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【老後2000万円問題】1年ぶりの党首討論で話し合われたこと

安積明子政治ジャーナリスト
報告書拒否についての説明がない(写真:つのだよしお/アフロ)

年金問題ほぼ一色

 前回の開催が昨年6月27日だから、およそ1年ぶりということになる。国家基本政策委員会合同審査会(党首討論)が6月19日午後に開かれた。

 惜しむらくは、議論がほぼ年金問題に終始してしまったことだ。外交防衛や通商問題など、重要な国政事項は他にも多々ある。それにはいかんせん、党首討論が開かれる回数も時間も少なすぎる。あてがわれた時間は立憲民主党の枝野幸男代表が20分で国民民主党の玉木雄一郎代表が14分、日本共産党の志位和夫委員長と日本維新の会の片山虎之助共同代表に至っては5分30秒に過ぎない。

 しかもこれらは「往復」(質疑と答弁)で、前回の党首討論では安倍・枝野が4往復、安倍・大塚が3往復半、安倍・志位が2往復半、安倍・片山が2往復半、安倍・岡田が3往復で、今回は安倍・枝野が4往復、安倍・玉木が2往復半、安倍・志位が1往復半、安倍・片山が4往復半。相変わらず議論を深めることはなかなか難しい構成だ。

 実際に議論がかみ合わなかった場面も見受けられた。

噛み合わない議論

「今回の2000万円報告書を『存在しない』とか『受け取らない』とかというそういう弥縫策ではなくて、きちんとひとつの試算ではこういうこともある、そうした場合に自分の力だけではなかなか2000万円のような規模では貯蓄はできないと不安を持っていらっしゃる皆さんたちに正面から向き合うということ、それが政府に求められる姿勢ではないか」

 立憲民主党の枝野代表がこのように問い詰めるのに対し、安倍晋三首相は次のように答えている。

「先般の金融庁のWGの報告書の問題点は何かということでありまして、枝野委員もすでに指摘されたように、平均値で見るのがいいのかということでございまして、ここに大きな問題点があったわけでありまして……」

 しかしながらすでに多くの金融機関が「老後にまとまった資金が必要」と、顧客に投資を煽っている。95歳まで生きるとして「年金の不足分は2000万円」とした金融庁のWGの報告書の数字はむしろ低い方だ。しかも枝野代表が問題としているのは数字ではなく、政府の姿勢だ。安倍首相の答弁からは、それは見えてこなかった。

アベノミクスは失敗?

 一方で安倍首相は、民主党政権時との相違を強調。安倍政権になって経済が大きく好転したと主張する。

「この6年間で380万人が新たに働き始めた。正社員においても150万人増えました」

 枝野代表に対してこのように誇らしく話しているが、非正規雇用が増大していることに他ならない。要するに格差社会が深化しているのだ。

 その実態を指摘したのが、次に登壇した国民民主党の玉木代表だ。

「新しい財政検証の前提となる経済前提は3月に発表されています。それを見ると5年前の経済前提がいかに楽観的で崩れまくっているのかが明らかになっています。いくつか言いましょう。前の財政検証の最悪のケースでは、実質賃金の伸びは0.7%でセットされていました。今回出てくるのは最悪で0.4です。ただ安倍政権の過去6年間の実質賃金の伸びの平均値は-0.6です」

 そして全要素生産性は5年前は最悪のケースで0.5%であったが、3月に発表された数字は最悪のケースで0.3%に減少したこと、そしてこのままさらに17年たてば、所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金の給付水準の割合)が50%に達し、36年後に積立金が枯渇してしまうと訴えた。

「全然『100年安心』じゃないじゃないですか。さらにこれより3月の経済前提の数字は悪かった。だれも『安心だ』とは言えない。確証もない。それでは年金制度の信頼は得られない」

 解散を懸念してやや抑え気味だった枝野代表に比べ、玉木代表の質問は攻めに突き進んだものだった。財務官僚出身らしく、数字に強いところを見せたかったのかもしれない。いずれにしろ具体的に反論できないところが、「私は滅多に激怒しない」と述べたばかりの安倍首相を怒らせた。

「この議論でですね。大変残念なのは、先ほどの党首の議論ですね、年金の積立金が枯渇するという時、拍手が起こったことであります。そういう議論はすべきでないですし、テレビを見ている方がおられるわけですし……」

 すでに日本共産党の志位委員長の質問時間になっていたが、安倍首相はこう述べて玉木代表を批判した。しかし積立金の枯渇の話の時には驚愕の声は上がったものの、拍手の音はなかったのだ。

与野党とも本当は解散したくない?

 最後に登壇した日本維新の会の片山共同代表は安倍首相に、「解散するんですか」と斬り込んだ。そして報告書を受け取らない政府与党に一応の苦言を述べた後、「年金について野党は非難するだけではダメ」と野党ならぬ“ゆ党”らしい行司のように発言した。

 なお党首討論の後、それまで「参議院選に臨むわけだから、参議院の問責が適当」としてきた枝野代表が、衆議院内閣不信任案提出を示唆し始めた。さすがに野党第一党として、ひるんでばかりはいられないと思ったのだろう。会期末まであと1週間を残すのみだが、何がきっかけでまた解散風が吹かないとも限らない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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