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ついに宏池会所属の大臣も事実上の罷免へ 外遊中も岸田首相の憂いは消えず

安積明子政治ジャーナリスト
舌禍は命取り(写真:ロイター/アフロ)

口は災いの元

 “口は災いの元”というが、いま最もそれを痛感しているのが11月11日に法務大臣を辞任した葉梨康弘氏ではないだろうか。葉梨氏は11月9日に開かれた武井俊輔外務副大臣のパーティーで「法務大臣とは朝に死刑のハンコを押し、昼のニュースのトップになるという地味な役職」と述べたことが問題となり、その職を追われた。またこの時、「(法務省と外務省は)票とおカネに縁がない」とも語っていた。

 その発言はすぐさま官邸に伝わり、10日朝に松野博一官房長官が葉梨大臣を呼び出し注意した。葉梨大臣は記者団に対して「今後の発言には慎重を期す」と述べたが、発言撤回は否定するなど、強気の姿勢を見せている。

 しかし予定を1時間遅れて開始された参議院法務委員会では、葉梨大臣は一転して「死刑ハンコ発言」を撤回した。おそらくはこの発言だけ撤回すれば、問題は収束すると思ったのだろう。実際に永田町では、「葉梨大臣を罷免すれば、寺田稔総務大臣などのドミノ辞任に繋がってしまう」と、葉梨大臣の辞任を否定する声が多かった。

お荷物となった「婿殿たち」

 寺田大臣は総務大臣として政治資金を管轄するが、後援会の政治資金収支報告書で会計責任者に故人の名前を記載したり、事実上「追放」した年配の支援者の名前を後援会会長に記載するなど、虚偽記載が次々と発覚した。11月8日には600万円の借入金の記載ミスが報じられてもいる。

葉梨氏以上に更迭したい?
葉梨氏以上に更迭したい?写真:つのだよしお/アフロ

 それでも岸田文雄首相にとって寺田大臣を解任することは非常に難しい。寺田大臣は宏池会の始祖である故・池田勇人首相の義孫で、清和研で例えるなら「故・福田赳夫首相の孫の福田達夫氏を処分する」にほぼ等しいといえるだろう。

 葉梨氏も自治大臣を務めた故・葉梨信行氏の娘婿で、結婚と同時に養子縁組により葉梨姓を得て、2003年の衆議院選から茨城3区の地盤を受け継いだ。なお寺田大臣も葉梨氏も衆議院当選6回の初入閣組で、岸田首相の肝いり人事であることが伺える。

自民党内・公明党からも批判の声

 それゆえ葉梨大臣の「死刑ハンコ発言」について、党内からの批判はいっそう厳しかった。たとえば遠藤利明総務会長は10日に開かれた谷垣グループの会合で、「何をやっているんだろう」とまるで呆れ果てたように述べ、グループの領袖である谷垣禎一元法務大臣が真摯な態度で死刑の決裁を行っていたことを披歴した。実際に法務大臣時代に11件の死刑に執行命令を出した谷垣氏は、大臣室の引き出しに仏像と数珠を入れ、命令書に署名する際には数珠を持ち、手を合わせていた。

 連立を組む公明党からも、次々と苦言が出た。斉藤鉄夫国土交通大臣は10日の参議院国土交通委員会で、「命の重さと法の厳格さの象徴である法務大臣として覚悟に欠ける発言だ」と述べ、竹内譲中央幹事会長代理も「発言は慎重にしてもらいたい」と記者団に話している。

 そして11日に葉梨氏による「死刑ハンコ発言」は、この時に止まらず、何度も行われていたことが野党の追及で発覚した。これには国会では葉梨大臣の更迭を否定していた岸田首相も、さすがに庇いきれないと判断。ASEAN、G20、APECの各首脳会議に参加すべく、11日午後に日本を発つスケジュールを急遽変更し、夕方に葉梨氏の辞表を受理した。葉梨氏による自発的な辞任ではなく、10月24日に経済再生担当大臣を辞任した山際大志郎氏と同様に事実上の更迭であることは間違いない。

外交関係にも影響か?

 立憲民主党の安住淳国対委員長は,葉梨大臣の辞任報道を受けて「昨日の時点で更迭すべきだった」と述べたが、その理由として今回の騒動で国益を損なっているのではないかという懸念を挙げている。

「外務省から聞いている範囲では、明日土曜日(11月12日)には(コロナ禍のために)3年振りに開かれるASEANの首脳会議に出席して、ラオスやベトナムとの首脳会談をはじめ、様々な会談が設定されていた。今日の出発を見送って明日の出発に限りなく近くなれば、12日にセットしていた諸外国との重要な外交日程を全部飛ばすことになる。総理の決断が遅いことで、国会日程のみならず、外交日程にも影響を与えていることは、やはり総理の責任ではないか」

 そして当初の予定から遅れること約8時間。11月12日午前1時過ぎに岸田首相らを乗せた政府専用機はプノンペンに向かって羽田空港を出発した。19日までに予定される岸田首相の外交日程には、日米首脳会談や日韓首脳会談が組み込まれており、バンコクでは習近平主席との日中首脳会談も検討中だ。

 岸田首相が得意とする外交で、果たしてこの危機を払しょくできるのか。ちなみに この週末にはNHKの世論調査が予定されており、内閣支持率に葉梨大臣辞任が影響することは避けられないと見られている。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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