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日本の空が危ない!中国が日本の海の次に狙うもの

安積明子政治ジャーナリスト
中国の偵察気球(提供:Chase Doak/EyePress News/REX/アフロ)

「中国が飛行させた無人偵察用気球と強く推察」と踏み込む

 防衛省は2月14日、2019年11月と2020年6月、そして2021年9月に日本上空を飛行した気球について、「中国が飛行させた無人偵察用気球と強く推察されると判断に至った」と発表した。アメリカが2月4日にサウスカロライナ州沿岸で全長約60メートルの「中国の偵察気球」を撃墜して以来、「スパイ気球」が話題となっている。米国国防総省のパット・ライダー報道官は2月8日、トランプ政権以降4回にわたって中国の気球が到来し、〝中国が関心を持つような場所の上空〟を飛行した他、東アジアや東南アジア、中南米やヨーロッパなどでも確認されたことを指摘した。

 松野博一官房長官は2月10日午後の記者会見で、「外国の気球がわが国の許可なくわが国領空に侵入すれば領空侵犯になることに変わりはない」と言明。「対領空侵犯措置の任務に当たる自衛隊機は、自衛隊法第84条に規定する必要な措置として武器を使用することができる」と述べていた。

これまで無意味だった自衛隊法第84条

 同法第84条は、「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」と規定しているが、それではここで言う「必要な措置」とは何か。

 過去の政府見解では、1982年2月9日の衆議院予算委員会で佐々淳行防衛参事官は、同法第84条を「相手が抵抗してきたような場合に武器を使用する根拠」と述べ、「相手が抵抗してきた時、やむを得ず任務遂行の必要上、自分が落とされては任務を果たせなくなるので、やむをえず武器を使用する場合の危害許容要件」と答弁。1999年3月3日の衆議院安全保障委員会でも、野呂田芳正防衛庁長官が「領空侵犯機が実力をもって抵抗するような場合や、あるいは領空侵犯機により国民の生命及び財産に対して大きな侵害が加えられる危険が間近に緊迫してお り、これを排除するためには武器の使用を行うほかはない緊急状態も、これに該当する」と述べている。すなわち武器を使用できるのは、正当防衛や緊急避難が認められるような非常に危険が高まった例外的な場合というわけだ。

緒方議員の質問が政府見解を変えた

 しかし今年2月13日の衆議院予算委員会で有志の会の緒方林太郎議員は、「日本の領空の中に、ああいったバルーンみたいなものがある時は、急迫不正の侵害があるかないかにかかわらず、日本の主権国家としての意思として、ああいったものに破壊措置命令を出すことができるような法制度を整えることが重要ではないか」と提言した。なるほど、実際に無人の気球から何かの物理的攻撃をしかけてくることは考えにくい一方で、その任務とする偵察行為の内容を考えれば、それはじわじわと日本の国益を大きく害してしまう。すなわち自衛隊法第84条の現行解釈では、日本は何もできず、侵害され放題ということになる。

「中国の顔に泥を塗った」と激怒
「中国の顔に泥を塗った」と激怒写真:ロイター/アフロ

 政府は15日に開かれた自民党の国防部会と安全保障調査会の合同部会で、武器使用の要件を緩和することを伝えた。領空侵犯の〝犯人〟とされた中国は15日午後、外務省の汪文斌副報道局長が「日本は確固たる証拠もないのに、中国の顔に泥を塗った。それに対して中国は断固として反対する」と猛反発している。

 その一方で中国はアメリカに対し、汪副報道局長が16日の会見で「誤解を回避し、中米関係を健全で安定した発展軌道に戻すべきだ」と提唱。アメリカの気球も昨年から10回以上にわたってウイグルやチベットなど自治区を含む中国領空を飛行したと主張。自らの行為を正当化するとともに、譲歩を迫っている。

意識すべきはいま現実にある危機

 ここで重要なことは、日本とアメリカでは中国の観測気球に対する国家の危機が異なる点だ。アメリカは中国と世界の覇権を争っているが、日本の危機はもっとリアルなものになっている。

 中国は2010年にドルベースで日本を追い抜き、世界2位の経済大国に成長した。それとともに資源を求めて活発に海外に進出し、2012年頃から尖閣諸島近海に漁船が頻繁に出没し始めた。また南シナ海を「内海」とすべく、人工島の建設にもとりかかっている。

 日本の近海では尖閣諸島を狙うばかりでなく、潜水艦や調査船も跋扈し、海底調査を行ってきた。また小笠原諸島などでとれる良質のサンゴを狙って、中国船が違法操業をくりかえしたこともある。

 こうしたことを考えれば、日本の上空を中国の気球が飛来し、偵察行為を行うことは、そのまま国家の危機に直結する。また離島など日本の不動産を中国資本が購入する問題も発生しており(参考:拙稿「無人離島が危ない!虎視眈々と狙われる日本の安全と平和」https://news.yahoo.co.jp/byline/azumiakiko/20230216-00337402)、防衛の重要さがいっそう高まっている。

 自分の国は自分で守る―。そうした常識がどんどん広がっていくことこそ、最大の自衛といえるだろう。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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