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人気候補も日和れば後退?自民党総裁選はさっそく今から大波乱

安積明子政治ジャーナリスト
意外と苦戦?(写真:つのだよしお/アフロ)

意気揚々でスタートした岸田氏

 9月29日に投開票される自民党総裁選は、どんでん返しに次ぐどんでん返しになるのだろうか。最初に出馬表明した岸田文雄前政調会長は8月26日の会見で、「1期1年の党役員の任期を3期までに制限し、権力の集中と惰性を防止」と「政治とカネ問題について国民に丁寧に説明し、透明性を高める」 と主張。前者は5年間も自民党幹事長の座に座る二階俊博氏を当てこすったもので、菅義偉首相に二階斬りを決断させ、ついには総裁選出馬をも断念させた。

 後者は森友学園問題や加計学園問題、さらに桜を見る会では検察審査会から「不起訴不当」の議決を下された安倍晋三前首相への批判で、「弱い」と見なされていた岸田氏のイメージが払しょくされた瞬間だった。岸田氏は9月2日にTBSのBS番組に出演し、「国民が納得するまで説明を続ける」と明言した。

 その影響は大きく、共同通信社が4日と5日に実施した世論調査で、「次期首相に誰がふさわしいか」という問いに、31.9%の河野太郎ワクチン担当大臣、26.6%の石破茂元幹事長に続き、それまで下位だった岸田氏が18.8%と3位に躍り出た。同日に実施されたJNNの世論調査でも、岸田氏は河野、石破に次いで3位で、小泉進次郎環境大臣を上回っている。

安倍前首相の逆鱗に触れて……

 しかし6日に出演したネット番組で、岸田氏は「再調査をするとか、そういうことを申し上げているものではない」と一気にトーンダウン。4日に高市早苗前総務大臣への支援を表明した安倍前首相の顔色を窺う発言とされた。

 岸田氏は9月8日午前に政策発表の記者会見を開いたが、これもいまいちだった。「令和版所得倍増」や「デジタル田園都市構想」など、宏池会の大先輩である故・池田勇人元首相や故・大平正芳元首相の目玉政策の名前を並べたが、その中身はまるで広告代理店がにわかに作成したもののようで、かつて日本を大きく躍進させたオリジナル版とは差がありすぎる。

高市前総務大臣は無難にこなす

 一方で同日午後に出馬会見を開いた高市早苗前総務大臣は、応援議員を伴わずにひとりで挑んだ。アベノミクスをバージョンアップさせた「サナエノミクス」を提唱し、中国脅威論を主張して経済安全保障論を唱え、サイバーセキュリティについても熱く語った。サイバーセキュリティは2017年に総務大臣を退任した後、高市氏が「ライフワークとしたい」と述べたことがある。

 質疑応答も含めて会見は2時間に及んだ。国民の関心も高まりつつあるのだろう。総裁選に挑むに際して高市氏が記した近著「美しく、強く、成長する国へ。」は、Amazon総合で1位を占めている。

予想外に苦難する河野ワクチン担当大臣

 各世論調査で次の総理総裁として人気ナンバーワンの河野太郎ワクチン担当大臣は、ここに来て頭打ちになっている。「総裁選出馬を諦めた石破氏が河野氏の応援に付く」と噂されたが、それでは党内のアンチ石破の議員票が逃げてしまう。もっとも石破氏も、告示日までは様子見とも言われている。状況次第で自分にチャンスが巡ってこないとも限らない。

 また所属する麻生派の麻生太郎会長と何度も面会し、総裁選出馬は認められたが、派閥ごとの応援は得られていない。足元を固めずして漠然たる人気だけでは、確実な勝利は不可能だ。

過去の“ツケ”がまわって……

 さらにここに来て、これまでの「ツケ」が河野氏に跳ね返っている。Twitterで238万8695人ものフォロアー(9月9日午前0時現在)を持ち、抜群の発信力を誇る河野氏だが、それだけに誹謗中傷を含む煩わしいツイートを受けることも多く、かなりのアカウントをブロックしてきた。それが「政治家が国民をブロックするとは何事だ!」と政治姿勢についての批判を受けることになったのだ。

 また河野氏はかつて夫婦別姓に賛成し、原発問題について「核ゴミ問題を解決しないまま再稼働するのは無責任」と主張。さらに「男系で維持するにはリスクがある」と女系天皇を容認していた。

 しかし外務大臣に就任した2015年10月7日に、原発問題について書いたブログを削除し、長期的には原子力への依存度を下げるとした安倍前首相と「ベクトルとしては同じ方向を向いている」と言い訳した。

 そして8日には安倍前首相と面談した後、河野氏は記者団に「安全が確認された原発は、当面は使っていくということはある」と述べ、皇位継承についても「男系で続いてきているというのが、日本の天皇のあり方のひとつと思う」と語っている。

細田派は高市支持で決まりか?

 こうした河野氏の“すり寄り”にもかかわらず、同日午後に安倍前首相のもとに世耕弘成参議院幹事長と萩生田光一文科大臣が訪れ、それまで総裁選を静観していた細田派が高市氏を支持することで概ね合意した。96名の細田派が動けば、党内の影響は小さくない。昨年9月の総裁選を決したのは、47名の二階派だ。だが中には派閥の縛りを嫌う議員も存在する。安倍前首相のキングメーカーとしての手腕も問われることになる。

 総裁選まであと20日。その後に政権選択選挙である衆議院選が控えている。2021年の秋は、日本の政治の転換点となるに違いない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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