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永田町に流れる6月30日の衆参ダブル選挙説

安積明子政治ジャーナリスト
前回消費税率引き上げ凍結を表明した時の安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

萩生田発言は代弁なのか、忖度なのか

「6月の数字(日銀短観)をよく見て、本当にこの先危ないぞというところが見えてきたら、崖に向かってみんなを連れていくわけにはいかないので、そこはまた違う展開があると思う」

「(消費税増税を)止めるとなれば、国民の皆さんの了解を得なければならないから、信を問うということになる」

 自民党の萩生田光一幹事長代行が4月18日に出演した番組で述べた言葉が「解散を示唆したもの」として波紋を呼んでいる。萩生田氏は自他とも認める安倍晋三首相の側近だ。10月に予定されている消費税10%増税の凍結を示唆したその言葉は、安倍首相の意向を反映したものに違いない。さもなくば「忖度」として大問題になってしまう。

 さっそく永田町には衝撃が走り、早期解散説がささやかれた。中でも参議院選を前倒しにして衆参同日選挙とし、6月30日投開票とする説が最有力として浮上している。

6月30日投開票日説の根拠

 なぜ6月30日なのか。その前日と前々日には大阪でG20サミット が開催されるが、国際的に重要な行事の直後に投開票日を設定するのは異例中の異例といえる。しかしこの日こそ、安倍首相のパワーをもっとも発揮できる日ということもできる。ある関係者はこう述べる。

「G20には中国の習近平国家主席が出席する。国家主席の来日は2010年の胡錦涛氏以来のこと。いま最も良いと言われている中国との関係を、内外ともにアピールできる」

 アメリカのトランプ大統領の来日も控えている。トランプ大統領は5月25日から28日まで国賓として日本に滞在し、新天皇に即位された皇太子殿下に初めて謁見する外国首脳となる予定だ。大相撲観戦への招待も検討されており、千秋楽に安倍首相がともに観戦すれば、大いに盛り上がるに違いない。

 またトランプ大統領はG20にも来日するが、この時に米中首脳会談が実現するかもしれない。相次ぐ制裁関税を巡って関係悪化の米中関係だが、USTRのライトハイザー代表は4月29日の週に北京を訪問し、その翌週に中国の劉鶴副首相が訪米する予定で、中国としてはトランプ大統領の来日に合わせて5月下旬の米中首脳会談を実現させたいという意向だが、G20での会談という可能性もある。そうなればまさに「外交の安倍」の面目躍如で、外交こそが最強の選挙運動になるというわけだ。

早期解散衆参同日選で野党はいちころか

さらに6月30日投開票ということになると、準備不足の野党の不意を突くことができる。というのも、次期参議院選をめぐってすら、野党の足並みはそろっていないからだ。たとえば岩手県選挙区では、共産党・自由党・社民党が統一候補として元パラリンピック選手の横沢高徳氏を決定した。しかし「勝てる候補」として黄川田徹元副復興相の擁立を求める国民民主党の意向を受けた自由党の小沢一郎共同代表は、候補の再調整を提案。その背景に、自由党との合流に難色を示す国民民主党岩手県連の階猛代表代行を懐柔しようという小沢氏の思惑が見てとれる。だが共産党と社民党はこれを拒否したため、再調整は難航している。

ましてやより選挙区の多い衆議院選では、候補者調整どころかいまだ野党の候補が立てられていないところも多数。衆参同一選挙になれば、野党は自ら壊滅することになってしまいかねない。

しかも参議院選の公約作成すら追い付いていない。立憲民主党の関係者はため息をつく。

「立憲民主党の公約は6月中旬をめどに策定中。このような状態で参議院選を前倒しにして解散を打たれてはたまらない」

 また「だから野党共闘を急ぐべきだった」と、なかなか選挙協力に取り組まなかった立憲民主党の枝野幸男代表への批判の声も聞かれた。

 とはいえ、政府与党は消費税引き上げ凍結と早期解散説に否定的だ。菅義偉官房長官は18日午後の会見で「リーマンショック級の出来事が起こらない限り、法律で定められた通り、(消費税率は)本年10月に10%に引き上げる予定であり、予定通りに引き上げられるように経済運営に万全を期していきたい」と明言。また茂木敏充経済再生担当相も18日の会見で、10月に消費税率を10%に引き上げる予定に変更がないことを述べている。

もっとも解散や人事は話題になれば消えるのが永田町の常で、大阪12区と沖縄3区の衆議院補選で自民党候補の苦戦が伝わっている今、どちらに風が吹くかはわからない。ただ前回の解散は絶妙なタイミングで打たれており、それが自民党に勝利をもたらしたという事実を野党は肝に銘じるべきだろう。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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