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【内閣改造・党新人事】 稲田朋美氏の復権とインパール作戦

安積明子政治ジャーナリスト
第4次改造内閣が発足した(写真:ロイター/アフロ)

安倍首相は「適材適所」と述べるが……

 10月2日に発表された内閣改造と党役員新人事。前者については野党から「在庫一斉セール内閣」などと批判が出ている。安倍晋三首相は同日夕方の会見で、「今回は適材適所の考えのもと、これまでに最多の12名が初入閣になった」と胸を張った。確かに法相に当選3回の山下貴司氏を抜擢などの“目玉”があり、防衛庁長官政務官や党安保調査会長等を務めた岩屋毅氏を防衛相、党IT戦略特命委員長を務めた平井卓也氏をIT担当相等に任命するのは、「適材適所」と言えなくもない。

 その一方で、原発再稼働に積極的な原田義昭氏を環境相兼原子力防災担当相に任命するなど、安倍首相が目指す方向性が見てとれる。それにしてもほとんど教育分野に無関係だった柴山昌彦氏を文相兼教育再生担当相に任命したのは驚いた。柴山氏は安倍首相が幹事長時代の2004年に公募に合格して埼玉8区の衆院補選に出馬した。いわば“安倍チルドレン”のひとりといえる。これからは、柴山大臣を通じて安倍首相の意向が文科行政にダイレクトに反映されるのか。

 意外だったのは片山さつき氏の地方創生担当相だ。元財務キャリア官僚の片山氏は、与えられた仕事は着実にこなし、一定の成果を出すに違いない。だが片山氏のようなタイプは目立つところで輝くタイプ。もっと華やかなポストの方が良かったのではなかったか。

 しかも今回の改造内閣では唯一の女性閣僚だ。安倍首相は「片山氏は2人分も3人分も存在感がある」と述べたが、花は置くべきところがある。

ポスト安倍絡みで作られた党役員人事だが……

 次に党人事だが、まず目についたのは総務会長ポストで、加藤勝信氏が厚労相から横滑りした。党3役を経験することで、加藤氏もポスト安倍を狙うひとりになったといえる。

 安倍首相が「秘蔵っ子」としている稲田朋美氏も筆頭副幹事長と総裁特別補佐に就任。これは稲田氏が安倍首相と二階俊博幹事長の2人をバックに持つことを意味する。そもそも稲田氏は二階氏に近く、昨年末に防衛相を辞任して初めてネット番組に出演したのも二階氏の紹介によるものだった。この時、稲田氏は「もう一度防衛相をやりたい」と述べたが、これでふと思い出したのがロングセラーで有名な「失敗の本質」(中公文庫)だ。旧日本軍を組織論的に研究し、なぜ日本が敗戦に突き進んでしまったのかという原因を探るこの本には、現在でも通じる教訓がある。

 「失敗の本質」はノモンハン事件、ミッドウェイ作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦そして沖縄戦という6つの事例を研究しているが、特に印象深いのはインパール作戦だ。約3万人の戦死者を出し、いわば「しなくてもいい作戦」だったこの作戦を指揮したのは、帝国陸軍の牟田口廉也中将。まったく無謀なこの作戦が作られた背景には、牟田口が盧溝橋事件での失敗を反省し、それを挽回すべく無理を強いたという事実がある。いわば自分のプライドのために、多数の人を巻き込んだばかりではなく、著しく国力を疲弊させた。時代が異なるものの、大臣辞任からまだ半年しかたっていないにもかかわらず、(しかも「史上最悪の防衛大臣」のレッテルが貼られたことも顧みず)、復権を目論んだ稲田氏と牟田口がどうしても重なってしまうのだ。

 2日の党選対委員長就任会見で「禊は済んだのか」との記者の質問に「検察の捜査が全て」と語った甘利明氏も同じだ。刑事責任と政治責任は異なるものだが、このような発言を聞くと、甘利氏には政治責任の自覚がないのではないかと思ってしまう。

 いずれも個人的な復権意欲が優先され、そこには国民の意向への配慮はほとんどない。再チャレンジが認められることも結構だが、少なくとも国政に携わる前提として、慎みは忘れないでいただきたい―と、この度の内閣改造と党役員新人事を見て思った次第だ。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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