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【米朝首脳会談】 拉致問題がなかなか進展しないその理由

安積明子政治ジャーナリスト
ベトナム・ハノイでも、彼らは笑顔で握手できるのか(写真:ロイター/アフロ)

トランプ頼みの拉致問題

 アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長が2月27日と28日、ベトナム・ハノイで会談する。昨年6月のシンガポール会談に続き、2人が会うのは2回目だ。

 それに先立ち安倍晋三首相は2月20日夜、トランプ大統領と電話で約30分間話し合った。

「核・ミサイル問題、そして拉致問題の解決に向けて、日米であらゆるレベルで連携していくことで一致したが、特に拉致問題についてより時間をかけてしっかりとお話した」

 電話会談の後、記者団に囲まれて安倍首相はこのように力説した。

 その前日の19日には安倍首相は拉致被害者家族と官邸で面談し、「あらゆるチャンスを逃さないとの考えの上で、この問題を解決に向けて取り組んでいきたいと考えている」と約束した。

金正恩委員長宛ての奇妙なメッセージとは

 なお家族会は救う会との連名で、2月17日に初めて金正恩委員長へのメッセージを発表した。その中の一文で、奇妙なものがある。

「全拉致被害者の一括帰国が実現するのであれば、私たちは帰ってきた被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対する意思はありません」

 拉致被害家族が願うのはただ北朝鮮に連れ去られた肉親が戻って来ることのみであるはずで、わざわざ「被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対する意思はありません」と断る必要があるのだろうか。なぜ「国交正常化」の文言が入ったのか。また「拉致被害者から秘密を聞き出して」という意味は何なのか。見えてくるのは安倍首相の北朝鮮政策の変化だ。

 今年1月28日に行われた施政方針演説で、安倍首相は初めて北朝鮮について「国交正常化」という言葉を使い、歩み寄りを見せている。

「北朝鮮の核、ミサイル、そして最も重要な拉致問題の解決に向けて、相互不信の殻を破り、次は私自身が金正恩委員長と直接向き合い、あらゆるチャンスを逃すことなく、果断に行動いたします。北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化を目指します」

 しかし2018年1月22日に行われた施政方針演説では、北朝鮮についての安倍首相の言葉には、いささかの妥協も許さない強い意志が感じられた。

「北朝鮮に、完全、検証可能かつ不可逆的な方法で、核・ミサイル計画を放棄させる。そして、引き続き最重要課題である拉致問題を解決する。北朝鮮に政策を変えさせるため、いかなる挑発行動にも屈することなく、毅然とした外交を展開します」

 まさにこの1年で北朝鮮に対する姿勢が180度転換したわけだが、いったい何があったのか。

独自に動けない日本

 軸となるのは昨年6月12日にシンガポールで開かれた米朝首脳会談だろう。安倍首相はトランプ大統領に拉致問題を取り上げてもらうことを確認すべく、4月に訪米した。

 実はこの時、トランプ大統領が「拉致ばかり言うな」と激怒したという話がある。そして早期のカジノ法成立を求めたとも伝わっている。実際にその直後にIR法案が衆議院で審議入りし、7月にスピード成立した。また10月にはオンラインニュースとして初めてピューリッツアー賞を得た「プロパブリカ」が、2017年2月の日米首脳会談でトランプ大統領から安倍首相に自らの支持者であるカジノ業者の名前を挙げて日本市場への参入を求めていたことを暴露している(安倍首相はこれを否定)。

 さらにワシントンポストは8月28日付けの電子版で、北村滋内閣情報官と北朝鮮の金聖美部長が7月に極秘接触したことについて米国政府が不快感を示したと報じた。もし安倍首相がトランプ大統領のご機嫌をとるためにノーベル平和賞の候補としてノーベル委員会に推薦したというのなら、これは非常に興味深い。

官邸が異論を抑えた?

 今年1月の施政方針演説で安倍首相がいきなり北朝鮮との「国交正常化」に言及したことも、翌月に米朝首脳会談の開催を控えていることと無関係ではないだろう。拉致被害家族に「被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対する意思はありません」と宣言させたのも、蜜月ムードを高めたいという米朝の思惑を忖度した結果というのなら筋が通る。

 実際にこの文言を入れることについて、家族会や救う会から異論が強く出たようだが、それを押し切ったのは官邸からの意向があったためだと聞いている。

 ある救う会関係者はぽつりとこう言った。

「5月の集会はまた荒れるだろうな」

 

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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