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【自民党総裁選】 岸田氏辞退と野田氏失速。青木氏を背後に付けた石破氏の本当の狙いは?

安積明子政治ジャーナリスト
総裁の椅子はまだ遠く…(写真:つのだよしお/アフロ)

岸田氏の撤退

 安倍晋三首相の圧倒的リードが伝えられる自民党総裁選まで、あと2か月足らず。通常国会も終わり、本格的な動きが始まりつつある。その中で早々の戦線離脱宣言をしたのが、岸田文雄政調会長だ。

 岸田氏は7月24日夕方、都内にある派閥の事務所で“立候補断念会見”を開いた。2日には派閥内の若手議員との懇談で、立候補要請を受けていた。さらに岸田氏は派閥外も含めた当選1回と2回の若手議員を集め、“意見聴取”している。

「岸田さんのためにわざわざ上京したのに、出馬をとりやめたのは残念だ。会合では自分の政策を積極的に論じていたのに」

 会合を出馬の準備と見た参加者のひとりは不満げにこう述べている。

 岸田氏は安倍首相を支援することを表明したが、宏池会内の若手の間には主戦論が根強い。「ならばいっそ、木原(誠二衆議院議員)を立てたらどうか」という、勝敗を度外視した声も聞こえた。岸田氏の不出馬宣言は3年後に安倍首相から禅譲を受けることを狙ったためと見られるが、岸田氏自身の求心力の低下も危ぶまれる。そもそも宏池会には、故・加藤紘一元幹事長が“加藤の乱”で森喜朗首相(当時)の引き下ろしに失敗したという“歴史”がある。

野田氏は自滅

 3年前の総裁選では20名の推薦人を集めらずに出馬を断念した野田聖子総務相は、事務所の秘書が無許可で仮想通貨を発行していた業者を交えて金融庁から説明を受けていた問題で今回はさらに難しそうだ。野田総務相は大臣報酬を返納することで問題を収めようとしているが、自民党内ですら「アウトだ」との批判が噴出している。もっとも野田総務相が“弟分”と公言する小此木八郎防災担当相は野田支援を表明しているが、「総裁選どころか、次の内閣改造で野田氏の更迭は確定。党役員人事にも残らないだろう」との声が多数だ。

唯一残るのは石破氏

 こうして候補が次々と脱落する中、総裁選候補として残りそうなのが石破茂元自民党幹事長だ。とはいえ、石破氏が率いる水月会のメンバーは石破氏を含めてわずか20名で、自力で20名の推薦人を集めることはできない。だが政界引退後も依然と影響力を持つ青木幹雄氏元参議院幹事長が参議院竹下派に石破氏支持を指令。青木氏は同じく政界を引退した山崎拓元党副総裁にも声をかけ、12名の石原派をまとめるつもりだという。

 それでもせいぜい50名で、405名の自民党国会議員の過半数には全く足りない。そこで石破氏は国会議員票と同等の価値に高められた地方票に期待を寄せる。2012年9月の総裁選では石破氏は、第1回投票で300票の地方票のうち165票と過半数を集めた。

 しかしそれも難しいだろう。例えば7月に行われた各社の世論調査によると、自民党支持層の中ではいずれも石破氏は安倍首相に及んでいないからだ。そこで石破氏が頼みとするのが、小泉進次郎党筆頭副幹事長だ。全国的人気を誇る進次郎氏が味方に付けば、かなりの地方票を期待できる。

 それでも勝利は難しいだろう。仮に石破氏が地方票の過半数を得ても、一度では勝利を決めることはほぼ不可能。しかも第2回投票は国会議員票に都道府県票(総取り制で割り当てられる)47票を加えたもので行われ、地方票の影響は極めて小さくなる。そうなれば石破氏の勝利はない。

石破氏の本命は3年後か

 むしろ石破氏が狙うのは、3年後の総裁選ではないか。その時までに政治生命を維持するためにぶざま過ぎない戦い方をすることこそ、今回の総裁選で石破氏が狙うところではないだろうか。

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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