Yahoo!ニュース

【加計学園問題】 加計孝太郎理事長の会見が失敗だったワケ

安積明子政治ジャーナリスト
”腹心の友”は「仕事の話はしない」と言うが…(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

なんのための会見だったのか

 出てきて喋ればいいというものではないと痛感した。6月19日午前11時から開かれた加計孝太郎理事長による会見がそれだ。

 学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐって、安倍晋三首相の「身びいき」があったのかどうか。新設の小学校の名誉校長を引き受けた安倍昭恵夫人の「森友学園問題」とともに、昨年から国会審議の“中心”になっている。その間、10月に衆議院選挙が行われ、安倍首相が陣頭指揮した自民党は公示前と同じ284議席を獲得。単独過半数を維持できた“勝利”にもかかわらず、疑惑は払しょくしきれていない。

 その疑惑を深めたというよりも疑問符が付きまくったのが、冒頭の会見だ。そこには危機管理の発想のかけらも見えなかった。

 そもそも今回の会見は、国家戦略特区制度による獣医学部新設について大事な経緯をめぐる説明というよりも、「加計孝太郎理事長が2015年2月25日に安倍首相と面会した際、安倍首相が『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』と言った」と加計学園の事務局長が愛媛県と今治市の担当者に話したことが「ウソでした」という弁明に終始した会見。ウソを伝えた渡辺良人事務局長は6か月の月給10%カットの処分で、加計理事長も監督責任をとって1年間月給10%を自主返納するが、理事長職にはとどまるという。

在京メディアはずし?

 従来の加計学園の態度から考えれば、そのくらいの発表なら加計理事長が出て来なかったのではないか。なぜわざわざこの時ばかりは姿を現したのか。これについてはサッカーのワールドカップの日本戦や大阪での地震など、加計学園問題よりも報道価値の高いニュースを見計らって行われたのではないかと批判が出ている。しかも会見予定を発表したのは開催のわずか2時間前の午前9時で、それでは在京メディアは参加しようがない。

 もっとも「地元の記者クラブ所属の記者が参加したからいいのではないか」という“擁護論”もあるが、それは間違い。この問題を最も深く追及してきたのは在京の雑誌メディアで、彼らならもっと鋭く質問したはずだ。各誌は昨年からこぞって加計理事長に接触しようとしたが、果たせていない。

ガソリンプリカ問題を小さくおさめようとした山尾会見と似ている

 そうした加計理事長の“逃げの姿勢”に既視感もある。山尾志桜里衆議院議員が支部長を務めた「民主党愛知県第7区総支部」で発覚した217万円ものガソリン代の不正請求だ。事件が発覚したのは山尾氏が結成したばかりの民進党の政調会長に抜擢された直後の2016年4月だが、山尾氏が釈明会見を行ったのはそれから8か月も後の12月27日。慌ただしく名古屋市内(山尾氏の選挙区内ではない)で開かれたその会見には在京メディアの多くは間に合わず、「疑惑逃れ」と批判された。

 また加計理事長の会見時間は25分程度で、お昼のワイドショーにライブ放送を間に合わせないぞという“意地”も見える。もっとも「短時間で切り上げる」ということで油断もあったのだろう。加計理事長は安倍首相とは「何十年来の友人なので、仕事のことを話すのはやめようと」と述べたが、安倍首相は2017年7月24日の衆議院予算委員会で「(加計理事長から)時代のニーズに合わせて新しい学部や学科の新設に挑戦していきたいという趣旨の話は聞いたことがある」と獣医学部新設の件でないとしてもビジネスの話はしていたことを証言。さらに2014年には千葉科学大学の開学10周年記念式典に安倍首相が挨拶するなど、2人の関係を加計理事長のビジネスの“泊付け”に利用していた事実もある。まったく矛盾だらけではないか。

日大アメフト問題を学ばなかったのか

 しかも加計理事長が初めて公の場で発言するにも関わらず、記者との想定問答などきちんと準備された様子がないのは奇妙だ。日本大学アメフト部悪質タックル問題を見ても、手順を含めた危機管理がいかに重要かがわかるはずだ。関西学院大学の選手にタックルして負傷させた日大の選手は、5月22日に弁護士の付き添いの下で日本記者クラブで1時間にわたって謝罪会見を行い、その潔さで多くの人から支持されたが、翌日に行われた日大アメフト部監督とコーチの会見は、同大の広報担当者の仕切りの悪さもあって散々なものに終わった。そればかりではない。彼らは事実上、日大のみならずアメフト界から追放されてしまった。

 もっとも複数の大学を経営する加計学園の理事長がそれを知らないはずはない。とすれば、何が加計理事長が記者の前で喋ったことだけでその責任を果たしたと思わせているのか。

 朝日新聞が6月16日17日に行った世論調査によると、加計学園問題について「納得できない」と回答したのは75%で、日本テレビが6月15日~17日まで行った世論調査では75.7%が「納得しない」と答えている。NHKの調査(6月8日~10日)でも、加計学園の説明を「あまり納得できない」が34%で「まったく納得できない」が39%。その他の調査も傾向は同じだ。良心を持った国民の多くは、冷静な目で一連の動きを見つめている。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

安積明子の最近の記事