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日本中を飛び回る菅官房長官が東京駅前で訴えたもの

安積明子政治ジャーナリスト
参議院選で応援演説をする菅義偉官房長官(写真:YUTAKA/アフロ)

選挙応援で飛び回る

 70歳という年齢にもかかわらず、菅義偉官房長官は参議院選の応援に大忙しだ。公示日の7月4日と翌5日には優勢が伝えられる丸川珠代氏(東京都選挙区)と島村大氏(神奈川県選挙区)を応援した。7日は山形入りして劣勢が伝えられる大沼みずほ氏の街宣に参加し、8日には「当落線上にある」武見敬三氏の応援で新橋駅前でマイクを握っている。

 9日には大分で接戦の磯崎陽輔氏を応援して10日午後から仙台に入り、翌日もそのまま仙台を回る。まさに多忙を極める菅長官だが、その合間を縫うように10日正午をやや過ぎて東京駅前にやってきた。

東京駅前で地方創生を訴える

「自民党全国比例区、丸山和也さん。和也さんに当選させていただきたい。その思いで皆さんのところにやってまいりました、内閣官房長官の菅義偉です。どうか宜しくお願いを申し上げます」

 現在では“KITTE前”と称する旧東京中央郵便局舎前で、菅長官は3期目を目指す丸山氏のためにマイクを握った。道路を挟んで東京駅側にも聴衆は集まった。全部で200人程度だろうか。安倍首相の演説とは異なり、プラカードを掲げた「あんな人たち」もいなかった。

「私たち安倍政権、発足して6年と半年が過ぎました。最優先したのは経済の再生です。経済が強くなければみなさんにとって重要な年金、医療、介護など社会保障を充実させることもできないし、経済が強くなければ確かな外交安全保障を推進することもできません。財政再建も実現できないわけです」

「政権交代前の状況をほんの少し思い浮かべて下さい。当時は円高で為替は80円前後、株安で8000円前後でした。デフレの状況の中で、働きたいけれど仕事がなかったんです。日本で経済活動を行って利益を得る状況になっていなかった。ですから経済最優先で取り組んだ」

 菅長官は雇用状況の向上を果たし、「デフレではない状況」を作ったことを主張した。とりわけ強調したのは地方創生だ。

「私も秋田の長男坊ですから、農業に思い入れがあります」

 東京駅は東海道・山陽新幹線の他、東北・山形・秋田・北海道・上越・北陸新幹線のターミナル。宇都宮や高崎、水戸への在来線なども通っていることも意識したのだろう、

「今年になって27年ぶりに地方の地価が上昇した」

 今年1月1日時点の公示地価は4年連続で上昇し、ピーク時の1991年から4割程度まで戻している。中でも注目は、地方圏の住宅地の価格が27年振りに上昇したこと。インバウンドや人手不足による雇用環境の改善が功を奏した結果ということになる。

あの“天敵”がやってきた

 このようにアベノミクスの成功をアピールする菅長官を、じっと見守る目があった。官邸内での記者会見をめぐって菅長官と“バトル”を演じている東京新聞の望月衣塑子記者だ。

 菅長官が到着する前にキャリーバッグを引きずりながらKITTE前に現れた望月記者は、東京駅方面からやってきた若いカメラマンと合流。2人で菅長官の演説の様子をカメラに収めていた。

 菅長官がそれに気づいていたのかはわからない。だが道路を挟んで、2人の顔が向かい合った瞬間があった。望月氏は菅長官を撮影していた携帯を下ろし、演説に聞き入っていたように見えた。

 総務大臣の経験を持つ菅長官は、自身の発案である携帯電話の解約違約金大幅引き下げの改革案などを訴えた。最後に「令和」を公表した官房長官としてその由来を語り、丸山氏への投票を呼び掛けた。

自民党が苦戦する宮城へ

 時間にしてわずか15分の演説を終えると菅長官は街宣車を降り、SPやスタッフらを率いて東京駅に向かっていった。向かう仙台には比例区で出馬する和田政宗氏や宮城県選挙区で4期目に挑戦する愛知治郎氏がいる。愛知氏の祖父は自民党の創設メンバーのひとりで、大蔵大臣や官房長官、文部大臣などを歴任した故・愛知揆一氏で、父親は防衛庁長官や環境庁長官を務めた愛知和男氏。しかしその威光はすでになく、今回は苦戦を強いられている。

 果たして菅長官の応援で、愛知氏らは苦境から脱せられるのか。菅長官にとってこの夏は、「ポスト安倍」の力量が試されている。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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