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「岡田立憲民主党」の誕生か?ー立憲民主党が「先祖返り」せざるをえなかったその理由

安積明子政治ジャーナリスト
「先祖返り」は苦渋の選択(写真:つのだよしお/アフロ)

「どう見ても岡田代表」

 立憲民主党の執行部が一新され、幹事長に岡田克也元副総理、政調会長に長妻昭元厚労大臣、国対委員長に安住淳元財務大臣が就任した。日本維新の会の松井一郎大阪市長が「どう見ても岡田代表だ」と述べた通り、民主党政権時の重鎮たちが中枢を占めている。

 そもそも昨年末の人事が間違っていたのだ。泉健太代表は代表選で戦った西村智奈美氏を幹事長、逢坂誠二氏を代表代行、小川淳也氏を政調会長に据えた。衆議院選で13議席を減らした責任をとって、枝野幸男代表(当時)が辞任した直後のことだ。敗戦とはみじめなものだ。だからこそ今年の参議院選に挑むために、「選挙に強い布陣」を敷かなくてはならないはずだった。

 ところが泉代表が行ったのは、代表選でのしこりを残さないように候補者全員に役職を付け、ジェンダー平等を実現するために役員の半数を女性にすることだった。党内融和を図り、独自カラーを出すためだったが、その構成では対外的に強い政党にはなれなかった。実際に今年の参議院選では立憲民主党は6議席減らし、比例区での得票数は日本維新の会より100万票以上も少なかった。力不足に加えて、参議院選を甘く見ていた証拠といえる。

 その反省ゆえに、この度の執行部はベテランを配した布陣となったのだろう。西村氏と逢坂氏は代表代行として残し、西村氏にはジェンダー平等担当推進本部長、逢坂氏には広報本部長を兼務させた。一方で人事刷新を求めた小川氏は放逐された。選挙直後の役員会での発言をすぐさまTwitterに書き込むなど、自分だけ目立つ「掟破り」をしたことが原因に相違ない。

岡田幹事長は芳野会長対策?

 泉代表が岡田幹事長を登用した理由は、主として長年の政治経験を党の再生に生かしてほしいということだろうが、そのひとつに連合対策もあったはずだ。なお芳野友子連合会長は8月25日の会見で、民進党代表時代に共産党との共闘を進めた岡田氏に懸念を示したが、そもそも非自民・非共産を厳格に貫けば先細りになるしかない。実際に参議院選では連合が応援した国民民主党は、比例区で現職を落選させ、同党推薦で東京都選挙区に出馬した荒木ちはる氏は、芳野氏も応援に入ったが、当選ラインにさえ及ばず惨敗している。

参議院選で小池知事と談笑する芳野会長
参議院選で小池知事と談笑する芳野会長写真:アフロ

 もちろん連合としても立憲民主党と絶縁するわけにはいかないが、芳野会長のカウンターパートナーが西村前幹事長ではより有効な関係を構築するに至らなかったことは明らかだ。女性同士ならむしろ、自民党の小渕優子組織運動本部長との相性が良好に見えていた。芳野氏と小渕氏は今年2月に会食したが、それが発覚した後に芳野氏は「あっち(自民党)が来ている」と言い訳した。もっとも自民党との関係が公になったことに、芳野氏はまんざらではなかっただろう。元連合大阪副会長の要宏輝氏は「現代の理論」で芳野氏を、「幸運にも組合出世コースにのったステレオ・タイプの反共かぶれの女性」「バックにシテ役が付き、首相官邸に通じる人物が仕切っていると思われる」と評している。

 要するに権威に弱いということだから、そういう意味では1990年の衆議院選から11回連続当選を果たし、イオンの創業者一族で民主党政権では要職を歴任し、民主党と民進党で代表を務めた岡田氏に対して、芳野会長はおざなりにはできるはずもない。

安住国対以外の選択はない

 さらに巧妙と思えた人事は、安住淳国対委員長の5度目の登板だ。8月26日午後に「戦う野党として巨大な自公と対峙していきたい」と記者団に語った安住氏は、すでにやる気満々の様子だ。野党共闘についても「政策テーマ別に国会内共闘はどことでもやる」と闘志をたぎらせている。馬淵澄夫前国対委員長が廃止した定期的な野党国対委員長会談が再開される可能性もある。与党に対抗するために、野党の一致結束を図る必要があるからだ。

 そもそも安住氏の真骨頂は強引に野党の主張を通すのではなく、与党の国対委員長とうまく駆け引きして双方の顔を立てることにある。たとえば2020年5月の検察庁法改正案だ。同法案は検察官の定年を他の国家公務員と同等に引き上げるものだったが、安倍政権が同年1月に黒川弘務東京高検検事長の定年を閣議決定で半年延長したことで世論の批判が強く、武田良太国家公務員制度担当大臣もうまく答弁できなかったために野党が反発。しかし安住氏が自民党の森山裕国対委員長(当時)と会談して、衆議院内閣委員会に森雅子法務大臣(当時)が出席することで合意した。

 このように見ていけば、立憲民主党が今回行った「先祖返り人事」は決して悪いものではない。また岸田政権の内閣支持率が暴落している今こそ、立憲民主党は頑張らなくてはならない。ただこういう時は奇をてらおうとしてはいけない。すぐに政党支持率の上昇には結びつかなくても、地道に実績を積み重ねていくことこそが、将来を開く鍵になるはずだ。国民は誠実な野党の出現を期待しているが、これが立憲民主党にとって最後のチャンスであるに違いない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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