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支持率低下の原因は「聞く力」の欠如か―長期政権を狙えるはずの岸田首相は、どこかでずっこける?

安積明子政治ジャーナリスト
似て非なる2人(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

国民は岸田政権を支持せず、解散を求めている

 「聞く力」を誇る岸田文雄首相は、果たして〝国民の声〟が聞こえているのだろうか。12月17・18日にANNが実施した世論調査では、7割以上の国民が解散総選挙を求めている。

 同じ時に実施された毎日新聞の世論調査では、内閣支持率はついに25%まで下落した。不支持率は69%で、2021年8月の菅内閣より3ポイント高い。自民党政権には支持率が高めに出るFNNと産経新聞の合同調査でさえ、7か月連続で政権発足以来最低を記録。不支持率は4か月にわたって、支持率を上回った。

 主な原因は、2027年度の防衛費を海上保安庁など関連予算と合わせてGDP比2%にするための増税だ。自民党税制調査会は12月16日、2022年度からの5年間で防衛費を43兆円まで増加させることを決定した。増加分については財政改革や決算余剰金、防衛力強化資金を充てようとしたが、それでも不足する約1兆円の財源として、法人税や復興特別所得税の一部取り崩し、及びたばこ税の増税を決定した。

 法人税増税については個人や中小企業に配慮して課税対象から外す予定だが、それでも家計への影響は免れない。そもそも法人税をアップして、賃金の上昇は見込めるのか。経団連の十倉雅和会長は19日の会見で、「(増税が)やや法人税に偏っている」と苦言を呈した。

法人税増税に経済界は反対
法人税増税に経済界は反対写真:つのだよしお/アフロ

 もっとも賃金上昇について、十倉会長は「諦めるというわけではない」とやや楽観気味だが、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事は「企業もいま一生懸命、賃上げを含め人への投資、設備投資に備えようとしている中で、水を差す結果になることはほぼ間違いない」と、政府与党に厳しく法人税課税の取り下げを要求。慎重にも慎重を期してほしいと懇願した。

増税を急いだのは政権延命のため

 こうした経済界の声に加えて自民党内の強い反対もあり、増税開始時期は「2024年度以降の適当な時期」とされ、明確にはされていない。しかし2025年7月に参議院、同年10月に衆議院が任期満了を迎えるため、岸田首相としてはこの時までに増税の影響を消したいはずで、そのタイミングで増税時期が決まるのではないか。

 とりあえず実施時期に先んじて増税自体を決めたのは、アメリカ対策のためだろう。岸田首相は来年1月に訪米の予定だが、トマホークの購入など防衛費はバイデン大統領への格好の〝お土産〟となる。そもそも岸田首相が「防衛費の相当の増額」を口にしたのは、バイデン大統領が来日した今年5月のことだった。

 日本の首相が長期政権を狙うなら、アメリカの助力が必須。過去にも中曽根康弘首相はレーガン大統領、小泉純一郎首相にはブッシュ・ジュニア大統領、そして安倍晋三首相にはトランプ大統領と、強力な自民党政権にはかならずアメリカ側に有力なパートナーがいた。

 岸田首相の頭の中には、1月の訪米の成果を5月の広島サミットの成功に繋げ、世界に岸田・バイデン関係をアピールする構想があるはずだ。そして来る2025年の〝国政選挙イヤー〟を乗り切るつもりだろう。

そうすれば次の「黄金の3年間」もその手に入る可能性がある。さらに2028年には岸田首相はまだ71歳で、菅義偉前首相が2020年に総理大臣に就任した時よりも若いのだ。

 岸田首相の何よりの強味は、現在のところ党内で有力なライバルがいないことだ。そしてこれに加えて、リベラルな立ち位置を基本としつつ、安倍元首相の国葬儀や防衛増税など保守的な課題にも取り組み、支持基盤を広げようとしつつある。まるで保守派だった安倍元首相が、社会福祉に大きくウイングを広げて旧民主党の政策を飲み込み、支持基盤を盤石にしたこととよく似ている。

 ただ異なる点は、肝心なところで安倍元首相は「世論」をうまく利用した。前回の衆議院選から2年もたたずして、2014年11月21日に衆議院を解散した。アベノミクスの是非と消費税を上げないことを国民に問うためだ。

安倍元首相は増税延期を民意に仰いだ

 竹下政権で始まった消費税は、1989年4月当初は税率が3%だった。それが橋本政権の1997年4月には5%になり、2014年4月からは8%となった。

 さらに2015年10月には消費税率が10%に引き上げられる予定だったが、安倍元首相は11月18日に18か月の先送りを宣言した。景気判断条項を利用し、17日に公表された7~9月期の実質GDPが2四半期連続でマイナスとなったことや、有識者による点検会合での意見を踏まえて判断したのだ。

 もちろん野党の準備不足に付け入る意図もあっただろう。また2012年の衆議院選での勝利体験から、「12月の選挙はツイている」と験を担いだのかもしれない。いずれにしろ、経済と選挙に関して、安倍元首相が鋭い感覚を持っていたことがわかる。自民党は4議席を減らしたものの291議席を獲得し、4議席を増やして35議席を獲得した公明党と合わせて、全議席の3分の2を占めることができたのだ。

2014年の衆議院選で読みが当たった
2014年の衆議院選で読みが当たった写真:アフロ

 なおこの時の安倍政権の内閣支持率は、どの調査でも不支持率を上回っていたが、現在の岸田政権はいずれの調査も不支持率が上回っている。低空飛行のままの政権が長く続いたことはない。そこで岸田首相は、民意の一新を図らなければならなくなる。

国民が求めるのは岸田首相の「聞く意欲」

 各世論調査は概ね、防衛力の装備については賛成が多く、増税について反対している。これはコロナ禍やウクライナ紛争で物価が高騰し、生活に苦しさが出ていることが原因だろう。

 岸田首相は12月に入り、10日と16日の2度会見を行った。国民への説明は十分尽くしたつもりだろう。しかし国民は自分が何をしてほしいのかを聞いてもらいたいのだ。その「声」を岸田首相の「耳」でひろいあげない限り、内閣支持率はまた下がるに違いない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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