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前哨戦たる補選の数字はまちまち。それでも岸田首相は解散に打って出る?

安積明子政治ジャーナリスト
補選の応援のため和歌山入りし、有権者に手を振る岸田首相(写真:アフロ)

自民党は補選で勝つのか負けるのか

 岸田文雄首相は5月に開かれるG7広島サミットの後、適当な時期を見計らって衆議院を解散すると見られている。来年の自民党総裁選の前に衆議院選で少なくとも現状を維持できれば、いよいよ長期政権が現実になるからだ。その時期を占う衆参5つの国政選挙の補選の投開票が、統一地方選の後半戦とともに4月23日に行われる。ところがそんな大事な選挙なのに、各調査結果の数字がまちまちだ。

 たとえば4月14日と15日に実施された共同通信社の調査では、衆議院千葉5区は立憲民主党の矢崎堅太郎氏が25.2%に対して自民党の英利アルフィヤ氏が22.4%、衆議院和歌山1区は日本維新の会の林佑美氏が43.5%に対して自民党の門博文氏が33.5%、衆議院山口2区は無所属の平岡秀夫氏が41%に対して自民党の岸信千代氏が39.8%、そして参議院大分県選挙区では立憲民主党の吉田忠智氏が40.9%に対して自民党の白坂亜紀氏が36.6%になっている。安倍昭恵夫人の全面的応援を得ている自民党の吉田真次候補が圧倒的に優勢な山口4区を除いて、野党が有利に展開していることが見てとれる。

調査数字は恣意的?

 しかし讀賣新聞社が4月15日と16日に行った世論調査では、千葉5区は英利氏が37%に対して矢崎氏が27%、和歌山1区は門氏が49%に対して林氏が40%、山口2区は岸氏が52%に対して平岡氏が47%、山口4区では吉田氏が61%に対して立憲民主党の有田芳生氏が32%と、自民党が大きくリード。さらに野党が優勢と見られてきた参議院大分選挙区でも、白坂氏が50%に対して吉田氏が49%と、僅差ながら自民党が優勢となっている。

 これは15日に和歌山市の雑賀崎漁港で岸田文雄首相が襲撃された事件が影響していると考えられる。実際に自民党の調査でも、第1回(4月1日と2日)より第2回(4月8日と9日)の調査の方が、自民党の候補の数字が伸びている。たとえば第1回では千葉5区の英利氏は22%と立憲民主党の矢崎氏の28.4%より低かったが、第2回では26.3%と、矢崎氏の23%を上回った。おそらくは4月3日に公明党が5選挙区の自民党候補に推薦を出したために、公明票をそのまま自民党側に上乗せしたのだろう。しかし選挙はそんなに単純なものなのか。

温度が足りない!

 筆者は15日に千葉入りし、矢崎氏と英利氏の選挙戦を取材した。岸田首相はこの日の午後、英利氏の応援のために和歌山から千葉に入ることになっていた。

 演説会場となった新浦安駅前も本八幡駅前も、あふれんばかりの聴衆で埋め尽くされた。張り詰めた緊張感の中で動員された多数の警官が目を光らせ、新浦安駅前では岸田首相らが立つステージに近づくことはできなかったほどだ。

 ただ気になったのは、“体感温度の低さ”だ。安倍・菅政権下では、首相が演説すれば観衆から熱気のようなものが沸き上がってきたのに、それがほとんど感じられなかったのだ。この日は雨のために肌寒かったが、それだけが原因ではないはずだ。また演説を聞くのではなく、もっぱらスマホでの撮影に終始している人が多かったのも気になった。まるで「爆弾を逃れて九死に一生を得た岸田首相」を記録しているようだった。

 もうひとつ気になったのは、「小泉進次郎の使い方と使われ方」だ。小泉氏は4月17日、新浦安駅前と浦安駅前で英利氏の応援演説を行った。

市議選に出馬する自民党の候補とともに英利氏を応援する小泉氏 筆者撮影
市議選に出馬する自民党の候補とともに英利氏を応援する小泉氏 筆者撮影

聴衆は少なく、“進次郎の無駄使い”?

 自民党の次代のリーダーとして抜群の知名度と人気を誇り、応援演説にはその姿をひとめ見ようと多数の人が集まる小泉氏。二階俊博元幹事長の長男が落選した御坊市長選などの例外はあるが、「小泉進次郎は勝てる選挙にしか入らない」と言われている。その小泉氏が応援するということは、自民党が「この選挙は勝つ」と確信したのも等しい。

 しかも市議選も同時に行われており、実際に浦安駅には出馬している自民党候補が集まってきた。にもかかわらず、平日の昼間に行われたゆえか、聴衆の数があまりにも少なかった。巨大なショッピングモールがある新浦安駅前でも、200人か300人ほどしか演説を聞いていなかったようだ。単なる通行人をも含んだ数である。

また小泉氏が演説する際には「ご当地ネタ」が必ず盛り込まれ、それが聴衆を魅了する重要な要素であるが、それがなかったことも気になった。

「英利さんは7か国語を操る。そんな人材だからこそ、国政で活躍してほしい」

「英利さんが自民党を変えてほしい」

 小泉氏はありがちな誉め言葉で英利氏を持ち上げた。しかしよく聞けば、ざらざらとした違和感が耳にひっかかる。複数の外国語を操らなければ国会議員が務まらないわけではないし、そもそも1年生議員が自民党を変えられるはずがない。それを言うなら、小泉氏自身が自民党を変えるべきではなかったか。

中味のない支持率上昇

 4月18日の讀賣新聞社の世論調査では、内閣支持率は前月から5ポイント上昇して47%となり、不支持率は6ポイント下落の37%と好転した。他の調査でも支持率は上昇傾向で、岸田首相の頬は緩みっぱなしに違いない。

 だが岸田首相が鳴り物入りで提唱した少子化対策については57%が評価せず、物価高対策については75%が否定的。要するに肝心な中味について、評価されていないに等しいのだ。

 それでも岸田首相は解散総選挙に打って出るだろう。それは岸田首相にとって、人生最大の賭けになる。だからこそ、その本番を占う今回の補選は重要だ。さて結果はどうなるか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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