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安倍政権で「桜を見る会」の参加者が急増したからくり

安積明子政治ジャーナリスト
桜を見る会では安倍首相は人気者(写真:Shutterstock/アフロ)

共産党の追及がきっかけに

 毎年4月に新宿御苑で開かれる総理大臣主催の「桜を見る会」が話題になっている。きっかけは、共産党の田村智子参議院議員が11月8日の参議院予算委員会で行った質問だ。田村議員は今年4月13日に開かれた「桜を見る会」で、安倍晋三首相や閣僚らが多数の地元後援会員を招待していたことを追及した。

「安倍総理の下で参加者数、支出額が年々増えています。2013年以前は資料がないということなので、2014年を見ると参加者1万3700人、支出額3005万円。予算の1.7倍です。ここから伸び続けて、今年は参加者1万8200人、支出額5520万円。予算の3倍を超えました。驚くのは予算の要求額ですね。先の国会で『予算とかけ離れている』と批判されたからなのか(たとえば2019年5月21日の衆議院財政金融委員会で共産党の宮本徹衆議院議員が質問している)、今年度の支出額を超えて、5730万円を要求しているわけなんです。総理、なぜこんなに参加者と支出額を増やしてきたんですか」

 田村議員の質問の通り、2014年時と比べて2019年の「桜を見る会」では、参加者数が33%、支出額に至っては84%も増えている。支出の内訳を見ると、会場設営等が929万円から2167万円と233%、飲食物提供費用は1432万円から2262万円と58%も増加している。

 そもそも総理大臣主催の「桜を見る会」とは、吉田茂首相の時代の1952年に始まったセレモニー。内閣の公式の行事として、文化、芸上、スポーツ、政界などの各界で功績や功労があった人を招き、総理大臣が慰労しながら懇談するというのが本来の目的だ。1995年の阪神大震災時と2011年の東日本大震災時、そして北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射すると宣言した2012年には中止されたため、今年で64回目となる。

参加者数は長らく1万人までだった

 では一体どれほどの人が「桜を見る会」に参加してきたのか。公式資料にはないが、過去の新聞を見ていくと、その数は政治的情勢とほぼリンクしていることがわかる。

 中曽根康弘首相時には概ね7000~8000人だった参加者数は、竹下登首相時代の1988年4月14日の「桜を見る会」でも7000人を維持。しかし翌年4月20日の「桜を見る会」では前年比1割減の6800人までに落ち込んだ。ちょうど4月1日から消費税3%がスタートしたばかりだった。

 海部内閣時の1990年4月18日の「桜を見る会」では、1万人に招待状が送付され、7000人が参加した。派閥の領袖ではない首相のせいか、参加者は後援会メンバーが目立ったという。それでも翌1991年4月10日の「桜を見る会」では、8000人が参加した。

 そして宮沢政権時の1992年4月15日の「桜を見る会」には、参加者は約1万人となった。翌1993年4月15日の参加者数が8700人に激減したのは、8月の政権交代の前兆だったかもしれない。

 細川政権時の1994年4月20日には7400人が出席したが、翌1995年の「桜を見る会」は1月に勃発した阪神淡路大震災のために中止された。そして橋本政権になった1996年4月10日の「桜を見る会」には、1万人が参加。1997年(4月16日開催)と1998年(4月18日開催)は8000人にとどまったが、小渕政権時の1999年4月17日の「桜を見る会」には1万1000人が駆けつけている。

 森政権時に開かれた2000年4月15日と2001年4月21日の「桜を見る会」には、それぞれ8500人と8000人。小泉政権時の2002年(4月20日)と2003年(4月19日)も参加者は8000人。ただし2004年4月17日の「桜を見る会」では8400人が参加し、小泉純一郎首相(当時)は本居宣長の「敷島の大和心を人問わば、朝日に匂う山桜花」の歌を披露。それは翌年の郵政選挙の圧勝を予期させるものだった。

 そして2005年4月9日の「桜を見る会」には8700人が参加したが、翌年4月15日の会には1万1000人が参加。小泉首相は安倍首相に“禅譲”して成立した第1次安倍政権時、2007年4月14日に開かれた「桜を見る会」には1万1000人が集まった。

 福田政権時の2008年4月12日には1万人、麻生政権時の2009年4月19日には 1万1000人が新宿御苑に駆けつけた。そして政権が交代し、鳩山政権で「桜を見る会」が開かれた2010年4月17日には、明け方まで雪が降る真冬並みの寒さのためか、参加者は1万人に減少している。

 2011年は東日本大震災のために会は中止。2012年は4月14日に開催を予定していたものの、北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射の予告(北朝鮮はIMOに12日から16日までの7時から正午までの間に発射予定と通告)を受けて再度中止された。

第2次安倍政権から参加者数は急上昇

 同年12月に民主党政権から自民党政権へと交代し、第2次安倍政権で初めて開かれた2013年4月20日の「桜を見る会」には1万人が駆けつけた。その後の「桜を見る会」の参加者数は増える一方で、2014年4月12日の「桜を見る会」では1万3200人で、今年はなんと1万8200人に至ったのだ。

 参加者総数が増加したのは、招待者数が増えたからだ。それまで1万人程度だったが、2014年は1万2800人が招待され、2019年には1万5400人に招待状が送られた。また招待者の配偶者なら「桜を見る会」に参加することができるが、2014年には900人の配偶者が参加したのに対し、2019年にはその3倍強の2800人も参加したことになる。

 こうしたことがコストの急増をもたらしたが、予算は2014年から1766万6000円と変わらなかった。さすがに2020年度の概算要求では5728万8000円が計上されたが、このままではさらに膨らんでいくに違いない。

緩すぎる招待客の選考基準

 これについて菅義偉内閣官房長官は11月11日の会見で、「招待者数は内閣官房や内閣府で検討すると思う」と述べたが、選定基準は明らかにされていない。12日に開かれた野党ヒアリングでも、参加者名簿は明らかにされなかった。ひとつは個人情報の保護のためだが、もうひとつは案内送付については保存期間が「1年未満」とされているため、「すでに破棄した」とのことだった。

 だがこの問題の本質は、選考基準そのものにある。参加者が増加すれば、テロ対策や混雑緩和のための経費、および飲食代も嵩んでくる。毎年同じ予算を計上しているのなら、参加者を減らすように努力すべきだろう。実際に2018年に送付された招待状の数は1万5900通だったが、2019年は1万5400通に減らされている。

 ところが参加者総数は700名も増加した。配偶者を同伴した参加者が増加したためだが、果たしてきちんと身分確認は行われたのか。安倍首相の後援会には新宿御苑へ入園の際に特別な扱いがあったと聞くが、それでテロ対策など警備は大丈夫なのか。

桜を見る人のいない「桜を見る会」

 そもそも参加者の選考に際し、政治家からのごり押しはなかったのか。開催要領に外れる招待客はいなかったのか。政治とは無関係の安倍昭恵夫人の知人が招待されたとSNSで発信していたが、なぜ閣議決定で私人とされた昭恵夫人の関係者枠が設けられたのか。疑問は多々ある。

「一番の問題は“桜を見る会”なのに、誰も桜を見ていないことです」

 国民民主党の玉木雄一郎代表は12日午後、ため息をついてこう述べた。四季の移ろいを惜しみつつ愉しみ、そうした豊かな自然の下で様々な分野の才能が交流し、親交を温める――。本来の桜を見る会や園遊会などは、そうしたことを目的としたはずだ。にもかかわらず、公的セレモニーの名前の下でオトモダチを呼んで飲ませて食わせて有名人と写真を撮らせる単なる“お遊び”では、文化を知る国民なら納得できるはずがない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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