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【総裁選2021】菅首相失速!総裁選を前に、自民党は未曽有の混乱

安積明子政治ジャーナリスト
岸田氏は自民党を救えるのか?(写真:つのだよしお/アフロ)

総裁選の日程が決まった

 自民党総裁選管理委員会は8月26日、9月末で任期満了を迎える自民党総裁選を、9月17日告示・9月29日投開票の日程で行い、党員投票をも実施すると発表した。現総裁の菅義偉首相は「その時期が来たら出馬したい」と述べ、他に高市早苗前総務大臣や下村博文政調会長も出馬の意欲を見せている。そして岸田文雄元外務大臣は午後に会見を開き、次期総裁選に正式に出馬することを表明した。 

 岸田氏は昨年の総裁選では、最も影が薄かった。議員票こそ79票を得て2位となったが、都道府県票はかろうじて2桁の10票にすぎなかった。しかもその議員票は、「石破に負けてはならない」と他の派閥から回されたものだった。

 それゆえだろうか。総裁選が終わった後のぶら下がりでは、石破茂元幹事長が比較的簡単にインタビューを済ませたのに対し、岸田氏はそれよりも長く、かみしめるように敗戦の弁を述べていた。

それはおそらく、この時の総裁選で石破氏は党内の「鉄板の天井」を改めて認識し、一方で岸田氏は自分の力不足を痛感したからではなかったか。どちらがより悔しいかといえば、後者の方に決まっている。

岸田氏の大きな決断

 だからこそ、岸田氏は8月26日の出馬会見で次のように述べたのではなかったか。

「昨年の総裁選で敗北し、『岸田は終わった』との声が出た。その後、初心にかえって1年にわたり、国民の声を聞いた。それを野党時代から綴っているノートに書き入れているが、1年に3冊で30冊もある。私の大切な財産だ」

 故・中曽根康弘首相は若い頃から「首相になったら、実現すべきこと」をノートに書き綴り、膨大な量のノートと共に官邸入りした。それらが国鉄改革やNTT・専売公社の民営化などを実現することになったが、岸田氏は「私がやるべきことは、新しい選択肢を示すことだ」と主張する。

 では「新しい選択肢」とは何かというと、それは「政治の信頼を取り戻すこと」に尽きるのではないか。というのも岸田氏は、「比例区の定年73歳を堅持し、党の役員に中堅若手を抜擢し、1期1年で3期までとする」「政治とカネの問題は国民に丁寧に説明し、透明性を高める」を挙げている。前者は自民党幹事長に5年間も居座り、いまだその座を手放す様子を見せない二階俊博氏、後者は桜を見る会問題で検察審査会から「一部不起訴不当」議決を突き付けられ、2019年の参議院選では広島県選挙区から河井案里氏の擁立を決めた安倍晋三前首相へのアンチテーゼと解することができるのだ。

党内ではすでに負けムード

 実際に党内には「このままでは自民党は衆議院選でボロ負けする」と非常な危機感に満ちている。同日昼に開かれた二階派の会合では、菅首相に対する不満が噴出したという。さらに午後には派閥を超えて当選回数3回前後の若手有志が集まった。「青年局のメンバーの集まりという体裁だが、実際は反菅の集まりだ」と関係者は説明する。

 昨年の総裁選は派閥のパワーがものをいった。主要派閥が次々と菅氏を支持し、菅首相誕生への流れを作ってしまった。だが今回はかなり様子が違う。清和会の細田博之会長や近未来研究会の石原伸晃会長が菅支持を決したが、「派閥の意向はそうかもしれないが、個人の意向は別だ」と冷静に区別する議員は少なくない。

 党内の不信を増大させる原因のひとつが、自民党本部が行い、一部の幹部のみが数字を知る世論調査の結果だ。「8月21日と22日に行われた調査では、減少する議席数は50±10」と言われているが、「それは修正された数字で、実態はもっとひどい」という声も聞いた。まるで2009年夏の政権交代前夜のようにも思える。

ただしあの時は開票結果が出るまで、まさか自民党が下野するとは多くの人は思わなかったが、今は違う。今年7月の東京都議選では自民党は「50超議席は獲れる」と予想されたが、実際には33議席にとどまり、8月の横浜市長選では菅首相が応援した小此木八郎前国家公安委員長が当初は優位と思われたが、立憲民主党の推薦候補に18万票も差を付けられて敗退した。

そもそも菅政権が発足して以来、4月に行われた3つの国政選挙の補選・再選挙で与党は全敗。千葉県知事選や静岡県知事選でも負けているのだ。

これまでの驕りのツケが……

「悪夢の民主党政権」

2012年12月に民主党(当時)から政権を奪還した安倍前首相は、そう言い続けることで有権者の不満をそらし、その権力を盤石にした。しかし民主党は2016年に維新の党を吸収合併して民進党となり、その民進党の名称も2018年に消滅。そしてコロナ禍で、国民の不満は政府に向けられるようになった。その中にはもちろん、自民党長期政権への不満も存在する。だからなおさら、次期衆議院選は自民党にとって厳しいのだ。

「誰が総理総裁でも、自民党は厳しい。ならば次期総裁は菅首相で良いのではないか」

 党内にはこういった投げやりな意見もあるが、それでは日本のためにはならない。現在の野党には政権担当能力がなく、その気概もない。コロナ禍にあえぐ現在とそれ以上に大変な国際競争の波にもまれるポストコロナ社会において、もっとも重要なことは政治が安定し、かつ強いリーダーシップを発揮することだ。

 そのためには国民の信頼を取り戻すことが急務となる。そういう意味で、今回の自民党総裁選の責任は極めて重い。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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