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【内閣改造】安倍首相がお友達を大量抜擢した本当の理由

安積明子政治ジャーナリスト
外相から防衛相に横滑りの河野太郎氏(写真:ロイター/アフロ)

改造内閣がスタートした

 第4次安倍再改造内閣が9月11日にスタートした。麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官は留任で、茂木敏充外相と河野太郎防衛相はそれぞれ経済再生担当相と外相からの横滑り。高市早苗総務相と加藤勝信厚労相は再入閣で、その他の13大臣が初入閣という布陣だ。

「7年目の政権にネタ切れ感」

 これは朝日新聞が内閣改造についてネットにアップした記事に付けたタイトルだ。しかしネタ切れ感どころか、明らかに目指す方向性が見える内閣といえる。

まずは身内でがっしりと固めた

 それは「信頼できる身内」で固めたことが大きいだろう。まずは「総裁選で安倍さんに投票したい」と2011年に町村派を離脱した高市総務相。安倍首相も政権復帰後に高市氏を政調会長や総務大臣に抜擢し、衆議院で議長、副議長に次ぐ議院運営委員長に抜擢。総務大臣として最長在任記録を持つ高市総務相は、再任によりさらにその記録を伸ばすことになる。

 総裁派閥である細田派からは、萩生田光一文科相、西村康稔経済再生担当相と橋本聖子五輪担当相の3名が起用された。東京オリンピックの来年開催を控え、7度のオリンピックを経験した橋本五輪担当相はシンボルのような存在で、欠かすことはできない。

萩生田文科相は安倍首相の側近中の側近と言われ、安倍首相がアメリカ留学時代に知り合った加計学園の加計孝太郎氏とも親交がある。2013年5月にはともに山梨県にある安倍首相の別荘でバーべーキューパーティーを楽しみ、その写真をSNSにアップした。

 さらには萩生田氏は落選時、加計学園が経営する千葉科学大学の客員教授として禄を食んだことも。今年4月にはネット番組で消費税延期論を口にして解散騒ぎを起こしたが、「安倍首相に代わって観測気球を上げた」というのが多数の見方だ。

 福田改造内閣と麻生内閣では文科大臣政務官を務めたものの、教育問題に強いというイメージがあまりない。思想信条が安倍首相と非常に近いゆえに、安倍首相の意のままの文科行政になることが想定されるが、だからこそ文科相に抜擢されたのではないか。

 その萩生田文科相に密かにライバル心を燃やしていると言われているのが、官房副長官として2年半、安倍政権を支えてきた西村康稔経済再生担当相だ。灘高から東大へ進んだ旧通産官僚というキャリアゆえに政策に通じているのが強みで、「危機管理の専門家」を自負していた。しかし昨年7月に西日本に甚大な被害を出した豪雨の中、安倍首相を交えた「赤坂自民亭」の宴会の様子をSNSにアップするという失態を演じている。

 だがそれも、安倍首相への忠誠心から先走ったものともいえるだろう。なお副長官時代には、外国人在留資格を巡る口利き疑惑の渦中にあって謹慎中の上野宏史前厚労政務官との連絡役なども担当。きめ細かい仕事ぶりが評価された結果の初入閣と思われる。

外相に横滑りしたタフネゴシエーター

 西村大臣の前任者である茂木外相は、TPP11を主導してアメリカから「タフネゴシエーター」と称されたが、強者として知られるUSTRのライトハイザー代表と交渉し、困難と言われた食肉や自動車などを巡る日米貿易交渉で大枠で合意した。

「日米双方ウインウインとなる協定に仕上げたい」

 11日夜に官邸で開かれた会見で、茂木外相は並々ならぬ意欲を見せた。その一方で半導体原料の輸出管理優遇措置撤廃をきっかけに戦後最悪になったと言われる日韓関係については、その後で外務省で開かれた会見で「意思疎通をしていく」とそっけなかった。

「これまで通り、韓国には国と国の約束を守っていただきたい」

 11日に官邸で開かれた会見で、安倍首相は“元徴用工判決”問題についてこう述べている。日韓両国に根深く存在するのは、こうした歴史認識問題だ。だが日本政府は現在紛糾している半導体原料の輸出管理優遇措置撤廃問題はこれとは別物と位置付けている。にもかかわらず、韓国政府は全てをひとつの問題としてしまい、GSOMIA破棄決定という安全保障問題に拡大させた。

 これは日米韓の“軍事同盟”の一翼を崩すもので、いまだ休戦状態にすぎない朝鮮半島を不安定化しかねない。実際に駐韓中国大使は「安倍首相は歴史問題を理由に経済制裁を加えても成功しない」などと韓国の反日感情を煽っている。

菅長官が河野防衛相と菅原経産相の手綱を握る

 そういう意味で外相から横滑りした河野防衛相の人事は、韓国に強いメッセージを送ることになる。河野氏を内閣に残すことで日本の主張が従来と変わらないことを主張するとともに、防衛相というポストが韓国によるGSOMIA破棄決定についていっそう強く異議を示すことになるからだ。

 貿易を管轄する経産相には経産副大臣を務めたことがある菅原一秀氏が就任した。菅原大臣は衆議院議院運営委員会筆頭理事や自民党国対筆頭副委員長を務め、交渉能力に定評がある。また菅原経産相は菅長官の側近で、河野防衛相の能力を買っているも菅長官。ちなみにこの度の内閣改造で初入閣した小泉進次郎環境相も、同じ自民党神奈川県連に所属ということで菅長官は目をかけている。すなわち韓国問題は、政権のトップクラスが複数の手綱をとって多層的に取り組んでいる最高レベルの問題ということになる。

なによりも大事なのは「敵に勝つ」こと

 今回の内閣改造には野党から、「国民不在のお友達側近内閣」(立憲民主党の福山哲郎幹事長)や「お友達総ざらい内閣」(日本共産党の小池晃書記局長)といった批判が出ている。確かに既出のメンバー以外にも、衛藤晟一1億総活躍担当相は従来から安倍首相に近く、河井克行法相は“特使”として当選したばかりのトランプ大統領の元を訪れて安倍・トランプ関係の基礎作りに寄与した。加藤勝信厚労相に至っては安倍家とは家族ぐるみの付き合いで、義母と安倍首相の母の洋子氏が大の仲良し。加藤氏のパーティーには洋子氏が出席している。

 しかしながら人材の配置などを見ると、仲間同士のなれ合いというよりも、“敵”を迎え討とうとしている印象が強い。最も大事なのは闘いに勝つことだ。次のターゲットは憲法改正になるのか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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