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【野党合流】 いつか来た道、別々の道、そしていばらの道

安積明子政治ジャーナリスト
いよいよ国民民主党が解体される(写真:つのだよしお/アフロ)

小沢氏が両院議員総会に上機嫌で参加

「これじゃ、議員会館にいた方が良かったかなあ」

 8月19日の国民民主党の両院議員総会の会場となった都内ホテルに現れた小沢一郎氏は、カメラのフラッシュを浴びながら機嫌よくこう述べた。「珍しいな、いつもなら両院議員総会は欠席する小沢が来るなんて」とベテランの記者の声。13日に立憲民主党の枝野幸男代表と福山哲郎幹事長と会談した小沢氏は、いわば立憲民主党との合流劇での国民民主党側の主役といえる。合流新党結成に向けての小沢氏の並々ならぬ意気込みがうかがえた。

 今回の両院議員総会で議論されるのは、立憲民主党と国民民主党の幹事長と政調会長がとりまとめた「新党綱領案」「新党規約案」「新党党名代表選挙規定案」を踏まえた新党設立についてだ。立憲民主党はこれら3案について、すでに13日の両院議員懇談会で了承しており、国民民主党も了承する必要がある。しかし綱領案では原子力政策がネックとなる。国民民主党を支援する電力総連などにとって、「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現します」という文言は許せるものではない。両院議員総会を開く以前に、すでに強く反対する声が聞こえていた。

両院議員総会が静かだった理由

 よって紛糾するかと思われた両院議員総会だが、いたって静かな様子だった。閉じられたドアの隙間から時折、発言者の声が聞こえ、まばらな拍手の音が漏れてきた。理由はひとつ。玉木代表が11日の記者会見で表明した「分党案」をひとまず引っ込め、合流か分党かという“決”をとらずに曖昧にしたからだ。

 それは両院議員総会で配布された「提案事項」の文面でうかがえる。同事項には「新党結成に向けて、最後まで国民民主党全員での新党への参加の努力を続け」「全員参加が叶わない場合には、さらなる『大きな塊』に向け、円満かつ友好的に諸手続きが進むよう、その対応を代表・幹事長に一任する」と書いてある。後者が微妙な“抜け道”になっているが、「円満かつ友好的に」と“戒め”のようにわざわざ明記してあることも興味深い。これでは反対しようがない。

玉木代表の新党不参加の決意は固く

 ただ新党への玉木代表の不参加の意思は固く、両院議員総会後の記者会見でも改めて表明している。

「私は立憲民主党との新党には加わりません。これまで国民民主党の代表として、船長として、いまの日本に必要な政策提案型の改革中道のポジションをより明確にして仲間とともにこれからも訴えていきたい。コロナだけではなく、日本が直面する諸問題に堂々と向き合っていきたい」

 そのような玉木代表と同様に「新党に合流しない」と表明しているのは、前原誠司元民進党代表や古川元久愛知県連会長、そして山尾志桜里衆議院議員などごくわずか。しかし特に参議院では、けっこうな数の議員が新党の合流について慎重な姿勢を示している。

「我々は今日初めて説明を受けた。唐突感は否定できないというのが実際のところ。いま決断を迫るということに違和感がある」

 UAゼンセンの支持を受ける川合孝典参議院議員は、記者団にこう述べた。「応援していただいている組織にも、説明しなければならない。また東京都連会長として、都連のみなさんに説明する必要がある。持って帰って、これから検討したい」。

 そもそも選挙は多重の構造がある。国政にひとり送り出すためには、地方議員の応援の他、支持団体の支援も必要だ。多くの支援があればあるほど、「あちらに行く方が有利だ」と議員が安易に独断で判断できるものではない。

安易に「頭割り」とはいかない政治資金の分割

 政党が保有する政治資金も同じだ。国民民主党には現在、50億円から60億円ほどの資金が残っていると言われている。まるごと新党に移動するなら別だが、もし国民民主党が分かれた場合は、これを分割しなければならない。しかし単純に国会議員の「頭割り」とはいかないのだ。

 政党が活動するために必要な費用は、国政選挙の選挙資金に限らない。むしろ政党職員の人件費や総支部長の活動費など、日常的な政治活動に伴う費用が多くを占める。国民民主党を解体した場合、こうした費用の他、党員サポーターの会費の払い戻しなども考慮する必要があるだろう。

 最も重要なことは、民主党・民進党時代から党を支えてきた地方議員や地方組織の扱いだ。選挙で力の源泉となる地方議員や地方組織は、政治資金とともに立憲民主党が獲得したがっているものだ。

 しかしながら民進党が立憲民主党と国民民主党に分かれて約3年。その間に統一地方選も経験し、選挙の上での競合関係も生じてる。また三重県連のように、県内の所属の国会議員が不在にもかかわらず、「合流反対」を決したところもある。政党交付金の支給額は所属の国会議員の数によって決するが、分割に際しては同じようにはいかないのだ。

あえていばらの道へ

 9月上旬には合流問題を決着させたい野党だが、抱える課題は山積している。それを狙って、安倍晋三首相が解散を打ってくることも否定できない。実際に2017年には、民進党の混乱に乗じて衆議院が解散された。健康が懸念される安倍首相だが、政局の読みのセンスは抜群で他の追従を許さない。

 野党がそれに対峙しようとするには、自分の生き残りだけを考えるべきではない。国民の共感なく「大きな塊」は作ることはできないし、政権を獲ることはできない。だがそのためにはまだまだ厳しい道のりがあるようだ。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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