木原副長官を同行させたものの、悩ましさがつのる岸田首相(写真:つのだよしお/アフロ)

公明党は「秋解散」を予定

 衆議院の「10増10減」をめぐって、今年5月に東京での選挙協力関係に亀裂を入れてしまった自公関係だが、ここに来て関係修復に動いている。8月24日に岸田文雄首相が官邸で公明党の山口那津男代表と会談し、東京での選挙協力関係の修復で合意。翌25日には公明党の石井啓一幹事長が合意内容をまとめた文書を作成する方向であることを明言した。

 5月25日に石井幹事長が「自公の信頼関係は地に落ちた」と発言してから3か月。いわゆる「90日喧嘩」はとりあえず幕を下ろしそうだ。

 その背景として、「秋の解散総選挙」が囁かれている点が挙げられる。公明党の山口代表は7月29日に北海道岩見沢市で、「早ければ秋にも(衆院選が)あるというのがわれわれの共通認識ではないか」と述べた。そうなれば、春の統一地方選挙から半年の期間がある。組織選挙を展開する支持母体も、充分な休みを取ることができる。

「小池百合子」というファクター

 衆院選に絡んで公明党が考慮するもうひとつの要素が、来年夏に予定される東京都知事選だろう。小池百合子知事は3選を目指すと思われているが、そのためには都議会で「友党」である公明党の協力が不可欠。「実は小池知事から打診があったようだ」と公明党関係者が述べる。

2024年都知事選も狙う?
2024年都知事選も狙う?写真:つのだよしお/アフロ

 その証拠として同関係者は、7月14日に山口代表が2024年度の国の施策と予算に対する要望を小池知事から受けたことを挙げる。「要望は公明党東京都本部で行われた。本来なら本部代表の高木陽介政調会長が受け取るべきだった」と述べた。

 さらにその2日後の7月16日、公明党荒川総支部が主催したセミナーに、荒川区を含む東京29区から出馬予定の岡本三成衆院議員が登壇し、山口代表と小池知事とともに手を繋いで高々に揚げ、「固い結束」をアピールした。小池知事は2017年と2021年の都議選でも公明党の候補を応援し、公明党にとって政治の原点といえる都議会公明党の「完勝」に大きく寄与してきた。

 よって2024年夏の都知事選で非自民の小池知事を応援するなら、少なくともその半年前は自民党を応援しにくくなる。では都知事選の半年後ならどうかというと、2024年9月に予定される自民党総裁選はすでに終わっている。さらに岸田政権が継続できるためには、次期総裁選で岸田首相が勝たなくてはいけないから、“公明党の都合”を優先するなら、岸田首相は年内に衆議院を解散するか、衆院選なく総裁選で勝とうとするか、それとも総裁選を諦めるかのどれかになる。

 政権維持を至上命題とする岸田首相には、最後の選択肢はありえない。とはいえ、衆院選なく総裁選で勝とうというのはハードルが高い。「岸田首相は衆議院の解散を恐れている」ということになれば、党内の求心力は大きく低下してしまうからだ。

党内では“ポスト岸田”の台頭

 すでに「ポスト岸田」を虎視眈々と狙うとして、茂木敏充幹事長や石破茂元幹事長の他、菅義偉前首相の名前も挙がる。菅前首相は8月から、ダイヤモンド誌の紙面とオンラインで連載「菅義偉『官邸の決断』」を開始したが、これを「総裁選出馬のための下準備」ととらえる向きも少なくない。石破氏は世論調査で人気があり、2020年の総裁選では、岸田首相の都道府県票が10票しかなかったのに対し、石破氏は89票の菅前首相に及ばなかったものの、42票を獲得した。

 そして石破氏と同様に世論調査での「次期総理総裁」として人気が高い河野太郎デジタル大臣だが、もし内閣改造でマイナンバー問題を抱えるデジタル大臣のポストを外れたら、河野氏も極めて強力なライバルとなるはずだ。2人が激突した2021年の総裁選では、河野氏が獲得した党員票は169票で、2位の岸田首相の110票を引き離し、断トツの人気ぶりだった。

 しかし議員票ではトップは岸田首相の146票で、次が114票の高市早苗経済安全保障担当大臣。河野氏は86票を獲得したに過ぎなかった。

 これは猛烈に高市氏を応援した故・安倍晋三元首相が原因だ。高市氏の追い上げがあまりに激しかったため、岸田首相の議員票まで削り取り、第1回の投票の合計点は岸田首相が256で河野氏が255と、わずか1点差となったのだ。

 これが総裁選の結果に大きく影響したに違いない。当時、衆議院は1か月後に任期満了を控えていた。次の選挙に出ようとする議員たちは、多数の党員票を獲得した河野氏に票を入れたに違いない。

 そういう意味で、岸田首相は“幸運”にも総理大臣の地位を得たといえるだろう。そしてその目的を達成した後に何があるのか。「ただその地位を維持するのみ」だ。

内閣改造は小規模に終わるか

 5月の「自公決裂」を受け、一部の自民党支持層には「自公連立解消」の声も上がった。党内には2012年以来、公明党に国交大臣のポストを独占されていることについて不満もある。公共事業費6兆円など巨額な予算を持つ巨大官庁を握れば、数個の大臣ポストを持つに等しい。

 9月には内閣改造が予定され、妻の元夫の“不審死”問題での再捜査に政治介入が疑われている木原誠二官房副長官の処遇が注目される。もし内閣改造の規模が大きくなれば、公明党が温存を希望する国交大臣のポストにも影響しかねない。

 東京での自公の関係復旧は、選挙を含む政治上のひとつのバーターと見るべきだろう。政権の存続第一主義の岸田首相は、果たして何を差し出すのか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

安積明子の最近の記事