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【民主主義が危ない】党首討論が開かれないその理由

安積明子政治ジャーナリスト
第201回通常国会では党首討論はとうとう開かれなかった(写真:アフロ)

2000年の通常国会から始まった党首討論

「小渕総理に質問申し上げます。小渕総理、残念ながら今、日本の政治は不信の海の中にあります。嵐の中にあると言ってもいいんじゃないでしょうか。結局は『あなたは政治家なんですね』と言われた時に、それは決して残念ながら評価ではなくて、侮蔑であったり、蔑みであったりする。誠に残念な現象だと言わざるをえない。何でこのような不信の海の中に今、日本の政治はなければならないのか、簡潔にお答え願いたいと思います」

 第147回通常国会で始まった国家基本政策委員会合同審査会(党首討論)で、民主党の鳩山由紀夫代表(当時)が小渕恵三首相(当時)に対してこのように口火を切った。同審査会は内閣総理大臣と衆議院または参議院で所属議員を10名以上有する野党会派の党首が直接対面方式で討議するものだ。モデルとなったのはイギリス下院のクエスチョンタイムで、国会審議の活性化を図る目的で導入された国会改革のひとつである。

開催回数減少の一途の理由とは

 その党首討論が不当におざなりにされている。第147回通常国会では6回開かれたが、それを最高として開催回数は減少した。それでも2016年の第190回通常国会までは通常国会で1度は開かれたが、2017年の第193回通常国会ではついに開催されていない。

2018年の第196回通常国会では党首討論は2度開かれたが、本来意図された大局的観点からの議論とは言い難いものとなっている。5月30日の党首討論では立憲民主党の枝野幸男代表が森友・加計学園問題を質問し、安倍晋三首相は弁明に終始した。討論後に枝野代表は「いまの党首討論という制度の歴史的意味は終わった」と皮肉った。

 6月27日の党首討論では、枝野代表は森友・加計問題について7つの質問を立て続けに述べた上、最後に米軍F15戦闘機墜落事故に関して安倍首相の答弁と米軍の言い分が異なる点について「国会でまたウソをついたのか」と挑発。安倍首相は森友・加計問題を無視して最後の質問だけ回答し、「枝野代表が述べた通り、(党首討論の)歴史的な使命が終わってしまったと感じた」とやり返した。

 そのやりとりには小渕首相と鳩山代表が交わした第1回目の党首討論でのやりとりのような格調の高さは感じられない。これでは子供の喧嘩と大差ない。

党首討論の意味は健在

 そして党首討論はそれ以来、2019年の第198回通常国会で1度開かれた以外に開催されていない。安倍首相や枝野代表が言う通り、党首討論はもはや歴史的意味をなくしてしまったのか。

 いや、そうではないだろう。むしろ現在だからこそ、党首討論を開催する意味があるのではないか。鳩山内閣で官房副長官を務めた松井孝治慶應義塾大学教授はテレビの討論番組で、「コロナ禍で多忙な官僚が答弁を準備しなくてもいい党首討論」を推奨した。また本会議や委員会とは異なり、党首討論では総理側から質問を投げかけることができる。また国民が総理の発言に注目する度合いも低くない。むしろ党首討論の存在意義はより大きくなっているといえるのだ。

 しかし第201回通常国会も、とうとう党首討論が開かれずに閉会する。その理由は野党が党首討論の開催を求めないからだ。

合同審査会の会長は衆議院の国家基本政策委員長と参議院の国家基本政策委員長が交互に務めるが、今回は参議院の番に当たる。だが参議院では党首討論を開く気配がなかったのだ。

開催の鍵を握るのは野党

 ひとつは2月に与党側から、本年度予算が成立するまで開催を見送ることが提案されたことが原因だ。その後、コロナ禍でそれどころではなかったこともある。だが前述したように、立憲民主党は党首討論に消極的だ。参加する野党の数が多く、ひとりあたりの持ち時間が短いことも一因だろう。

 また予算委員会に総理が出席する場合に党首討論は開かれないが、参議院の立憲民主党が党首討論より予算委員会を重視する傾向にあるというのだ。さらには次のような声も聞こえてくる。

「予算委員会で質問するメンバーはほぼ固定している。もっとも美味しいポジションをキープするのは立憲民主党の蓮舫副代表だ」

 確かに野党筆頭理事を務める蓮舫氏は、予算委員会で質問するチャンスが多く、「公平さに欠く」との批判が会派内から出ることもしばしば。実際に国民民主党の舟山康江参議院国対委員長は3月11日の記者会見で、「他の野党に打診や相談がないまま、いつの間にか『筆頭間の協議が決まった』と進んでいるケースが何度かあった」と苦情を述べたこともある。舟山氏は、「蓮舫氏は『ほう・れん・そう』が足りない」とも言及。「ほう・れん・そう」とは、報告、連絡、相談を意味し、意思疎通ができていないことを意味する。

 そして党首討論開催を牛耳るのが立憲民主党の芝博一参議院国対委員長だが、これが蓮舫氏と同期で親しく、ともに2007年3月に故・松岡利勝元農水相の事務所におしかけ、事務所経費で購入したとされる「ナントカ還元水」を確認しようとしたことも。そして芝国対委員長は党首討論開催に積極的に動いた様子はない。

 20年前の党首討論で、民主党の鳩山代表は政治家の体たらくについて憂慮した。だが日本の政治はただ「不信の海の中」にあるどころか、どんどん沈みこんでいるとはいえまいか。

 

 

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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