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【れいわ新選組】比例区転出を決断した山本太郎が狙うもの

安積明子政治ジャーナリスト
初出馬時の山本氏。「たったひとりの闘い」だったが……(写真:アフロ)

山本太郎が勝負をかけた!

 山本太郎氏がまさに勝負をかけてきた。自身は東京選挙区からは出馬せず、比例区から出馬するが、特定枠(2議席)は難病ALS患者の船後靖彦氏と脳性マヒで重度障碍者の木村英子氏にあてがうと公表した。

「6年前と同じ闘いをするつもりはさらさらない」

 山本氏はきっぱりと言い放つ。確かに2013年の参議院選は「たったひとりの闘い」だった。社民党や新社会党などの支援を受けたものの、大きな支持団体を持たなかったため、当初はせいぜい当落線の上にあったのだ。山本氏と同じく原発反対を公約を主張した日本共産党は、就職氷河期世代の吉良佳子氏を擁立。その名前をもじって「キラキラトーク」を開催し、“アイドル路線”でブラック企業に苦しむ若者に大きくアピールし、反自民票をめぐって山本氏の強力なライバルといえた。

 山本氏が伸びてきたのは選挙戦が始まって以降だ。新宿や銀座の歩行者天国で「桃太郎」を行うと、聴衆がぞろぞろ付いてきた。途中で演説を行い、寄付を集めた。その結果、66万6684票を獲得し、東京都選挙区の5議席中の4位で当選している。

 この時、筆者は民主党本部のホールで選挙報道を見ていたが、山本氏の当確が報じられると記者団からどよめきが起こった。民主党は候補を鈴木寛元文科副大臣1人に絞ったものの、議席を失っている。

 いまでは東京選挙区の定数は6議席で、2選目を狙う山本氏の議席獲得はほぼ確実。その勢いで比例区での拡大をも狙うだろうと思われたのだが……。

東京選挙区には沖縄創価学会壮年部メンバー

 ところが7月3日夜に都内で開かれた「ボランティアの集い」で発表された東京選挙区の候補は野原善正氏。野原氏は沖縄創価学会壮年部のメンバーで、昨年9月の沖縄県知事選では公明党が推薦した佐喜眞淳氏ではなく、玉城デニー氏を応援した。いわば「創価学会の中の異分子」と言える。

 野原氏が訴えるのは、基地問題と創価学会だ。「沖縄の現状を真剣に考える時が来ているのではないか、全国が自分の痛みとして応分の痛みを感じてほしい」と述べ、「創価(学会)の変革。立党以来、平和と福祉を掲げてきた公明党が、自民党と一緒になって暴走している。絶対に止めないといけない」と主張した。

 だがそれらは東京で有権者の支持を広く得られるものなのか。強固なヒエラルキー組織である創価学会が、一会員で変わるとは考えられない。そもそも6年前に山本氏が獲得した66万票余りが、ほとんど名前が知られていない野原氏にそのまま入るのか。

政党交付金受給要件を満たすため

 しかし山本氏の決断にも根拠がないわけではない。「れいわ新選組」が政党交付金を受けるためには、5人以上の国会議員を擁するか、過去の国政選挙で全国を通じた得票率が2%以上にならないといけないのだ。

 それには山本氏が東京都選挙区から出馬しては限界がある。山本氏はこう述べた。

「4月10日に始まった『れいわ新選組』は浸透していない。それ以上に浸透していたのは『山本太郎』しかなかった」

 自分が比例区に出馬して全国行脚し、全体の票数を押し上げる。目標は東京都選挙区で1議席、比例区で4議席の合計5議席だ。

現実は厳しく……

 しかし比例区特定枠を使えば、山本氏は必然的に3位以下になる。当選するためには300万票近く獲得しなければならないが、達成できるかどうかはわからない。

 そもそも短期間の準備のための人材難は否めない。比例区候補の渡辺照子氏は前日に出馬を打診されたというから、人数を揃えるにあたっていかに慌ただしいものだったのかが伺える。

 だが山本氏なりの戦略はあるはずだ。その視野には2021年10月までに行われる次期衆議院選も入っているだろう。

 ピンク色の「れいわ新選組」のパンフレットの表紙には、「山本太郎が総理大臣だったら何をする?」と書かれている。街宣でも「私を総理大臣にしてください」と聴衆に訴えた。天下を獲るとするのなら、衆議院選を考えるのが本筋だ。

 果たして山本氏の目論見は当たるのか。なお幸福の女神はいつも気まぐれで、常に微笑むとは限らない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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